小島健輔の最新論文

Japan Innovation Review(JBpress)
『集中戦略と分散戦術』
(2023年10月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 70年代から今日に至る日米小売業の変遷を見てきたが、チェーンストアの基本的な強さは調達の集中と店舗運営の標準化による規模の利益、運用の分散と個店・個客対応による市場密着、という相反する戦略と運用の組み合わせ次第というのが実感だ。オムニチャネル化してOMOが定着した今日では、戦略は集中してプラットフォーム化、運用は分散してローカライズ/パーソナライズと言えば良いのだろうか。アパレルと食品を比較しながら考察してみたい。

 

■集中と分散を繋ぐディストリビューションのケーススタディ

 調達・生産も物流もロットをまとめるほどコスパが良くなるから(トレード・オフでタイパは悪くなる)場所もタイミングも集中したいが、販売は個別消費者のニーズに基づくから場所もタイミングも顧客に寄り添った分散が必定で、在庫の配備・配分・補給・移動のディストリビューションで相反する両者をつなぐ必要がある。

 ディストリビューションも集中運用システムと分散運用スキルの両輪で、ジャスト・イン・タイムにもジャスト・イン・ケースにも対応しなければならない。販売が計画と大きくズレることなく補給が継続される間は本部集中管理でジャスト・イン・タイムのアルゴリズムによって淡々と運用されるが、計画と大きく乖離したり補給在庫が途絶えればローカル分散管理でジャスト・イン・ケースの属人的運用に移管する必要が生じる。どのタイミングでどう移管するかは商品特性や店舗網の地勢的広がり、ロジスティクス体系や組織運用思想によって異なるが、必ずしも事業規模には左右されないようだ。

 アパレルの初期配分はナショナルチェーンでは商品部と連携するDB.セクション、ローカルチェーンでは商品部のアシスタントバイヤー、支店経営チェーンではストアの部門マネージャーが担い、補給はチェーン規模に関わらずEOSで自動化(店舗間の振替も含む)されているが、シーズン末のエリア内移動・集約はナショナルチェーンでもエリアマネージャーやスーパーバイザー主導に移行するのが一般的だ。

SPAの元祖とされるギャップはセオリー通り、大ロットにまとめたリードタイムの長いオフショア生産品をDCに積んで、初期配分・補給からシーズン末の店間移動・集約・売価変更まで本部のDB.セクションが担っていたが、数字データとアルゴリズムだけではエリアや個店の営業事情や在庫バランス(コーディネイトするアイテム間のサイズバランスやカラーバランス)までは掴みきれず、SKU別消化管理・売価変更を駆使してもアイテム個別最適に陥って店舗の販売消化力を引き出せず、値引き販売の常態化から抜け出せなくなって業績が落ち込んでいった(12年間、売上が停滞し、23年1月期は営業赤字に転落)。

米国のジーンズカジュアルチェーンでもバックル(23年1月期末で441店舗)はギャップと真反対で、リージョナル/エリアマネージャーの権限が大きい。初期配分への関与は分からないが、在庫の偏りによるリージョナル/エリア内の店間移動や売価変更、シーズン末の売り切り集約を担っており、全店一斉セールはせず在庫を再配置・集約して値引きする店舗を限定している。57%を占めるセレクト仕入れとJB、PBを組み合わせて23年1月期は59.4%の粗利益率と5.9回の在庫回転で24.4%の営業利益率(全米アパレルチェーン首位)を確保している。

千店超スケール(23年9月20日で1412店)の「ファッションセンターしまむら」はTCのみで補給在庫を抱えないから店舗在庫のリージョナル内自動振替で欠品補充し、初期配分からシーズン末の売り切り集約・売価変更まで、商品部のカテゴリー別バイヤーと連帯責任ペアを組むDB.が担う。売上規模が大きい分、カテゴリーは細分化されコンピュータ・アルゴリズムも活用しているが、ローカルチェーンのアシスタントバイヤーと役割は大差ない。SKU在庫をミニマムに抑えた「横売り」と相まって23年2月期の値下げ率は6.1%とアパレルチェーンとしては異例に低く抑制され、仕入れ型ゆえ40%弱と低い値入れでも33.2%の粗利益率を得て8.7%の営業利益率を確保している。

94ヶ国に1885店(23年1月期末)を展開する「ZARA」(INDITEX)は調達ロットを一型平均5万点(デザインアウターなどは2〜3万点)に抑制し、裁断パーツと副資材供給、あるいは素資材とマーキングCADデータ供給で短納期調達し、何処にも補給在庫を抱えず、ひと蒔き無補給に徹している。売上規模も利益規模も世界最大のSPAでありながら調達ロットはH&Mに比べれば一桁少なく、ユニクロの定番アイテムに比べれば二桁少ないから、各店舗の部門マネージャーによる毎週のオンライン発注入札で短時間に全量、配分が決まる。

世界の何処で生産した商品も本国TCに集約して物流加工・自動仕分けして世界中の店舗に出荷しており、RFIDインレイを内装した防犯タグもTCで装着される。コスパよりタイパを重視する経営思想ゆえロットをまとめるコンテナ船の利用は例外的で、遠隔地はチャーターの航空便、近隣地は同トラック便を使っており、物流が混乱したコロナ以降は遠隔のアジア生産を縮小して近隣の北アフリカやトルコへ生産地をシフトしている。

数入れ発注した各店の部門マネージャーが消化責任を担うから原則、期中の店間移動は行われないが、店舗で消化しきれずシーズン末に在庫が偏在するようなら、本部のカントリーマネージャー(スーパーバイザー兼コントローラー)が介入して店間移動が行われるようだ。その分は各店舗部門マネージャーのペナルティになり、インセンティブから差し引かれるのだろう(年俸の70%は固定給で残りはインセンティブで上下する)。

INDITEXは23年1月期、前期から17.5%も売上を伸ばし(19年比も15.1%増)、67.0%の粗利益率と4.50回の在庫回転で16.9%の営業利益率を稼ぎ、SPAとしては極めて例外的に一兆円近い回転差資金も得ているから、タイパもコスパも両立出来ている。

※JB(Joint Private Brand)とPB(Private Brand)・・・小売業が仕様書発注して一括調達するPBに対してJBはサプライヤーが企画と補給を分担する協業開発

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とPC(Process Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。PCは食品小売業において生鮮品や惣菜の仕入れと加工、包装、出荷を一括する地域拠点。

※縦売りと横売り・・・同一品を補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイを揃えて少量を売り切っていくのが「横売り」。

※マーキング・・・・デザインを縫い代も確保した工業パターンに落として縫製パーツに分解し、柄の合わせや織地の方向に違和感がないよう無駄なく使えるよう一定幅の生地にパーツをレイアウトする工程。

 

■在庫配置も後方集中か前進分散か

 INDITEXはコスパよりタイパを重視すると解説したが、鮮度を要求される生鮮食品、即配を求められる日用品や薬品、OA消耗品などもタイパを重視せざるを得ない。となれば、本部集中調達か消費地分散調達か、在庫の後方集中配備か消費地前進分散配備かというロジスティクスの選択を迫られることになる。

 食品スーパーはナショナルチェーンよりローカルチェーンの方が強いと言われるが、地域のライフスタイルへの密着度に加え、地産地消のロジスティクスメリットが大きいからだ。各生産地から中央の市場に集めて各消費地に再分散するハブ&スポーク型流通は全国区の宅配便同様、載せ替えや夜間の長距離移送などで時間もコストも嵩み、鮮度も落ちてしまうから、生鮮品などでは致命的に不利になる。中央市場軸のハブ&スポーク型流通はオンライン販売同様、全国に売り先を広げるメリットは大きいが、鮮度や利便の競争になると地産地消に敵わず、オンライン販売でも消費地への前進分散配備が不可欠になる。

 アマゾンはカテゴリー別の調達品をリージョナル別に組み替えるクロスドッキングセンターを起点として、各リージョナルのFC(フルフィルセンター)からローカルのデリバリーステーションに前進配備して配送のリードタイムを短縮している。日用品の「アマゾンパントリー」は上記のプロセスを使っても、生鮮食品を含む「アマゾンフレッシュ」は大都市圏に集中したリージョナルFCに生鮮食品を直接集荷して宅配出荷し、地域需要が高まれば宅配はデリバリーステーション経由に切り替えている。

 スーパーマーケットチェーンのネット・スーパーも店舗出荷型とFC出荷型があって、前者は前進分散配備の近隣商圏対応、後者は後方集中配備のリージョナル商圏対応と性格が分かれる。店舗出荷型でも店舗までの物流はリージョナルのDCやPC(プロセスセンター)を経由するし、FCはリージョナルDCに相当して生鮮加工品や惣菜はリージョナルPCから供給されるから、リージョナルDC/ FCまでのロジスティクスは同様だが、以降は違って来る。

 FC出荷型では自動化で大量ピッキングのコストと時間を抑えても、宅配効率を確保するには宅配圏を絞る必要があるから(大都市圏では半径5km、ローカル圏では同10〜15kmと言われる)、方面仕分けして宅配圏毎のデリバリーステーションまで中型トラックで移送し、そこから軽バンなどで宅配することになる。店舗出荷型でも方面・指定時間帯別の仕分けは必要だから、ローカル内の数店舗でピッキングした商品を仕分けする宅配TCを挟む場合があり、注文規模が大きくなって店舗のピッキング(人手と在庫)が追いつかなくなると専用のダークストアを設けるようになる。

 それではFC出荷型と同様になりそうだが、運用は根本的に異なる。FCはリージョナル対応で間にデリバリーステーションを挟むが、ダークストアはエリア対応だから方面仕分けして直配し、店舗ピッキングと並行することもある。リージョナル対応で大量高速ピッキングが求められるFCが高度に自動倉庫化されるのに対し、そこまで大量でなく柔軟な運用が求められるダークストアのピッキングは人海戦術の範囲に収まる。

 店舗販売でもネット・スーパーでも調達はリージョナル単位であり、生鮮食品やPC加工品はリージョナル単位で地産地消が回される。かつては本部一括で集中調達していたナショナルチェーンも、生鮮品や日配品の多くはリージョナル調達に切り替えている。

海外生産の衣料品も、しまむらは生産地で物流加工(品番バンドル化)してリージョナル別に仕分け、陸上げ地からリージョナルTCに運んで店舗別に自動振り分けし、各店舗に自社ルート便で配送している。DCに補給在庫を持たない店舗在庫のみの前進分散配備型で、それはINDITEXも同様だ。ハニーズはリージョナルTCも自社ルート便も持たないから、生産地で物流加工と店別仕分けまで済ませてパッキンにまとめ、陸上げ地でパッキンを店別に仕分けて店舗に発送する一方、売上の10%を占めるECと店舗への補給在庫として3分の1ほど(こちらはSKU別パッキン)をいわきのDCに配送して棚入れしている。店舗向けの後方備蓄率は25.5%ほどになるが、60%のユニクロや70%に迫る無印に比べれば前進分散配備型の性格が強い。

 

■アパレルのブランディングとローカライズの相剋

 食品ではリージョナル単位の調達でローカライズして地産地消のメリットを得ているが、グローバル展開となるとエスニックのみならずハラルやビーガンへの対応も必要で、ローカル対応を欠いては定着が難しい。アパレルでも地勢的展開規模によって国単位/文化圏単位でローカル企画やローカルフィット、サイズバランスやカラーバランスなどで対応しているが、ブランディング方針によってローカル対応を控えることも多い。

 ユニクロはアジアやインドでローカル企画が見られるし、ギャップも一部のローカル企画に加えてパターンを変えたローカルフィット商品を展開しているが、INDITEXは各店部門マネージャーが商品をセレクトしてローカル対応していることもあってか、ローカル企画やローカルフィットには消極的だ。 

INDITEXはスタイリッシュなユーロモードを崩したくないというブランディングもあると思われるが、それはブランドビジネスに共通するもので、パリやミラノ、ロンドンやニューヨーク、トーキョーやソウルのクリエイションを主張するブランドが大勢を占める。となればローカル対応はパターンやサイジングのローカルフィット、サイズバランスやカラーバランスに限定されることになるが、売上規模が限られるとローカルフィットはコスト負担が大きく、ブランド撤退の引き金になったりもする。

日本国内で売られる主要な欧州インポートブランドは代理店販売にせよジャパン社直販にせよジャパンフィット(実質はアジア仕様)にローカライズされており、並行輸入品のように袖丈や着丈が余ることは稀だ。ジャパンフィットを生産するにはパターンやマーキングから変えなければならず、多数の商品をジャパンフィット化するには相応の販売規模が必要で、そのハードルを越えられず撤退したり代理店が変わるケースも少なくない。

ナイキやアディダス、ザ・ノースフェイスやチャンピオンなどグローバルブランドは独資販社かライセンシングかを問わず地域やエスニックにローカル対応するのが必定で、ライセンシングではローカルフィットのみならずローカル企画にも寛容だ。アウトドア人気No.1のザ・ノースフェイスなど、ゴールドウインの日本企画、ヨンウォンアウトドア(ゴールドウインとヨンウォン貿易の合弁)の韓国企画、本家VFコーポの米国企画の微妙な違いを使い分けるフアンもいるほどだ。

アパレルのグローバル展開ではブランディング(集中)とローカル対応(分散)のバランスが肝要で、前のめりなローカル対応が良い結果をもたらすとは限らない。導入初期はブランディングに徹してローカルニーズとの乖離がステイタスになったりもするが、マーケットに浸透していくには乖離を埋めていく必要がある。売上規模がローカルフィット、ローカル企画のコストを吸収できるタイミングでブランディングからローカライズヘ舵を切るのが賢明だが、鶏が先か卵が先かの選択が問われる。

 

チェーンストアもネットスーパーもブランドビジネスも、集中による規模の効率と分散によるローカル/個店/顧客対応の現実的なバランスを、コスパとタイパを睨んでシフトする状況判断が問われるビジネスで、様々な分野の新旧の事例を数多く知っておくほど的確な判断が可能となる。食品とアパレルを行き来した交錯に戸惑われたかも知れないが、そんな多面視点が必要とされるのではないか。

 

 

 

 

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