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WWD 小島健輔リポート
『2023年は2大コストをプロフィットに転換しよう』
(2023年01月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナ禍からの売り上げ回復が進むとは言え、調達コストや光熱費から人件費まで何もかもがインフレする2023年は販管費の抑制も限界がある。ならば二大コストたる店舗費と人件費をプロフィットに変えるという逆転の発想が必要なのではないか。

 

 アパレルチェーンの店舗費負担は家賃と共益費に減価償却費や高騰する光熱費を加えれば売上の20%に迫るケースが増えているし、急増するキャッシュレス決済手数料、とりわけ商業施設デベの包括契約やハウスカードの割高な手数料はテナントの収益を圧迫している。しまむらやユニクロの店舗費負担は業界水準の半分以下の7〜8%台に収まっているが、米国の大手アパレルチェーンでは一般的な水準だ。

我が国の商業施設は家賃や共益費の高さに加え、当初定借契約期間も3〜6年と短い(米国は10年)ゆえ営業断絶のリスクが高く、米国には見られない売上金預かりの月二回払いと言う業界慣習もテナントチェーンの資金繰りを圧迫している(ユニクロや外資チェーンは直接収納している)。

 そんな店舗費負担を軽減する発想の転換がマーケットプレイス化とリテールメディア化だ。

 

■マーケットプレイス化

 マーケットプレイス化とは「外部商材による在庫負担無き品揃えの拡張」であり、売上が増えて販売手数料(粗利益)も手に入る。今日の店舗小売では消化仕入れは百貨店などに限られた例外と思われがちだが現実は異なるし、ECモールは在庫負担の無い手数料商売だから品揃えを無限に拡張できる。

無限と言っても出品者(単品登録なので出店ではない)から在庫を預かって出荷するFC(フルフィルセンター)の拡張投資負担が大きいから、急速に売上を伸ばそうとするならドロップシッピングを広げることになる。ドロップシッピングとはモール側が在庫を預からず、受注データを宅配伝票にして出品者に電送し、出品者が顧客に出荷する仕組みだ。倉庫運営費や宅配外注費の高騰でモール事業者のフルフィルは逆鞘になりがちで、収益性を考えてもドロップシッピングは必定だ。これらフルフィル費用が取扱高の10.3%(22年3月期)に達するZOZOなんか、そう割り切れば収益構造が一変すると思うのだが。

最近はそのメリットに注目してか、米国では先行するウォルマートに加えて大手デパートもメーカー在庫を引き当てるマーケットプレイスを拡張しているし、越境EC大手のSHEINも自社ECからの転換を検討している。日本でも大手セレクトショップの自社ECがドロップシッピング型のマーケットプレイスを加えるメリットは大きいのではないか。

店舗小売業のマーケットプレイス化も基本は同じだが売場の物理的制約が大きく、D2Cブランドを揃えるプロモーション販売業態(現品販売か「売らない店」かは問わない)はともかく、通常の店舗では端境期に催事運営する「二毛作商法」が現実的だ。最低保証に抵触しないよう端境期の売上を嵩上げするのは必定だが、通常と同じサプライで在庫を抱えては切り替えを阻害するから、季節商材の催事販売やD2Cブランドのプロモーション販売(先行受注会)で在庫負担の無い売上を稼ぐべきだ。これらは期間とスペースを限ったプロモーショナルな販売代行であり、D2Cブランドの成長とともに常設コーナー、あるいはD2Cブランドを揃えるプロモーション販売業態への発展も期待できる。

端境期に限らず、スペースに余裕があったり販売効率が低かったりすれば、ラックジョバーを使って不得意アイテムを任せたりアイテムを拡張するという手もある。服飾雑貨やプチプラ雑貨、ドラッグコスメや薬品、グロサリー食品では珍しい手法では無いから、トライする価値があるのではないか。

※ラックジョバー(棚借り問屋)は棚からコーナーまで幅があり、ホームセンターではアイリスオーヤマ、ドラッグストアの100円コーナーはキャンドゥやワッツが手がけている。

 

■リテールメディア化

 ECと店舗を連携する自社アプリで顧客情報とPOSデータが即応する(iD-POS)OMO体制が確立しているなら、ストアのリテールメディア化による収益も可能だ。

 顧客がアプリが入ったスマホを持って店舗に入るとストアモードに切り替わり、個別店舗内の商品位置を案内したりプロモーション情報を提供する。特定商品に近づいたり二次元コードをスキャンすると、商品情報を提示したりクーポンを発行することも出来る。

我が国でもホームセンターのカインズやディスカウントストアのトライアルで活用されているが、米国では顧客行動データや店内プロモーションを提供してサプライヤーから収益を得るリテールメディア化が始まっており、NBを揃えるディスカウントストアや食品スーパーはもちろん、ドラッグストアや百貨店にも広がると思われる。売上は商品販売の1%程度と限られるが原価がほとんどかからないから利益に直結しており、OMO体制を確立した小売各社は拡大を急いでいる。

 我が国でもブランド商材を扱う百貨店や大手セレクトショップでは同様な活用やメディア収益が期待されるが、購買行動に即応するiD-POSの確立が大前提で、アパレル業界ではこれからの課題というのが現実だろう。iD-POSを確立した小売事業者ならSPA型でもメディア収益が可能で、客層が共通するなら取り扱っていないゲームやアプリ、ネットサービスなどのプロモーション収入が期待できる。

 

■クレカ手数料の取り込みと会費収入

 リテールメディア化とは違うが、顧客化をベースとして収益を得る確実な方法がある。典型的なのがハウスカードの自社発行と会費収入だ。

 高額なファッション商品を扱う百貨店やセレクトショップではクレジットカードの手数料負担が大きく、収益を圧迫しているが、自社でハウスカードを発行すれば手数料を自らの収益に転換することが出来る。自社で発行(イシュア)しても全て自社で賄うのは困難だから、加盟店管理会社(アクワイアラー)と役割を分担し、アメックスやVISAなどの国際カードと提携する必要がある。一例だが、三越伊勢丹のMIカードは100%子会社のエムアイカードが発行しているが、高島屋のカタシマヤカードは高島屋が66.6%、クレディセゾンが34.4%出資する高島屋ファイナンシャル・パートナーズが発行している。

 ハウスカードがどれだけ収益に貢献しているかだが、コロナ禍が残る三越伊勢丹の22年3月期ではクレジットカード・金融・友の会業が売上の7.3%、セグメント利益の63.8%を占め、23年3月期中間期でも同6.6%と19.3%を占めている。高島屋の22年2月期では商業開発業(東神開発)の比率が高いため金融業の売上比率は2.6%に止まったが、コロナ禍で65億6100万円の赤字となった百貨店業に対して43億8500万円のセグメント利益を計上している。23年2月期中間期でも売上の5.0%、セグメント利益の17.7%を占めている。

 米国の百貨店も同様で、ノードストロムの22年1月期ではクレジットカード手数料収入が売上の2.7%を占めたが、コロナ禍で全体の営業利益率が1.2%に激減したため、クレカ手数料収入が営業利益の2.17倍となった。メイシーズの22年1月期でもクレジットカード手数料収入が売上の3.4%、営業利益の45.4%を占めた。ちなみにメイシーズの自社カード売上比率は41.6%だった。

 加えて、自社カードはポイント還元や様々なサービスを提供して年会費を得ることが出来る。年会費で収益を確保しているのはコストコが有名だが、日本では税込4,840円(個人会員)、アマゾンのプライム会員は税込4,900円だ。対して百貨店ハウスカードの年会費はポイント還元率の高いゴールドカードならMIカードもカタシマヤカードも税込11,000円、阪急・阪神百貨店のペルソナSTACIAアメリカン・エキスプレス・カードは還元率も高いが税込15,400円と会費も高い。

 ならば大手アパレル事業者も自社カードを発行すれば良いと思うのだが、ECモールのZOZOはポケットカードと提携してZOZOカード、良品計画はクレディセゾンと提携してMUJIカードを発行しているが、ユニクロもしまむらも自社カードは発行していない。どちらも顧客化が進んでいるから自社カード発行のメリットは大きいと思うが、メリットを上回るデメリットがあるのだろうか。

 

■販売員のE2Cプレイヤー化

 店舗費と並んで負担が大きいのが運営人件費で、商品単価の低い小型店舗では20%を超えることも珍しくない。店舗規模を拡大して正社員の変形労働時間制やパート・バイトの活用でシフト効率を高めれば売上対比の人件費率は抑制できるが、それが叶わぬ小型店舗でも人件費率を抑制する突破口がある。コロナ禍の営業規制下で確立された店舗販売員のE2C(Employee to Consumer)プレイヤー化がそうだ。

  自社サイトやSNSへのスタイリング投稿やライブコマースで多数のフォロワーを得て、自社サイトや店舗への顧客誘導を果たせるようになった販売員は店舗という枠を超えたE2Cプレイヤーであり、年間で億を超える売上を稼ぐ人も珍しくなくなった。会社側も投稿写真の撮り方やポーズを研修したり、営業時間中に撮影や投稿が出来るようシフト交代の重なり時間を長くしたり、「スタッフスタート」など投稿管理システムで個人別の売上貢献を掴んで報奨金を支給するのが当たり前になり、長らく停滞していたアパレル販売員の給与水準も目に見えて上昇している。

 大手人材サービスのエン・ジャパンによると、22年8月のアパレル販売員の募集時年収は362万9000円と19年8月比で11.7%上昇しており、パーソナルキャリアの転職サービス「クリーデンス」によれば、22年上半期のアパレル販売員の転職決定時年収は372万円と19年同期から9.7%も上昇している。

転職時でもSNSのフォロワー数やオンライン接客コンテストの入賞歴が選抜要件となっており、販売員のE2Cプレイヤー化はもはや決定的な流れとなった感がある。そんな中、SNSのフォロワー数や売上貢献を給与に反映しないでは販売員の離職を招きかねず、E2C販売員の給与水準は玉突き的な上昇が続く一方、E2C化出来ない販売員は置いていかれるという二極化も指摘される。

それは会社側も同様であり、OMO体制を確立した企業は販売員をE2C化して生産性も給与も向上する一方、未確立の企業は販売貢献も掴めず給与も生産性も停滞して販売員の離職を招き、業績も一段と低迷することになる。

 

■OMO販売代行がメジャービジネスになる

 販売員がE2C化していけば、コスト抑制の色彩が強かった販売代行も付加価値化が進む。地方でFCや販売代行を使うブランドアパレルやアパレルチェーンの多くは販売面ではOMO体制が進んでおり(店在庫引き当ての店渡し・店出荷という物流面は未達のケースが多い)、その分、販売員のE2Cプレイヤー化も進んでいる。そんなアパレルは必然的にローカルの販売代行業社にもOMOの受け皿となることを求めるから、代行業社の販売員もアパレル側の仕組みに乗ってE2C化することになる。

 OMOの受け皿となって販売員をE2C化した販売代行業社は生産性も給与水準も高まり、より高水準のE2Cスキルを求めるアパレルの依頼に応えられるようになり、一部は自らテザリング(地域店舗間在庫融通)を駆使して効率的なBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)を実現し、独自のローカルOMO体制を築くかもしれない。さすれば、そんな販売代行業社をあてにして地域のOMO運用を任せるアパレルも出てくるのではないか。

 OMOはもとよりローカルなものだから、地域に根ざした店舗展開とテザリング、店渡しと店出荷(載せ替え無しの地域内直送)が理想であり、それが最も効率的でもある。SNSもライブコマースも地域内から発信して地域顧客を捉える方がインパクトがあり、中央発信の全国版より格段に親しみがある。そんなOMOの本質を捉えてローカルから台頭するOMO販売代行事業者が出てくるのではないか。

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