小島健輔の最新論文

販売革新2014年12月号掲載
企業間格差拡大の理由
『ユニクロとしまむら』
ブランド品と名もなき必需品
インフレ転換で露呈した現実
(株)小島ファッションマーケティング 代表取締役  小島 健輔

 格差が開く両雄

 デフレ期の勝ち組とされてきた「ユニクロ」と「しまむら」だが、アベノミクスでインフレに転じて以来、両者の業績は目に見えて開き始め、今春の消費増税以降は一段と格差が開いて来た。
かつてのデフレ期には『ユニクロVS.しまむら』と同列に論じられた「しまむら」だが、「ユニクロ」がグローバルブランドに化けファーストリテイリング社が快進撃を続ける一方、しまむらの業績には陰りが見える。国内「ユニクロ」の売上が09年8月期の5381億円から14年8月期は7156億円と5期間で1775億円(33.0%増)を積み増したのに対し、しまむらの連結売上は09年2月期の4108億円から14年2月期は5019億円と5期間で911億円(22.1%増)の積み増しに留まり、同期間に国内「ユニクロ」との差は1273億円から2137億円に開いてしまった。直近の14年8月期でも国内「ユニクロ」が4.7%の増収で粗利益率も3.0ポイント上昇し、営業利益率も1.3ポイント上昇して15.5%と4期ぶりに回復に転じたのに対し、しまむらの14年8月中間期連結売上は1.0%の微増収に留まり、粗利益率が32.1%と前年同期比0.4ポイント、営業利益率も7.6%と同1.2ポイント低下している。
 既存店売上の伸び率を見れば両者の勢いの差はさらに顕著だ。国内「ユニクロ」の半期既存店売上が12年9月〜13年2月期以降、前年を上回り続け、14年9月は19.7%増、翌10月も10.5%増と二桁増に加速したのに対し、「しまむら」業態(全店売上)は13年9月〜14年2月、14年3月〜8月とマイナスを続け、14年9〜10月こそプラスに転じたが国内「ユニクロ」との格差は10ポイント近い。さらに足を引っ張っているのが「アベイル」業態で、国内「ユニクロ」とは逆に12年9月〜13年2月期以降、マイナスを続け、14年6〜8月は3ヶ月連続の二桁減と低迷を極めている。
 既存店売上伸び率を客単価と客数に分解して見ると、市場が両者をどう評価しているか如実に解る。14年3月〜8月期の国内「ユニクロ」は客単価が7.7%上昇して客数が5.7%減少したのに対し、「しまむら」は客単価が2.2%の上昇に留まり客数も1.2%減少している。9月は「ユニクロ」の客単価が17.4%も上昇しても客数も1.9%増加したのに対し、「しまむら」の客単価は2.8%の上昇に留まって客数は9.1%増加している。10月は「ユニクロ」の客単価が9.8%も上昇して客数も0.6%増加したのに対し、「しまむら」は客単価が1.4%の上昇に留まって客数は1.5%増加している。
 ちょっと解り難いかも知れないが、「ユニクロ」は大幅な値上げが顧客に受け入れられ客数も落ちなかったが、「しまむら」は客数こそ多少伸ばしたが値上げが浸透せず、在庫消化に苦慮していると推察される。今春の3%の消費増税に続いて円安や現地生産コストの上昇で今秋冬商品は5%以上の値上げ(消費増税分を加えれば消費者にとっては8%以上の負担増)が避けられなかったが、市場は「ユニクロ」のバリューを認めて値上げを受け入れたのに対し、「しまむら」のバリューは認めず『安ければ買う必需品』という対応を見せたと見るべきだ。「ユニクロ」は安くても世界に通ずるブランド商品であり、「しまむら」は名も無き必需品でしかないという現実がインフレ転換を契機に露呈したのだ。

格差をもたらした六つの要因

 ブランド商品と名も無き必需品という両者の格差をもたらした要因は大きく六つあると思う。
 第一は圧倒的な単品開発力の格差で、グローバルな開発組織で素材から開発する「ユニクロ」と仕入れ調達からようやく商品開発に踏み込み始めたばかりの「しまむら」では巨人と赤子ほどの差がある。素材も品番も集約して単品量販を追求するユニクロと原則一店一点売り切り補充主義(アパレル商品のSKUあたり)の「しまむら」では売上規模以上の開発ロット格差が指摘される。円高デフレ局面では吸収出来た現地生産コストの上昇も円安インフレ局面では直接的な突き上げとなり、ロットの巨大な南アジア圏への生産地移転も敵わず、「ユニクロ」とはバリューもコストも開いてしまった。
 第二はグローバルなリテイリング技術革新の格差だ。「ユニクロ」が店舗デザインからVMD、ロジスティクスやプライシングコントロールなど先行するグローバルSPAに学んで次々と最新技術を導入し、今や彼らからベンチマークされるほどに進化したのに対し、「しまむら」は十年一日のように技術革新に背を向けている。店舗もVMDも洗練を欠いて華が無く、外資ファストファッション店に較べるとみすぼらしくさえ見える。
 第三は商品企画におけるグローバル感覚の格差だ。「ユニクロ」が欧米のプロフェッショナルを引き込んで開発チームをグローバル化し、世界の一流クリエイターとコラボして商品企画を洗練させる一方、「しまむら」は社内スタッフの海外視察を増やす程度に留まり、ローカルな市場追従に終始している。このままでは海外進出も足踏み、グローバル化する国内市場でも劣勢を余儀なくされ、外資ファストファッションや「GU」にシェアを奪われて行くと危ぶまれる。
 第四はECサイトやSNSを駆使したウェブ・マーケティングの格差だ。国内アパレルブランド最大のEC売上を誇り(「直流」物流の足枷でEC比率3.57%と伸び悩んでも255億円に達する)ウェブ広告やキャンペーンで何度も世界的な賞を獲得している「ユニクロ」に対し、「しまむら」は未だECサイトさえ立ち上げていない。これではブランディング力に大差がつくのは当然で、ECサイトから店舗に誘導するウェブルーミング効果(+10.1%)も店舗からECサイトに誘導するショールーミング効果(+9.3%)も期待出来ない。「ユニクロ」に較べると計20%近く売上機会を損失している事になる(両効果による売上加算率は当社主催SPAC研究会メンバー企業の平均値)。
第五はアジア進出の大差がもたらすインバウンド客の取り込み格差だ。国内大都市の「ユニクロ」店舗には外国人観光客が溢れているが、「しまむら」の店舗にはその姿は見られない。アジアだけでも586店舗、全世界では15カ国に633店を布陣して総売上の36.6%を海外で稼ぐ「ユニクロ」に対し(14年8月期)、「しまむら」の海外店舗は台湾の37店と上海の4店の計41店のみで(14年8月末)、しかも過去5年間で13店しか増加していない(同期間に「ユニクロ」海外店は541店も増加した)。来日外国人の知名度に雲泥の差があるのも致し方あるまい。
 第六はオムニチャネル戦略の格差だ。「しまむら」のロジスティクス体制は『産地直送+消費地補給のクロスドッキング交流物流+CVS型自社ルート便』という理想を絵に描いたようなオムニチャネル適合型で在庫回転も速く消化歩留まりも高いが、ECも手がけていない「しまむら」には猫に小判だし、オムニチャネル販売に載せる魅力的なブランド商材も持ち合わせていない。加えて、アパレルについては各店SKU一点在庫を基本とする「しまむら」は既にチェーストア物流のジレンマを超越した「ショールームストア」でもあるのに、オムニチャネル戦略を欠くため宝の持ち腐れになっている。実質「ショールームストア」なのに、量販的な棚割り陳列と美しいとは言い難い什器配置で店舗労働力を浪費し店舗環境をみすぼらしくしているのは怠慢に過ぎよう。

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 オムニチャネル化とグローバル化が相乗して加速する今日、「しまむら」は理想的なロジスティクス体制という金の鞍に座りながら、変化に対応する経営戦略を致命的に欠いている。店舗も商品も魅力を失ってみすぼらしく、顧客に夢とバリューを提供出来ないまま、インフレ局面ではジリジリと肥大するコストに飲み込まれて収益力も損なわれて行く。
 比類なきロジスティクス・インフラを活かしてオムニチャネルに変貌させれば、ファーストリテイリング社はもちろんセブン&アイ・ホールディングスをも震撼させるエクセレント企業に化ける金の卵だけに、現経営陣の怠慢が惜しまれる。 

hankaku1412

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