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『環境省「SUSTAINABLE FASHION」レポートに脱帽!
これはアパレル業界に対する死亡宣告だ。』(2021年04月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 環境省の「ファッションと環境」タスクフォースがこのほど公表した調査結果と提言の「SUSTAINABLE FASHION」レポートを見て衝撃を受けた。これまで様々な立場から散発的に追及されてきたファッションと環境負荷の課題が生産段階、流通段階、購入段階、廃棄・リサイクル段階を一貫して数値検証され、ファッション業界と消費者、双方がどのように変わっていくべきか、極めて具体的かつ平易なビジュアルで提言されている。
 私も似たような趣旨の提言レポートを時間をかけて書き上げていたが、これを見て公表を断念した。個人が如何に精進して組み上げても、ここまで完成度の高い調査・提言レポートは到底、作れない。さすがエリートの叡智を結集した成果は凄いと感服するとともに、様々な利害関係者に配慮して玉虫色に矯められなかったのは奇跡に近いとも思った。
 小泉進次郎大臣の環境行政は「レジ袋廃止」などコンセプト先行で実効性が疑わしいものも多く不信感が強かったが、この「SUSTAINABLE FASHION」レポートは業界の利害など無視して「環境負荷の軽減」に徹し、業界と消費者のそれぞれに努力すべきことを分かりやすい表現で投げかけている。
 有り体に言えば、業界には『長く着られる服を環境に配慮して丁寧に少なく作り、売れ残りと廃棄を減しましょう』、消費者には『衝動買いせず本当に必要な長く着られる服だけを購入し、リサイクル・リユースに努めて廃棄を減しましょう』と提言しており、双方がエシカルに実行すればアパレル消費はさらに激減することになる。
 業界の代表を集めた委員会などでは決して出て来ない利害を超越した「素直な提言」だが、買い替えと使い捨てを煽って市場を拡大してきたアパレル業界にとっては「死亡宣告」に等しい。
 『地球環境に優しい』も大切だが『人類に優しい』も大切で、「商売」より「人道」を選択する「正しい判断」で労働環境や人権に配慮するなら、「新疆綿」はおろか「中国生産」からも撤退するべきだ。それで不買運動を煽られるなら「中国市場」を放棄する覚悟も必要ではないか。
 旗色曖昧に「商売」の安寧を図っても、欧米と中国の対立はいずれそれを許さなくなる。「拡販より地球環境」を選択するなら「商売より人道」を選択するのは必然で、欧米の指導者は先端技術や戦略物資はもちろん生産圏からも市場圏からも中国を隔離するA.C.(アフター・チャイナ)の「中国なき世界」を覚悟している。
 そんな現実に目を逸らしては、我が国のアパレル業界など存続さえ困難だ。『地球環境に優しい』も『人類に優しい』もアパレル業界にとっては「死亡宣告」に近い。環境省「SUSTAINABLE FASHION」レポートは是非とも隅々まで一読すべきだろう。

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