小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『コロナ自粛でわかった「過剰消費大国・ニッポン」の不都合な真実』
(2020年04月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

コロナウイルス蔓延でロックダウン寸前まで追い詰められた危機的状況下、消費は生活維持に必要なミニマルまで萎縮し、期せずして「エシカル消費」が実現しているが、パンデミックが収まった後も消費が元に戻るとは思えない。

エコミニマルで環境に優しいエシカル消費を謳うのがサスティナブルだと企業ブランディングのトレンドになっているが、このままエシカル消費が続けば経済循環が萎縮して現代文明が崩壊しかねない。

それは温室効果ガスが地球温暖化と環境破壊をもたらすという美しき世界的キャンペーンも同様で、人類活動が生み出す温室効果ガスが辛うじて食い止めている氷河期の再来を許し、人類が8000年かけて築いて来た文明を根底から崩壊させるリスクがある。

エシカル消費が文明を滅ぼす…?

「環境に優しい」は好ましいが、「リサイクル」や「ミニマル消費」が広がりすぎると不要不急な新品の消費が萎縮し、所得や雇用も萎縮して経済が縮小スパイラルに陥り、過剰消費が支えてきた現代文明を崩壊させるリスクが指摘される。

エシカル消費を極めれば産業革命以前の農耕経済に戻って経済規模も人口も劇的に萎縮し、現代文明は滅んでしまう。

そんな極端なことはあり得ないと思うかも知れないが、この一ヶ月ほど、我らはエコミニマルなエシカル消費を実体験している。所得も資産も脅かされて明日の生計が見えず、マスクなど衛生用品はもちろん生活必需品の入手さえ細る実情下では、エコミニマルに徹するしかない。

それがどれほど消費と経済を連鎖的に萎縮させ、世界恐慌さえ危ぶまれるほど深刻な状況を招いているか、誰もが実感しているはずだ。

「過剰消費」と「莫大な無駄」で成り立つ現代社会

産業革命以降の経済拡大は、エシカルに考えれば壮大な無駄の相乗効果の上に成り立ってきた。

それが環境を汚染し経済格差を広げ様々な軋轢を招いてきたとしても、人類を7億人(1750年)から77億人に増やした事実を無視してはなるまい。

もしも産業革命以前の環境に優しいエシカル社会に戻るなら、世界人口は十分の一に戻ってしまう。その過程でどれほど阿鼻叫喚な悲劇が繰り返されるか、想像に難くない。

現代文明は過剰消費と莫大な無駄によって規模と循環を保っているのが現実であり、美しきエシカル消費が蔓延すれば崩壊してしまう。百貨店やファッション業界など過剰消費と無駄を否定しては存在さえ危うい。流通の無駄は不毛だが、消費の無駄は文明を支える“美徳”だ。

美しき“エシカル”トレンドに便乗するのもほどほどにして、パンデミックが収まったら、現代文明が崩壊しないよう各業界が総力をあげて過剰消費を煽るべきだろう。

現代文明は過剰消費と莫大な無駄によって規模と循環を保っているのが現実であり、美しきエシカル消費が蔓延すれば崩壊してしまう。百貨店やファッション業界など過剰消費と無駄を否定しては存在さえ危うい。流通の無駄は不毛だが、消費の無駄は文明を支える“美徳”だ。

美しき“エシカル”トレンドに便乗するのもほどほどにして、パンデミックが収まったら、現代文明が崩壊しないよう各業界が総力をあげて過剰消費を煽るべきだろう。

確かに1970年代以降、とりわけ今世紀に入っての温暖化は急ピッチで、我が国の西日本や中部の太平洋側は亜熱帯化し、100年で3度近くも年間平均気温が上昇している。しかし温暖化したのはこの50年間で、40〜60年代は寒冷化が危ぶまれていたし、17〜19世紀前半の小氷期には世界中が飢饉に見舞われて数千万人の餓死者を出し、農業が破綻して農民が都市労働者化し産業革命の契機となった。

さらに時間の物差しを伸ばせば、過去6000年間の寒冷化をこの100年で帳消しにしたという見方もできる。

 

地質学的レンジで見れば、最終氷河期のピークは2万2000〜2万3000年前で今日より年間平均気温は7度ほど低く、北日本の山岳部と北海道は永久凍土に覆われ、海面は120メーターも低かった。

1万7000年前頃から暖かくなり始めたが幾度か寒冷に戻る時期を繰り返し、1万1600年前に急速に温暖化して(1〜3年で7度)8000年前に温暖化のピークを迎え、6000年前から寒冷化に転じている。

日本でも縄文期は今以上に温暖で(年間平均気温で2度ほど高かった)、海水面も地域によって今日より10メートル前後も高く、関東では大宮台地まで海岸線が迫っていた。

2万3000年サイクルのミランコビッチ理論(地軸の歳差運動と公転軌道運動)から見ても、太陽黒点活動から見ても、とっくに次の氷河期に入ってもおかしくないが、それを食い止めているのが人類の文明活動が生み出す温室効果ガスだと様々な分野の学者が指摘している。それも産業革命以降ではなく、CO2濃度は人類が焼畑農耕を始めた8000年前から、メタン濃度は水稲耕作が始まった5000年前から顕著に増加している(中川毅「人類と気候の10万年史」)。

まず食料が消える…!

太陽活動も過去4000年続いた活動期が終わって2019年には黒点出現が2008〜09年と並ぶ極小値を記録し、2025年頃からダルトン極小期(1800年代前半の40年間)のような寒冷期に入る可能性が指摘されている。

ロシア科学アカデミーも、2030年までに小氷期入りする確率は97%と発表している。

IPCC(気候変動に関する国連政府間パネル)は今後の100年で最大5度の温暖化を予測しているが、小氷期に入れば数年でそれ以上の寒冷化が進んで17〜19世紀前半の小氷期を上回る飢饉に見舞われ、農業も畜産業も破綻して現代文明は壊滅的打撃を受ける。近年の異常気象は安定した温暖期から小氷期へ転ずる前兆と見るべきかもしれない。

温暖化は環境を損ない海水面を数十センチ(IPCCは2100年までに26〜82センチと推計)上昇させるかもしれないが、それによって多数の犠牲者が出るわけでも現代文明が破綻するわけでもない。飢饉によって数千万人が餓死し現代文明を破綻させるかも知れない寒冷化の方が桁違いに恐ろしいのだ。

寒冷期入りが現実となれば、まず打撃を受けるのが農業ついで畜産業であり、工業化と消費依存が進んだ現代文明の薄い食料生産剰余と備蓄は1〜2年で尽き、飢餓が世界を蹂躙する。

93年の冷夏では米の作況指数が74に急落して100万トンの政府備蓄が一瞬で吹き飛び、緊急輸入に頼る結果となったが、世界的な飢饉となったら輸入には頼れず、政府の備蓄は一年で潰える。主食用米の消費は当時の1026万トンから19年は726万トンに減っているが、その分が小麦(主にパン食)にシフトしており、世界的飢饉となれば小麦の輸入も途絶える。

「効率化」より「安定化」へ

2018年の主食用米の自給率は98%だったが小麦は12%しかなく、即蒸発してしまう。

自給率が高い主食用米にしても、民間の流通在庫は2〜3週間分ほどしかないから、パニック的な買いだめが起きれば一時的には店頭から在庫が消えてしまう。

生産・出荷段階には十分な在庫があるから一時的な買いだめには対応できるが、トイレットペーパーやマスクのように短期に増産できるものではなく翌年の収穫を待たねばならないから、飢饉が翌年も続くと政府の備蓄も尽きてしまう。

そんな事態に陥らぬためには、食料の備蓄率を高め、流通在庫を厚くし、抜本的には自給率を高めるべきだが、効率化と付加価値化ばかりが追われ、安定供給が軽視されてはいないか。

コロナパニックでそれを実感したら、遠くない将来の飢饉に備え、抜本的な対策を講じるべきだろう。

論文バックナンバーリスト