小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年12月号掲載巻頭カラー
『セレクト業界を震撼させたクラスストアへの変貌』
−伊勢丹本店メンズ館の大胆すぎるリモデル−
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 残暑が残る9月10日、伊勢丹本店メンズ館が68年の開設来という全面リモデルを敢行してオープンした。その戦略ポイントは1)セレクトショップと見紛うばかりのブランド編集と統一環境によるストア・アイデンティティの訴求、2)クラス・コンサバティブ/ブリッジ・アドバンス両面のこだわりブランド取り込みによる高級セレクト市場制圧、3)男性顧客主体に転換してメンズ館売上シェアを大幅向上、の3点に尽きる。
 実際、一階エントランスから入った第一印象はフルサイズの「バーニーズ」であり、大手セレクトショップ関係者からはその予想を超えた驚異と並んで、身内であり至近に店を構える「バーニーズ」の打撃を憂れう声が異口同音に聞かれたほどだ。これなら男性顧客主体へという悲願も実現し、本館に必ず付いて来た“ファッションの”という枕詞がメンズ館にも付くのは間違いない。
 セレクトショップ制圧を強く意識してか、1F〜BFの『紳士洋品・紳士雑貨』ではセレクトショップで人気の雑貨ブランド(特に欧米のファクトリー系)が充実した品揃えで取り込まれており、自主編集の『編集ショップ』が1Fのエントランスに配されている。大枠は代理店経由の消化仕入れでブランド毎の品揃えを充実させ、要のところは買取り仕入れの自主編集でスパイスを効かせるというMDは強者ならではの力技で、セレクトショップの中途半端な品揃えが打撃を受けるのは必定だ。
 最大の目玉は2Fの『インターナショナルクリエーターズ』である事に異論はないだろう。中でも『クリエーターズ・プラス』と『クリエーターズ』は、これまで取り落として来た先鋭セレクト市場を取り込む目玉中の目玉であり、エッジ系、ハイエンド・スポーツ系、スペシャルアイテム系、コンテンポラリー系の先鋭ブランドがラック群単位に編集されている。加えて、「アンダーカバー」などのストリートブランドも取り込んだ『コーナー・コムデギャルソン』のコラボレーションにも注目が集まるに違いない。
 それに較べると2Fのクリエイターズ・ショップ群はコンサバティブな選択に見えるし、「ディオール・オム」や「ドルチェ&ガッバーナ」などの旬のデザイナーズ・ブティックが並ぶ3Fも「プラダ」や「グッチ」が大きなスペースを占めるなど、営業的なバランスが取られていて先鋭な印象は欠く。
 5Fの『インターナショナルビジネス&カジュアル』では「キートン」や「ブリオーニ」のコーナーに加え、「エトロ」や「ロロピアーナ」「バランタイン」「インコテックス」などをアイテム編集したクラスカジュアル平場が大人のセレクト市場を狙ったものとして注目されるが、それを除けば営業的なバランスが取られた常識的な編成だ。
 4Fの『ビジネスウェア&コート』、6Fの『カジュアルウェア』はその名の通り既存の百貨店商財を統一環境の中に押し込めたものであり、6Fの『カジュアル平場』に若干の編集性が見られるものの、他は力技でまとめた常識的な編成だ。
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 あまりに大胆な変貌に一番びっくりしたのは、これまでのメンズ館の顧客達であろう。百貨店的らしい品揃えを求めて来店していたボリューム客は自分達向きの売場が圧縮されて行き場を失い、西口の小田急や京王の売上を少なからず押し上げている。セレクトショップに流れていたこだわりのクラス・コンサバティブ系や先鋭なブリッジ・アドバンス系の顧客は取り込めそうだが、一方的に切り捨てた顧客達を4F、6Fの常識的な売場だけでカバー出来るのか課題は残る。

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