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『「無印良品」の秋冬衣料品値下げに思う
「わけあって安い」の現実』(2020年10月02日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 良品計画は10月2日から「無印良品」の衣料品72アイテムを値下げする。『わけあって安い』をキャッチフレーズに顧客を広げてきた「無印良品」は昨秋口にも1100品目を値下げし、消費税の2%増税も飲み込んで税込価格を維持している。
 今回の値下げの主なものは、クルーネック長袖Tシャツ(婦人、紳士)は1,290円/1,490円 から990円へ、ウールシルク 洗えるクルーネックカーディガン(婦人)は3,990円 から2,990円へ、首のチクチクを抑えたタートルネック洗えるセーター(婦人、紳士)は2,990円/3,990円 から2490円へ、縦横ストレッチチノパンツ(紳士)は3,990円 から2,990円へ、軽量ポケッタブルノーカラーダウンベスト(紳士)は3,990円 から 2,990円へなどで、全体の価格水準も以下のように改定している。
【基本商品の中心価格】
Tシャツ     消費税込みで990円
シャツ      消費税込みで1,990円
ニット      消費税込みで2,990円
ダウンベスト   消費税込みで2,990円
チノパンツ    消費税込みで2,990円
あったかインナー 消費税込みで790円
くつ下      消費税込みで690円(えらべる3足)
パジャマ     消費税込みで3,990円(上下セット)
 この価格水準をどう見るかだが、長年愛顧してきた私の受け取り方は二つある。ひとつは「ユニクロ」価格から「GU」「ワークマン」価格への下方移動(中途半端だが)、ひとつは品質相当への価格訂正だ。
 前者はコロナで加速した衣料品のデフレに対応したもので、上は「ユニクロ」、下は「GU」や「しまむら」、ホームセンター衣料に挟まれて中途半端になり、消化が落ちて在庫が積み上がっていたから必然の決断だった。後者は長年、袖を通してきた顧客なら判ると思うが、『わけあって安い』が結構露骨で、品質とりわけ素材が価格相応に貧相だったことへの結論と受け取れる。
 今も毛玉が酷くてワンシーズンで外には着ていけなくなった「無印良品」のウール100%カーディガンを「GAP」のネルシャツ(10年以上持ってます!)に羽織ってこの文を書いているが、他に持っているシャツやパジャマなども素材の質感や耐久性は「ユニクロ」とは比較すべくもない。今回、3,990円に値下げされたパジャマにしても4,990円の旧価格は品質に見合わない割高感があり、3,990円に値下げされたタイミングでしか購入したことがない。
 完成度が高く堅牢でもどこか無機質で中華モードカジュアルっぽい違和感がある「ユニクロ」の衣料品に比べれば、自然素材中心でエシカルな「無印良品」の衣料品には共感するが、何回も着込んで洗濯を繰り返すと劣化は否めず、やはり『わけあって安い』のだと感じてしまう。残念だが、それが「無印良品」衣料品の現実だ。
 『サプライチェーンのどこかをトレードオフするのではなく、原料産地や生産工場に足を運び、生産パートナーと知恵を出し合って価格を改定した』と解説しているが、設定している生産コスト水準自体に限界があるのではないか。「ユニクロ」級と「しまむら」・ホームセンター級では価格相応に素材のランクが違うのは素人目にも明らかで(織りの目付けや耐久性のみならず糸から違う)、「無印良品」の衣料品開発はホームセンター級素材の中での奮闘に見える。
 「無印良品」がそんな隘路を出られないのはサプライチェーンの体制にも原因がある。「ユニクロ」が原料や資材の仕込みを東レなど繊維大手、仕掛り在庫と生産地在庫の管理と物流を複数の商社に分担させているのに対し、良品計画は百%出資のソーシング子会社に担わせており、開発力もコスト抑制力も生産地物流力も在庫負担力も相応の格差がある。「ユニクロ」が垂直分業・同盟型のサプライチェーンであるのに対し、良品計画は水平分業・自己完結型のサプライチェーンだと規定するのは大雑把に過ぎるかも知れないが、両者の明暗を分ける最大の違いであることは間違いない。
 良品計画の値下げは歓迎すべきだが、『わけあって安い』の壁を突き抜けてホームセンター価格へ着地するにも在庫負担を解消するにも、サプライチェーン体制の抜本的な転換が必要だ。それこそが決断すべき最大の経営課題ではないか。

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