小島健輔の最新論文

ブログ論文(アパログ2017年10月30日付)
『ユニクロ創業祭のマジック?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 「ユニクロ」の売上月指数を検証していて?というマジックに気がついた。「創業祭」が5月と11月、年に二回もあるが、5月は「誕生祭」、11月は「創業祭」と銘打たれている。これには収益を左右する浅からぬ仕掛けがあるようだ。
 ファーストリテイリングの前身たる小郡商事が宇部で創業したのは1949年の3月、「ユニクロ」一号店が広島に誕生したのが1984年の6月2日だから5月末の「誕生祭」は解るが、11月は1998年の「ユニクロ」原宿店の開店(ここからブレイクが始まった)、はたまた2005年11月の持株会社化を言うのだろうか? まあ創業なんて‘神話’は事業者の都合でどうにも書き換えられるものだから詮索しても仕方がないが、「ユニクロ」の二回の「創業祭」は営業サイクル上、絶妙な時期に設定されている。
 衣料品の売上は一般に12~1月、3月、7月にピークがあるが、とりわけ12~1月の山が高い。「ユニクロ」はフリースやウルトラライトダウン、ヒートテックなど防寒衣料が強いこともあって冬期(11~1月)に年間の36%前後が集中するが、11月をピークに12月、1月と売上が急低下していくという珍しいパターンになっている。かつては11月より12月が高く1月のシェアももっと高かったから、売上ピークの時期を動かすだけの仕掛けがあったはずだ。それが11月の「創業祭」なのだ。
 08年頃までは11月の「創業祭」は今日ほど大々的には行われておらず12月がピークだったが、年々「創業祭」が大仕掛けになって11月の売上が押し上げられ、16年から4日間が7日間に拡大されて11月が12月を逆転するに至った。「創業祭」が無ければ4ポイント程度12月にずれ込み、その分、1月バーゲンの山も高くなってしまうはずだ。「創業祭」で多少、値引き販売しても期末バーゲンでの大幅値引きを圧縮できれば、通期の値引きロスはかなり圧縮できるのではないか。5月の売上も月末の「誕生祭」で大きく押し上げられており、6月~7月の期末バーゲンの値引きを圧縮する効果が大きいと推察される。
 一般に売上のピーク月集中度が高いほど期末の値引きも嵩み、月々の売上が平準化するほど期末の値引きも少なくなる。「ユニクロ」はシーズンでも月でも売上の山谷の大きい‘好ましからざる’パターンで、‘売り切りご御免のひと蒔き’に徹して極端に売上を平準化させた「ZARA」に比べれば値引きロスは格段に大きくなってしまう。それゆえ「ユニクロ」は各アイテムの売上ピーク直前週にキックオフ(終われば価格を元に戻す短期の小幅値引き)を仕掛けて消化を伸ばし期末の大幅値引きを避けるプライス政策を採っているが、年に二回の「創業祭」も期末値引き抑制効果が大きいと思われる。年に二回!の「創業祭」は「ユニクロ」の営業政策の要を果たしている訳だ。
 年間の売上/在庫/値引きの予算設定は収益を決する営業政策の要で、投入の頻度と在庫の奥行き、期中のキックオフや値引きの仕掛け方で歩留まり率も大きく左右される。「ユニクロ」と「ZARA」は両極だが、「ジーユー」が丁度、両者のいいとこ取りを狙って中間的なパターンを模索しているのが興味深い。11月9日に開催する『バイヤー/MD/DB育成マーチャンダイジング技術革新ゼミ』では各社のMD手法/DB手法と売上月指数や歩留まり率の関係を明らかにしよう。

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