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ブログ(アパログ2018年08月17日付)
『ZARAも店を見限った!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ウォールストリート・ジャーナルが伝えるところに拠ると、ZARAは今年末を目処に世界の二千余店(4月末で2242店)でEC受注への店在庫引き当てと店出荷に踏み切るそうだ。ECで在庫が切れていても顧客の最寄店舗の在庫を引き当て、店で渡したり店から顧客に出荷して顧客の利便を図り、在庫の効率化も狙うという一石二鳥のC&C(クリック&コレクト)体制に踏み込むことになる。なんで『踏み込む』と強調するのかというと、顧客利便や在庫運用の全体最適は高まっても、店舗にとってはメリットよりデメリットの方が大きいからだ。

 

■店舗を犠牲にしてもECを伸ばすという決断

 EC受注に店在庫を引き当てて店で渡せば来店誘導効果はあるが店出荷ではそれもなく、引き渡しや出荷の業務負担が加わるのみならず、売れ筋がEC受注に抜かれて店売上が減少し、店舗の販売動向を前提とした在庫コントロールも狂うと懸念される。加えてZARAの場合、店舗マネージャーが投入商品を選択して数入れするSMIで在庫コントロールとガバナンスが成り立っており(マネージャー募集では年収の3割が成果報酬と謳っている)、店在庫をEC受注に引き当てれば運営体制の根幹が揺らぐことにもなりかねない。

 恐らくはガバナンスの混乱を避けるべく、店在庫をEC受注に引き当てても売上は店舗に計上して店舗マネージャーの成果にすると思われる。ECの地域フルフィルセンターマネージャー(店舗マネージャー同様に商品を選択して数入れしているはず)にしては欠品して地域店舗の在庫を引き当てることになるのだから、EC受注しても成果とはならず店舗に計上されるのは当然だろう。

 ガバナンスの混乱は避けられるにしても、店舗の作業負荷は否めず、地域顧客のECシフトは加速するから、『店舗を犠牲にしてもEC主導の拡大を図る』という戦略転換と受け取れる。18年1月期決算でINDITEX社のEC比率は二桁に乗り、ECを展開している48ヶ国に限れば12%に達しているから、店舗からECへ成長の軸足を移す決断のタイミングだったと思われる。

 

■ZARAの店舗網縮小はもう始まっている

 EC比率が20%前後にも達している米国のアパレルチェーンは急速に店舗網を縮小しており、早期にECを拡大したアバークロンビー&フィッチなど13年1月期から18年1月期にかけてEC比率が15.5%から27.9%に拡大する一方で店舗数は912店から679店に減少しているし、成長が続くルルレモン・アスレティカさえ18年1月期はEC比率が21.8%に達して店舗数が僅かながら減少に転じている。

 INDITEX社も17年10月末の7504店舗をピークに減少に転じており、18年4月末までの半年間で56店、ZARAも24店減っている。C&Cが拡大する欧州では18年1月期末で前期末から92店も減少しており、EC比率の高い地域から減店が広がりつつある。今回の発表を待つまでもなく、ZARA(INDITEX社)はすでに店舗販売を見限っていたと見るべきだ。

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