小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年06月13日付)
『「いなたい」がいいね!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 昨日の繊研新聞の隅っこのコラム「め・て・みみ」(一面最下段)に珍しく腹に落ちる一文が書かれていた。カジュアル系セレクト分野(恐らくメンズ)のクリエーターやバイヤーが近頃やたら「いなたい」と言い出しているとの事。
 「いなたい」はもともと「田舎くさい」の略とも言われ、「垢抜けない」「ダサい」の意で関西方面でよく使われる方言とされる。それがミュージシャンの間で「泥いが抜け感がある」「へたうま」といった意味で使われるようになったそうだ。
 繊研のコラムでは『ストレートな格好良さを格好悪いと感じる人が多くなっているのかも』と結んでいたが、この指摘はファッションマーケットの時流反転を控え目ながら適確に現している。
 
 戦後、わが国のファッションマーケットは長く欧米トレンドの占領下にあって、時代とシーンで米国を向いたり欧州を向いたり、その反動か東京発信を叫んでみたりと途上意識剥き出しで、結局、洋服文化では日本は追従者という地位を抜けられないで来た。近年も欧米のファストSPAが怒濤のように進出拡大して一時はファストファッション市場を占領するかと思われたが、17年春先から潮流が変り始めて外資SPAが次々と失速。17年秋冬ではZARAまで失速して総崩れとなり、18年春夏では一段と落ち込んで店舗整理や撤退が囁かれている。
 
 ネットやファッション誌で見る欧米ランウェイシーンのモデルの着こなしはジャストサイズに“着られる”だけで着こなし着崩しの妙がなく、はっきり言って芸のないお人形にしか見えない。生きて生活しているパーソナリティがまったく感じられないのだ。それに較べれば、渋谷や原宿の裏通り、湘南や城南の街角に見る人々にはそれぞれ自然な着こなし着崩しがあり、活き活きとした生活感があって“抜け”ている。欧米トレンドに着られない、ギョーカイのりに格好つけない「いなたさ」は爽やかにさえ感じられる。
 日本市場は急速にローカル化・テロワール化しており、欧米トレンドのりやギョーカイのりは変に格好つけた「いちびり」や「いきり」にしか見えなくなっている。未だ古典的な「ファッションシステム」の幻想を追うギョーカイはそんな現実に気付いているのだろうか。

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