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ブログ(アパログ2018年09月28日付)
『どうしてローラアシュレイを買わなかったの?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 イオンが9月17日で事業から撤退した「ローラアシュレイ」を誰が引き受けるのか注目されていたが、伊藤忠商事が日本市場における独占輸入権とマスターライセンス権を取得して9月18日から百貨店などで販売を始めているから、イオンが撤退を表明した段階で引き受けは決まっていたのだろう。なんだか出来レースみたいで他社が手を出す機会もなかったが、是非ともニトリに手をあげて欲しかった。

 伊藤忠商事は暫く百貨店などへの卸売りを手掛けてからショップ展開に移る計画で、3年後に10店舗と聞けば伊藤忠流ライセンス展開のショールームかとがっかりしてしまう。イオンが17年2月期に117億円を売り上げていた108店舗は継承されず、大人ロマンティックな内装も原状回復されてしまうのは残念と言うしかない。契約解消の翌日からブランドを受け継ぐのなら、事業も店舗も居抜きで引き継げばよかったのにと思うのは私だけではないだろう。

 事業も店舗も継承せずライセンス展開で市場を再開拓するのは、やる方も手間取るし、ブランドの復活を心待ちにしている「ローラアシュレイ」フアンを失望させかねない。インテリアブランドだけに、あの大人ロマンティックな店舗環境で確立されたブランドイメージをバラ売りされる平場で展開しても再現は難しく、イメージの低下を招くのは必定だ。どうして店舗を継承してSPA型の事業展開にしなかったのか、「ローラアシュレイ」フアンの一人としても悔やまれる。

 もう一つ悔やまれるのはニトリが買わなかったことだ。おそらくは買う機会がなかったのだろうから責める訳ではないが、インテリアSPA事業の全てが揃ってもデザインセンスとECスキルだけは欠落しているニトリにとって決定的な突破口になったはずだ。

 インテリア分野では圧倒的なトップに見えても「寝具」など突出したカテゴリーは限られており、ホームリネンやインテリア雑貨ではライバルも少なくない。そんな現実を突きつけたのがカインズのインテリア新業態「スタイルファクトリー」だ。低価格のホームセンターとしては異例に洗練されたデザインセンスが目を引くカインズだが、その建築的・美術的センスはアパレル業界の遠く及ばない高みにある。「スタイルファクトリー」の鮮やかなVMDはスキルもともかく商品企画段階からの絵画的カラーパレットにあるのは明らかで、おそらくは美大出身者が商品企画に関わっているに違いない。

 インテリア分野はアパレル分野より建築的・美術的センスが問われるが、ニトリはカインズほどその重要性に気づいていない。それが少なからぬ経営リスクだと指摘されてもピンと来ないとしたら、本当に手遅れになるのではないか。

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