小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年09月12日付)
『アパレル流通破綻の歴史的経緯を知り未来を開く』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 需要に倍する供給でアウトレットやファミリーセールで叩き売っても過半が売れ残る破綻状況に至ったには四半世紀に渡る三段階のパラダイム転換があり、その遠因は70年代にまで遡る(計五段階)。それは変化の歪みが積み上がって破断する断層地震的パラダイム転換の繰り返しであり、「10年毎」など定期的なものではないが、起こった日付や時期は特定できる場合もある。

 

[70年代]若者文化と卸流通のブランドビジネス揺籃期

 70年代は団塊世代が若者となって都市に流入し、ファッションが最大の関心事となって毎シーズンのトレンドを競うという今日では信じ難い光景が街角やディスコに溢れていた。ブランドビジネスとファッションシステムの揺籃期であり、80年代に花開くDCブランドの大半が産声をあげ、マンションメーカーとブティックとファッション誌が三位一体になってトレンドを仕掛ける民衆的ファッションシステムが成立した時代と位置付けられる。なんで“民衆的”かというと、60年代は合繊メーカーがTVなどマスメディアでトレンドを仕掛ける“帝政”ファッションシステムの時代だったからだ。

 

[80年代]DCブランドと直営店展開のブランドビジネス発展期

 70年代まではテキスタイルと製品段階で需給調整が作動する垂直分業の卸流通が主体で、分割払いや売れ高払いであっても買い取りが常識だったが、80年代に入る頃からブランドの直営店(インショップ含む)が広がって百貨店では委託仕入れや消化仕入れに替わり、駅ビルやファッションビルではブランドの直営店やFC店が目立つようになった。それと並行するように70年代に確立された買取型のFCが行き詰まり、販売代行型のFCが主流となっていった。

 DCブランドがブレイクしてDCアパレルとファッションショー業者、ファッションビルと販売代行FC、ファッション誌、五位一体のファッションシステムが成立したが、ブームを支えた世代が大人になると一気に冷却し、80年代も後半にはインポートブランドブームに移行して行った。

 

[90年代]生産のグローバル化と低価格化のSPA揺籃期

 80年代末期の東西冷戦終結によって旧社会主義圏が西側の生産圏に組み込まれ、西側先進国では生産の空洞化とデフレが急進。遅れをとった我が国はバブルが崩壊して「失われた20年」の長いトンネルに潜り込んで行った。

 売上の急落を利幅で埋めようと百貨店が歩率を嵩上げ、百貨店アパレルも同率に原価率を切り下げ(8年間で13ポイント)、中級品も中国生産に切り替わって国内産地は空洞化し、お値打ち感を損なって00年以降の駅ビル/SCシフトを招くことになる。

 経済の低迷とデフレに応えたのが手頃なストリートカジュアルと低価格SPAで、前者は「渋カジ」に始まって「ギャルカジ」に至り、後者はナショナルチェーンに始まって「ユニクロ」が制した。

 

[00年代]オーバーストアと過剰供給のSPA発展期

 ここからは起点となった日付が特定できる時代で、00年3月1日に施行された改正借地借家法と6月1日に施行された大店立地法がアパレル流通を一変させた。

 前者によって定期借家契約が導入されて出店費用が激減した一方、営業権が無くなって営業継続が担保されなくなり、店は資産から利用権に変質した。後者によって全国の商業施設はなべて2時間ほど延刻され、売上は増えないまま運営コストが肥大し、人手不足が恒常化して店舗運営の質も低下してしまった。

 アパレルは百貨店から駅ビルやSCに逃げ出したものの、運営コストの上昇に加えて規制緩和による商業施設の開発ラッシュでオーバーストアが急進し、販売効率は年々低下。アパレルは収益を確保すべく販売力以上にロットを水増して調達原価を切り詰め、お値打ち感を損なってさらに売上を落とし、セールを繰り返しても売れ残り在庫が積み上がるという悪循環に陥った。

 

[10年代]消費のグローバル化とECシフトの転換期

 10年代の起点は08年9月13日のH&M上陸と翌々日15日のリーマンブラザーズ破綻に始まり、失速する経済を支えようと先進国中央銀行がバラまいたマネーが途上国に流れて発展が急加速し、生産圏から消費圏に移行してファッションは一気にグローバル化。グローバルSPAが世界を席巻して各国のローカルカジュアルが壊滅的な打撃を受けた。

 追い打ちをかけたのが11年頃からのスマホの普及とECの台頭で、13年からのアベノミクスによる少子高齢化を支える一億総労働力化政策も加わって女性の労働力化が急進。時間を要する店舗購入から手間要らずのECに消費が流れ、アパレルの店舗販売は急速に翳って行った。さらに追い打ちをかけたのがメルカリなどC2CやB2Cのリセールとレンタルなどサブスクリプション消費で、溢れかえる流通在庫と箪笥在庫が新品流通を圧迫するという事態に追い込まれている。

 

[20年代]D2CとIoTのニューリテール革命期

 まだ1年以上先だが、もう答えは見えている。アパレルはコストが高く在庫が分散する店舗販売に見切りを付けてEC軸の成長に割り切り、店舗網を縮小してショールーム化、あるいは店舗を持たずポップアップを巡回して顧客を開拓するD2Cに徹していく。Makuake型からパーソナルオーダー型まで受注先行の無在庫D2Cが様々に広がり、IoTで時間単位の生産が当たり前になる。ECにも店舗にもAIが導入されて販売員に代わり、決済もモバイル軸IDでキャッシュレスになる・・・・・

 

 そんな明日へのシナリオをデータと先進事例を揃えて詳説したのが私の新著『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』であり、10月10日に開催する『FB再生 ビジネスモデル革命ゼミ』では70年代からの構造変化を詳しく論証してFB再生の7つの施策を提じるとともにニューリテールの未来を描き、10月17日に開催する『ポストECのニューリテール戦略ゼミ』では無人店舗の進化と死角、三段階のショールームストアや無在庫D2Cを実現するECプラットフォームと物流ロジック、IoTな生産工程再設計、それらに至る業務改革の手順まで踏み込みます。

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