小島健輔の最新論文

WWD Japan 2006年4月10日付掲載
特別寄稿 『モード回帰がビジネスモデルを変える』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

風俗カジュアルからモード回帰へ

  日がまた沈んでいく中で12年も続いたカジュアルダウン/レイヤード/汚め面の流れが、景気の回復とともにドレスアップ/きちんとモード/キレイめ面へと反転し始めたのは05年の秋口から。思い起こせば、05−06AWコレクションにその芽が現れていた。
 ファッションの流れは一方へ振れ切った瞬間から正反対の方向へ急転していくもの。109から発したグラマラスカジュアルがカジュアルマーケット全域に拡がったのが05年春夏期。その奔流がアメカジ系マーケットと109系マーケットを同質化し、109系ブランドは一部のお姉エレガンス系/B系ストリートモード系を除いて総崩れに転じた。109文明のひとつの原点とも言うべきリゾートカジュアルのアルバローザが風俗化を嫌気して8月22日付けで全直営店を閉じた事も、ひとつの時代の終焉を告げたのではないか。
 続く06SSコレクションでも爽やかなロマンティックやプレップなマリンなどが主流となり、モードはエログラカジュアルに振れ切った05SSのマーケットとは正反対に動いた。現実のマーケットも昨11月のクルーズライン投入からキレイ目モードシフトが顕著となり、今春の爽やかロマンティックやマリンの爆発をもってモード回帰が決定的な流れとなった。夏へ向けてはリゾート感の高まりでエスニック〜ヒッピーなナチュラルカジュアルも拡がるが、秋に入ればスインギン・ロンドンからネオクチュールまで様々なモードスタイルが席巻するに違いない。
 70年代までのスタイリングは洗練度はともかくモードベースという点では欧州のそれと大差なかったが、80年代のDCブームからバブル期のボディコンを経て風俗的性格を強め、93年以降の落日の時代に崩し外しのカジュアルダウン/レイヤード化が急進してストリート風俗へと変質。こてこてとしたリミックスやルーズな着崩し、生いエログラ感が極まってモードから大きく乖離していった。109や裏原宿はそれを象徴するものではなかったか。
 ファッションをモードとして捉えるか大衆風俗として捉えるか、時代と社会が自動筆記していくものだが、落日の時代に急進した風俗化はヤンキーな下流社会現象と表裏一体を為していたのではないか。

OEMから開発調達へ回帰

 モード回帰は商品開発の手法にも転機をもたらし、ビジネスモデルを一変させることになる。短サイクルで変化していく風俗カジュアル市場では商品の完成度より身軽なQRと手頃な価格が優先され、AMS業者に開発・生産をアウトソーシングするOEM調達が主流となった。流通素材と在りパターンに乗せて1〜2週間で商品化するようなファストアパレルがもてはやされたのも、後加工や付加装飾で要求に応えられるマーケットだったからだろう。
 が、モード回帰はこのようなお手頃調達手法を低価格商品に限定する事になる。きちんとモード/キレイめ面商品の開発は紡績〜染色整理という入り口、プレス仕上げという出口の両面を押さえる必要があり、パターンの精度も問われる。流通素材とパターン乗せ替えが横行するお手頃OEM調達ではその要求に応えようもない。
 一時は開発組織を解体してコスト圧縮に動いたアパレル企業もOEM調達の限界に危機感を抱き、QRや低コストを犠牲にしても完成度を高めるべく開発組織の再強化と自前の開発調達に回帰しつつある。ワールドの百貨店SPA部隊の開発調達強化、フランドル・プロセスの再評価はその好例であろう。紡績からの素材開発で差別化し、備蓄素材の染色整理・製品化QRで販売動向に対応するという開発調達型ビジネスモデルがモード回帰への回答のようだ。それは市場対応とブランディングの新たなバランスの模索であり、国内産地の復活にもつながる流れとして期待される。
 ※AMS(Apparel Manufacturing Service/アパレル受託加工業者)  

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