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『「SHEIN」のサプライシステムはADAS(自動運転)感覚』(2021年10月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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欧米やオーストラリア、中東諸国やアジアのみならず日本のZ世代も魅了して20年の年商は1兆円を超え(21年は1兆5000億円ペース)、企業価値150億ドルとデカコーン企業の仲間入りしてINDITEXやH&M、ユニクロの牙城を脅かすDX武装越境ECファストファッション企業「SHEIN」のビジネスモデルは多くの識者が解説しているが、連日3000点以上を新規投入しながら在庫リスクを最小に抑えるDXとAI仕掛けの小ロット超高速反復生産システムにはADASと共通するロジックを感じる。
 ADASでは複数のカメラやミリ波レーダーの情報をAIが一秒間に数十回も判断してブレーキやハンドルを速攻で操作するが、人間の判断速度は格段に遅いし、決断してからブレーキやハンドルを操作するまで秒近く要し、高速運転ではその間に車は数十メートルも移動してしまう。AIの判断にズレがあっても毎秒数十回も修正されれば人間の判断より高精度に収斂し、遥かに速く状況に対応できるから安全性も高くなる。判断も動作も遅くなる老人など、ADASに任せるのが賢明だろう。
 これをアパレルの企画から生産までのプロセスに置き換えてみると、DX以前では企画からスクリーニング、仕様設計とコスト計算、販売数量予測、サンプル検討と修正の繰り返しで何週間も要した。そこからバイオーダーの素材を確保して副資材を手当てし、マーキングや編み図設計して生産に仕掛かると、企画開始から製品化まで数ヶ月、大量かつ低コストな生産を志向すれば半年以上を要してしまう。デジタル企画が生産ラインのCADCAMと連携する最新のDX生産でも、人の組織が勘案する企画プロセスを短縮するのは限界があり、3Dモデリングを駆使して4週間を1週間に短縮できても1日や1時間に短縮できるはずもない。
「SHEIN」ではベンチマークしたECサイト群をAI制御のクローラが巡回し自動解析して合成したデザインを3Dパターンに落として3Dモデリングで企画を決定し、DX連携した小規模工場がCADCAMで100点程度のミニマムロットを数日で生産。初期ロット商品をインフルエンサーが着てSNSに紹介しECサイトに誘導し、日々の受注やレスからAIが毎日の受注数量の推移を予測して誤差を収斂しながら100点単位の小ロット生産を反復していく。ADASのように1秒に数十回とまではいかないが、おそらく週サイクル(一部は週2サイクルかも)で反復生産を繰り返し、「売れる要素」を引き継いで類似デザインを素材を変え柄を変えバリエーションを広げ、リレーして拡充していると思われる。「SHEIN」の創業者 許仰天氏はSEOから入ったネットエンジニアだと伝えられるから、そんなSFチックな仕掛けもごく自然な発想だったのだろう。
「Redcollar」(DX仕掛け一週間POの元祖)が扉を開き「SHEIN」でSFの域に到達した中国先進アパレル企業のDXとAIサプライマネジメントは、もはやアナログな業界人の理解を超えたフューチャーエンジニアリングの領域だ。もはや「メイド・イン・ジャパン」なものづくり神話などローテクはビジネスの武器にはなり得ず、低価格の次はDXとAIでデジタル先進国の中国にデジタル後進国の日本市場が蹂躙されていくのも時間の問題かも知れない。
以上は様々な識者が伝える情報からの類推だが、人の組織が手順を踏み長い時間をかけて行うプロセス(精度が上がる一方、時差による誤差も広がる)をAIとDX仕掛けで超高速に繰り返すロジックはまさしくADASと共通している。AIに透明性・説明性(ホワイトボックス)を求めるのは脳の回転がついていけない人間の恐怖心に過ぎず、現実の技術革新は人間の検証能力を遥かに超えた自動学習(ディープラーニング)でブラックボックス化へ突っ走っている。
多くのSFで描かれて来たコンピュータ(AI)の反乱は、人間の脳の処理能力や組織の決定速度がAIについていけない現実を危惧したもので、「1984」(1949刊、ジョージ・オーウェル)で描かれたオセアニアが習近平の中国共産党によって現実化された例を見るまでもなく、そんなSFの多くが現実になっていくだろう。

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