小島健輔の最新論文

繊研新聞2009年4月6日付掲載
提言『ユニクロに学んではいけない!』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 百貨店も量販店もカジュアルチェーンも軒並み売上不振に苦しむ中、ユニクロだけが好調を継続して一人勝ちの様相だ。となれば『ユニクロに学ぼう』という気運が高まるのも尤もだが、ユニクロのサクセス構図は企業最適に徹した強者の論理で、他企業が真似しても良い結果に繋がるとは限らない。
 高機能で良質安価なユニクロの商品は多くの老若男女に支持されているとは言え、素材も型も工場も絞り込んでコストを抑制し少品種大量販売を仕掛けるのは企業最適な論理であり、本来ニッチで顧客最適であるべきファッションビジネスにおいては空振る率が極めて高い‘逆手’だ。多様なニッチを志向するファッション業界においてユニクロの手法は革命的だったが、それが他の多くのファッション企業にとって成功手法とならない事はファーストリテイリング社自体が買収企業の低迷で証明している。
 生産・調達コストとロスを圧縮するには素材集約によるMDの構造化と品番数の絞り込みが定石だが、それは企業最適の論理であって顧客ニーズの切り捨てとなりかねない。商品企画の‘点’をMD展開で‘線’にして顧客を串刺しするブランド型SPAは「ユニクロ」的な絞り込み政策が妥当としても、バラエティと変化を訴求するファストなSPAでは魅力を損なうデメリットの方が大きい。また、総合店は多様な顧客をきめ細かい品揃えの‘面’でカバーすべきで、「アマゾン」的なロングテール政策も忘れてはならない。IY衣料部門は業革の美名の下に売れ筋集約で顧客を切り捨て凋落して行ったし、イオンスタイルストアはSPA戦略で顧客を切り捨て売上不振に苦しんでいるではないか。
 H&Mもフォーエバー21もユニクロとはまったく異なるアプローチで独自の成功を実現しているし、ポイントやクロスカンパニーはローカルな顧客にローカルな手法で応えて大きな成功を収めている。ファッションビジネスはあくまでローカルでニッチ、そして時流に左右されるものだから、多様なビジネスモデルが生まれては消えて行く。他社の成功に学ぶ事は大切だが、自社の特性や顧客、時流に適した自分流ビジネスモデルの創造が求められているのではないのか。

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