小島健輔の最新論文

繊研新聞2024年02月16日付
『コロナ明けリバウンドの終焉でインフレ政策は壁に当たる』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 コロナ明けの消費回復がようやく本格化しているが、リベンジ消費と30年ぶりのインフレに押し上げられた「見せかけの回復」であって客数の回復は鈍く、コロナ明けのリバウンドが一巡すればリベンジ消費もインフレも沈静化して客数減が売上減に直結するリスクが指摘される。値上げと賃上げの好循環への期待も萎み、客数減を値上げでカバーするインフレ政策が行き詰まるのではと危惧される。

 

■値上げが客数減をカバーした「見せかけの回復」

 都心の百貨店は富裕層や外国人旅行者の高額消費に沸いているが、客単価の上昇がもたらした回復であって国内客数の回復は極めて鈍い。百貨店の衣料品価格は円安進行もあって19年から2割近く上昇していると推察されるが、回復が進んだ23年計でも全国百貨店衣料品売上総額は19年比で86.6%に留まるから、客数はコロナ前の8掛けにも遠いのが実態と思われる。インバウンドによる嵩上げ(11月で全国百貨店売上総額の7.9%、12月で7.4%)も差し引けば、百貨店衣料品の国内客数19年比は75%程度に留まるのではないか。

 主要アパレルチェーンの売上回復も似たようなもので、23年9〜11月間も12月も「ファッションセンターしまむら」を除けば既存店客数は19年同期を大きく割り込んでいる。最大手の国内ユニクロを例に取れば9〜11月の既存店客数は19年比92.2%、12月は82.7%に留まり、12月は客単価が19年比112.9%でも既存店売上は同93.4%と大きく割っている。海外23カ国に展開して海外売上が国内の1.6倍強、営業利益は2倍近くになった(23年8月期)ユニクロは海外では「高機能高品質なグローバルブランド」と認識されて価格ポジションも国内より一格高く、お買い得ゆえ外国人旅行者が国内店舗に殺到するという「ビッグマック現象」※が顕著だから、それも割り引くと国内店舗の客数減少は相当に深刻だ。

 好調に見えるアダストリアとて9〜11月の既存店客数は19年比90.9%、12月は同86.1%で、9〜11月は19年比117.1%、12月は同118.0%という客単価が押し上げて既存店売上は9〜11月で同106.7%、12月はかろうじて同101.5%と水面上を保っている。既存店売上が9〜11月は19年比110.8%、12月は同116.0%とさらに好調なハニーズとて客数は9〜11月で同91.9%、12月も同93.4%と回復は鈍く、9〜11月は19年比120.5%、12月は同124.7%という客単価が押し上げたインフレ効果だと判る。ましてや不調なバロックジャパンやライトオンの既存店客数は19年比8掛けの攻防に終始しており、客単価が押し上げても既存店売上は19年に遠い(ライトオンは在庫を抱えた値引き販売で客単価も下がっている)。

 そんな中、既存店売上が9〜11月は19年比123.8%、12月も同120.3%と好調な「ファッションセンターしまむら」は客数も9〜11月は同107.0%、12月も同106.1%と増えている。9〜11月の客単価は同114.8%、12月は同112.7%と値上げ幅は他社よりやや低い程度だが、付加価値PBを拡充しても基本商品の値上げは抑制しており、価格抵抗感を上手く回避している。

 ユニクロの客数減としまむらの客数増は対象的で、一格高いグローバルポジションへの擦り寄せでアパーポピュラープライス(中産階級価格)からの上振れが目立つユニクロとロワーポピュラープライス(庶民価格)を堅持するしまむらの価格抵抗感の差が客数の差になっていると推察される。百貨店など高価格帯の客数が大きく減って低価格帯へ衣料消費がダウンサイジングする現象はインフレ局面の典型で、インフレが先行した米国でも顕著に見られる。

※ビッグマック現象・・・グローバル展開するブランドで内外の価格差が大きいと外国人旅行者がお買い得感から国内店舗に殺到する現象。マクドナルドの「ビッグマック」が内外価格差の指標とされ、外国人旅行者に人気なことから私が名付けた。

 

■リベンジ消費もインフレもコロナ明けのリバウンド現象

 米国のコロナ明けは21年秋からと、日本より早かった。給付金が手厚かったこともあって「衣料品&アクセサリーストア」の回復はワンシーズン先行して勢いもあったが、百貨店の売上回復は21年秋から始まっても「衣料品&アクセサリーストア」ほど勢いがなく、23年2月までの3シーズンで終わり、以降は9月を除いて前年を割り続け(図表の数字は19年比)、11月、12月と落ち込みが大きくなっている。一方の「衣料品&アクセサリーストア」は21年の3月には早くも19年同月を上回って以降も上回り続けているが、23年の3月以降は前年を割る月が多くなって減速しているから、リベンジ消費は4シーズンで終わったことになる。

 「衣料品&アクセサリーストア」のリベンジ消費はインフレとほぼ同期している。米国のインフレ局面は21年4月に始まって賃金上昇率を上回り、23年5月には沈静化して賃金上昇率を下回り、25ヶ月で終わっている。注目すべきことは1)リベンジ消費もインフレもほぼ4シーズンで終わったコロナ明けのリバウンド現象だった、2)インフレ局面では食料品やエネルギーの高騰で衣料消費のダウンサイジングが進行した、の2点だ。

 「リベンジ消費」はコロナ下のおこもり生活で不要だったり先延ばしされた消費がコロナ明けと共に一斉に復活したリバウンド現象で、地域によって時差はあっても世界中で始まったからサプライチェーンも物流も逼迫してインフレに火が付いたというのが実態だ。コロナ下の消費停滞と給付金で貯まった家計貯蓄の放出が一巡すればリベンジ消費もインフレも沈静化すると見るべきで、米国ではそんなシナリオ通りの進行となった。

 衣料消費の「ダウンサイジング」はインフレで高額化した百貨店のブランド商品からオフプライスストア(OPS)やモールのアパレルチェーンへ、値上げで割高になったモールのアパレルチェーンからウォルマートやターゲットのPB衣料へ、さらには激安価格の中国系越境EC(関税も消費税も掛からないSHEINやTEMUなど)へという下方移動であり、百貨店チェーンとOPSチェーン、モールのアパレルチェーンとディスカウントストアの業績格差、中国系越境ECの爆発的急成長に顕著に現れた。それは我が国とて同様であり、百貨店から中間価格(ユニクロ以上)のアパレルチェーンヘ、値上げの目立つ中間価格アパレルチェーンから庶民価格のアパレルチェーンや中国系越境ECへというダウンサイジングが急進している。値上げに押し上げられた売上だけ見ていると見過ごしてしまうが、客数の推移を見れば明らかだ。

 

■米国は4シーズンで沈静、日本でそれ以上は無理

 米国のリバウンド現象はリベンジ消費もインフレも4シーズンで終わったが、我が国も同様だとすれば、22年5月に始まったインフレ局面は24年の5月には沈静化し、22年10月に始まったリベンジ消費は早ければ24年の夏まで、遅くとも24年冬までで終わる。多少の前後はあるとしても、ほぼ米国の軌跡を踏襲することになるのではないか。

 円安とインバウンドという米国とは異なる我が国の事情もあるが、大勢は変わらないと思われる。日米金利差は容易に縮まらず、貿易収支は改善しても外貨流出は変わらないから円安基調は大きくは崩れないが、不動産バブル崩壊でデフレスパイラルに転落した中国がデフレ輸出に回帰し(今でも越境ECはそうだが)、世界のリベンジ消費が一巡すればインフレは沈静化してしまう。インバウンド(旅行消費ブーム)もリベンジ消費の一環だから、円安に押し上げられた「平和でお得なおもてなしの桃源郷」は変わらないとしても、いずれ沈静化していくし、デフレ転落した中国人の爆買いが戻ることもない。

少子高齢化と現役世代の負担増が止まらない国内消費が今以上に回復するはずもないから、インフレの沈静化と共に経済の体温も相応に冷えていく。インフレと賃上げの好循環という政府と産業界の描く構図も短期で崩れ、穏やかなインフレと賃上げ(おそらくはどちらも2%弱)の緩循環に着地する公算が高い。

 だとすれば、現在のインフレ局面から線形発想してインフレ政策を継続するのはリスクが大きい。客数減を値上げでカバーするようなインフレ政策を続ければ、リバウンド(リベンジ消費とインフレ)の一巡で客数減が売上減に直結してしまうからだ。

 高額消費に沸く百貨店は顔も財布も見える上顧客に依存して客単価で売上を伸ばすのがトレンドのようだが、かつてバブル期の百貨店は皆、そんなインフレ政策に走り、バブル崩壊(インフレ局面の終焉)とともに長い苦境に落ちた。インフレもリベンジ消費もインバウンドの散財もいつまでも続くわけではない。移民で人口増が続き積極経済で世界のマネーが集まるインフレ体質の米国でもリバウンドは4シーズンで終わっている。ならば、少子高齢化で経済体温の低い我が国でインフレ局面が米国以上に続くと期待するのは無理があり過ぎるのではないか。

 

■カテゴリーミックスの「繁盛店戦略」で客数増へ

 リバウンドが終わった米国ではインフレ政策が行き詰まって(百貨店やブランドビジネスの冷え込みが顕著)、客数増で売上を伸ばそうというハイタッチな「繁盛店戦略」が活況を呈しており、外食需要を取り込むミールソリューション戦略※で驚異的に売上を伸ばすスーパーマーケットのリージョナルチェーンが台頭しているが、我が国でもドラッグストアは「フードプラス戦略」(日常食品や均一価格雑貨を併設)で客数と売上を飛躍的に伸ばしている。インフレ政策が壁に当たるアパレルストアも客数増の「繁盛店戦略」に転じ、カテゴリーミックス(同時に粗利率ミックスでもある)とハイタッチな店舗運営に挑戦すべきではないか。

※ミールソリューション戦略・・・食品の店内加工・調理によるイートインやテイクアウトで中食・外食需要を取り込んで売上と客数を稼ぐとともに、オープンキッチンによる加工・調理の実演と手渡しという熱量あるタッチポイントで賑わいを演出する。ニューヨーク州拠点のWegmansなど、一万平米に迫る大型店で平均一億ドル超を売り上げて数百店を展開するリージョナルチェーンが注目される。

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