小島健輔の最新論文

繊研新聞2009年3月31日付掲載
第102回全国有力SCテナント調査2008年冬商戦(11〜1月)
『ピンチはチャンス!!』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

統計史上最低値を記録した冬商戦

 リーマンショックを契機とする金融恐慌に直撃された冬商戦は釣瓶落としに急落し、百貨店婦人服洋品は87.9と昨冬から9.6ポイント、百貨店紳士服・洋品は88.6と同9.5ポイント、レディスブランド/ストアは89.1と同10.0ポイント、メンズブランド/ストアは89.2と同8.6ポイントも水準を落とし、メンズはバブル崩壊の93年以来、レディスは本統計開始以来の歴史的低水準を記録した。
 割高な百貨店の落ち込みが際立ったがSCも月を追って低迷を深め、堅調を守って来た駅ビルも春商戦に入っては息切れが目立つ。2月はセールばかり売れてプロパーが動かず百貨店は歴史的な落ち込みを記録。3月に入ってもプロパーの値崩れが激しく、客数減に単価減が重なって低迷が深まるばかりだ。

総崩れとなったレディス

 冬商戦では41ブランドが脱落する一方、11ブランドが加わるのみで、好調ブランドは26に激減。全ゾーンが秋商戦から4〜10ポイントも低下し、セクシーガールもセレクトショップも失速して全ゾーンが水面下に沈んだ。とりわけラグジュアリープレタ/グッズは低迷を深めて8掛け状態となった。タイプ別で好調に加速したのはワーキングガールのモードミックスキャラクターだけ、減速ながら好調を保ったのもセクシーガールのコーストカジュアルだけ、堅調を保ったのも同グラマラスモードだけだった。他は悉く失速し、大半のタイプが水面下深く沈み込んだ。
 トゥイーンズでは「ピンクラテ」、ヤングでは「ミスティック」が好調組に加わったのみで9ブランドが脱落。セクシーガールではグラマラスモードの「リエンダ」が加わったのみで3ブランドが脱落。「ココルル」は絶好調を継続。前比はまだないが「バックス」の台頭が注目される。絶不調のワーキングガールではモードミックスの「ナイン」とグラマラスモードの「ベネフィット」が加わったが8ブランドが脱落。「グレースコンチネンタル」は好調を継続した。  セレクトショップは勢いを失って3ブランドが脱落。低迷するクリエーターズでは「ヒステリックグラマー」が加わったのみ。ストア型SPAでは「グリーンパークストピック」「アーノルドパーマータイムレス」が加わる一方、8ブランドが脱落した。
 トランスキャリアとミッシーは各2ブランドが脱落し、好調ブランド皆無となった。キャリアでは2ブランドが脱落して「キャシャレル」が加わった。ミセスでは3ブランドが脱落して「ヨーコドール」が加わった。プレタは好調ブランド皆無を継続したが、ミッシーエレガンスプレタの一角は堅調を保った。ラグジュアリープレタは低迷を深めて全滅状態となったが、「イヴサンローラン・リヴゴーシュ」だけが突出した。ラグジュアリーグッズは一段と低迷を深め好調ブランド皆無を継続した。

恐慌に直撃されたメンズ

 メンズは恐慌の直撃を受けて全ゾーンが水面下に沈み、中でもビジネスとプレスティージは大きく落ち込んだ。6ブランドが脱落する一方で新たな好調組は3ブランドに留まり、好調ブランドはわずか6ブランドになってしまった。
 ヤングは好調継続のエクストリーム系に「モダン・ラヴァーズ」が加わるも低迷を継続。ヤングアダルトは低迷を深めて2ブランドが脱落。クリエーターは急失速して好調ブランド皆無を継続。スポーツ&ジーニングも低迷を深めて好調ブランド皆無を継続した。コンテンポラリーは二桁割れに陥ったが「ランバン・オン・ブルー」が好調に突出。アダルトとビジネス、プレステージは8掛け状態となって好調ブランド皆無を継続した。
 ストアも低迷を深めて好調ブランド皆無を継続。SPAは失速して4ブランドが脱落し、「ユニクロ」だけが突出した。セレクトショップも低迷し、好調ブランドは見られなかった。
 割高な百貨店には閑古鳥が鳴きセレクトやSPAも勢いを失い、エクストリーム系と「ユニクロ」だけが気を吐くという凍り付いた冬商戦となったが、雇用や所得にまで恐慌が波及する春夏商戦は何処まで落ちるのか、想像するだけで恐ろしい。

7掛け価格を決断せよ

 輸出が半減し生産が9掛けに萎縮し製造業が95%もの大減益になる中、失業率はまだ4%強、消費支出は9%減、百貨店売上も9掛け弱に踏み止まっているのは企業努力やラチェット効果による執行猶予に過ぎず、失業率の上昇と消費の一段の底割れは避けられない。そんな中、インサイトが仕掛けた7掛け価格はプリウスの価格も大幅に引き下げ、壁掛けTVやデジカメ、パソコンなど家電の値崩れは加速するばかり。アパレルの世界でもジャージのテーラードジャケットやフェイクレイヤード・ワンピースなど破格プライスの‘お徳アイテム’が氾濫しており、ここ数カ月で価格の常識は7掛けになった感がある。駅ビルやSCの店頭では、もはや「H&M」や「ユニクロ」の価格は特別な物ではなくなった。
 法外な歩率が乗った百貨店価格も、ここまで顧客が他チャネルに奪われ価格要求がシビアになって来ると抜本的に是正せざるを得ない。既に一部の聡明なアパレルは正価の大幅な切り下げを決意して百貨店に歩率の圧縮を求めている。百貨店でも食料品はまだ堅調だが、その最大の要因は魅力と価格が見合ったバリュー競争力だ。なぜなら百貨店でも食料品の歩率は衣料品の4〜5掛け程度と駅ビル並みで、他チャネルと較べて十分な競争力があるからだ。食料品部門では既にレジ打ちも包装も納入業者に任され人員がミニマムに削減されており、衣料品でも同様の改革を行なえば食料品部門並みの歩率が実現出来るはずだ。さすれば衣料品の価格は7掛けに是正され、百貨店の凋落にも歯止めがかかるのではないか。聡明な百貨店経営者の英断が待たれる。

ピンチはチャンス

 生産が萎縮し価格が急落して雇用が脅かされる中、消費は一段と冷え込まざるを得ない。が、ピンチはチャンスでもある。98〜00年の円高局面ではドルは32.1%、ユーロは17.6%、人民元は17.8%下落してアパレル製品の輸入単価は29%近く低下し、ユニクロは一気に品質を向上させて今日の地位を確立したが、今の円高局面もそれに近いものがある。当時もデフレが加速したが、それは同時にコスト革新や品質向上のビッグチャンスでもあったのだ。この機会にインテリアの製造物流小売業ニトリのように生産・調達やロジスティクスの革新を仕掛けて7掛け8掛け価格(品質の大幅向上でも良い)を実現する者と動かない者の明暗は一気に開いてしまう。貴社はどっちの側になるのだろうか。

sk090331

論文バックナンバーリスト