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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『店舗小売業はなぜ自社ECを確立できないのか』 (2018年04月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 店舗販売が低迷する中もECは年々伸び続け、店舗販売が非効率化した分野ではEC比率が20〜30%台に乗ってECが流通の主導権を握り、運営コストでも在庫効率でも格段に劣る店舗小売業は存続を脅かされている。店舗小売業がECを手掛ける是非を問う段階はとっくに過ぎ、『ECをどう拡大し効率的に運営するか』『いかにカニバリと運営負担を回避して店舗販売をECと連携し売上げを上向けるか』『ECのプラットフォームに店舗を乗せて「販物分離」するショールーム販売をいかに実現するか』が喫緊の課題となっているが、ここに大きな壁が立ちはだかっている。

モールEC依存とエセ自社ECの現実

 経済産業省の試算に拠る2016年のB2C物販分野におけるEC比率は5.43%だったが(17年度は今月末発表)、「月間ネット販売」など業界データを総合すると17年は6%台に乗ったと推計される。衣料・服飾雑貨EC比率は16年試算の10.93%から17年は14.5%伸びて12.3%に達したと推計されるが、ECに積極的な大手中心の当社主催SPAC研究会メンバーでは一段と高い。

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 3月に集計したEC関連メンバーアンケートによれば、ECの伸び率は25.5%と前年回答(23.8%増)から依然、勢いは陰っておらず、自社ECとECモールの伸び率もコンマの差しかなかった。平均EC比率は前年の10.9%から13.1%と2.2ポイントも上昇。自社EC比率は3.4ポイント上昇して46.4%に達したが、顧客を広げるには集客力あるECモール販路が不可欠で平均5.6モールに出店しており、モール依存率は依然過半を超えている。

 自社ECはECモール出店に比べて手間もスキルも必要だが、顧客データがダイレクトに入手できるから会員管理やポイント運用を店舗と共通化でき、在庫も分散せず迅速に引き当てられ、ECモールより運営コストが低く、売上げの拡大とともに加速度的な低下が期待できる。SPACメンバーでも、自社ECの売上対比運営コスト(支払い手数料や外注費のみならず社内の人件費や経費までトータルしたもの)は規模の拡大とともに年々低下しており、在庫を預けるフルフィル型ECモールより平均して4.6ポイント低く、店舗販売より10ポイント以上、最大17ポイントも低い。

 問題は「自社EC」の中身で、「自社EC」と称しながら丸ごとECモールやEC支援業者に運営を委託していたり、自社で運営していてもECフロントは日常の張り替え(コーディング)だけで機能変更は外部のシステム業者に依存していたり、大手小売業のECなど丸ごとシステム会社からの出向チームが動かしていたりする。エンジニアチームを抱えてホントに自社運用しているケースは恐らく数%にも満たないのではないか。これでは機動的な運用もコスト逓減も困難で、何より自社ECのプラットフォームに店舗を乗せてのショールーム販売という未来も開けない。

 なぜ店舗小売業はエセ自社ECに留まってホンモノの自社EC体制を築けないのだろうか。

ブラックボックスとガバナンスの壁

 百貨店やアパレルチェーンの内情を聞く限り、その要因は大きく2つあるようだ。

 1つは「ブラックボックスの壁」で、経営陣がシステムの概要とコストはつかんでもエンジニアリングの領域を理解できず、結果として外部にシステム開発を丸々委託し、日常の運営も外部からの出向チームに依存することが多い。EC以前に基幹システムの段階からそうなのだから、ECの自前化など夢物語になってしまう。基幹システムを情報システム企業からの出向チームが動かしている場合など先行投資が大きくシステムの連携も制約され、リープフロッグに日進月歩するEC業界には到底ついて行けない。

 もう1つは本気で自社ECに取り組む企業が必ず直面するシリアスな壁で、小売業の年俸水準とIT業界の年俸水準の格差がもたらすガバナンスの混乱だ。

 日常の商品登録などECフロントの張り替え作業は社内から登用したWebコーダーでも出来るし年俸水準も店舗小売業の枠内に収まるが、ECに慣れたプログラマーとなるとEC業界の急成長による人材逼迫で報酬が上昇しており、ECシステム総体を設計・運用できるディレクター級のシステムエンジニアともなればIT業界の報酬高騰で手に負えない高給になっている。中堅エンジニアでも小売業界の1.5倍、ディレクター級(執行役員クラス)では倍を覚悟しなければならないと聞く。

 それでも企業戦略上、必要なら獲得しなければならないが、目をむく報酬格差は社内の軋轢を招き、報酬だけでなく投資予算の分捕り合戦でも店舗サイドの劣勢は否めないから不満は次第に増幅していく。そんな軋轢が人事や予算配分でリバウンドすれば、引く手あまたのIT系人材は容易に流出してしまう。今春の業界でもそんな話を幾つか耳にした。

 ガバナンスの混乱を恐れ、基幹システムの継続性に固執せざるを得ない経営陣としては、社内に高額報酬のエンジニアチームを抱えるリスクに躊躇し、ホンモノの自社EC体制を確立できないまま外部依存を続けてしまう。これではリープフロッグなIT系EC企業に対抗のしようもないし、ショールーム販売の明日も開けない。

 とはいえ、ガバナンスの混乱を招いては組織が円滑に機能しなくなるから、賢明な経営陣はこれまでのニュービジネスでも常套手段だったスピンアウト(別会社化)や外部との合弁企業設立に向かうのではなかろうか。

※「Webコーダー」:HTMLやCSSなどWeb標準言語を使ってコーディングし、新商品を掲載したり写真やコピーを差し替えたり、時には簡単な配置替えも手掛ける、店舗なら接客や陳列・編集を担う「販売員」そのもので、両者は待遇も大差ない。

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