小島健輔の最新論文

FCNオリジナル論文2011年2月
『三層構造に見るデベの見識』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 以前に渋谷109の凋落理由を解説した時、テナントの三層構造が崩れた事を指摘しましたが、渋谷109に限らず、ファストファッション上陸以降、ファッションビルや駅ビルで三層構造のバランスを崩すケースが少なからず見られます。『ファストファッション終焉』を宣言した機会に、その悪しき影響を正すべく、テナントの三層構造を改めて解説しておきましょう。
 ファッションテナントはその企画・調達体制によって3ランクに分けられます。頂点を担うのがデザイナー/パターンナー/生産管理を抱えて自社で企画・開発・生産管理を貫徹する開発型キャラクターブランドで、開発期間は6〜8ヶ月と長く、労務上の限界から年間企画サイクルは4〜6回程度に限られます。価格もアパーモデレート以上で、オリジナル企画でリスクを張る先行企画組に位置付けられます。
 セカンドを担うのがデザイナーは抱えても開発や生産管理はアウトソーシングする事も多いマーチャンダイザー主導のキャラクターMDブランドで、開発期間は3〜5ヶ月と中射程で、年間企画サイクルは6〜8回程度です。価格はロワーモデレート前後で、オリジナル企画ながらマーケット・インも意識した中間企画組に位置づけられます。
 最下層を担うのがデザイナーは抱えずバイヤーがODM業者の企画提案を引きつけて仕入れるファストMDブランドで、開発期間は4〜8週と短く、年間企画サイクルは12回以上。価格はアパーポピュラー前後と安く、後出しジャンケンでマーケット・インする後発企画組に位置付けられます。
 開発型キャラクターブランドばかりではマーケットと乖離するリスクがありますし、価格の高さもあって客層の広がりも限界があります。ファストMDブランドばかりでは後出しのコピー商品が氾濫し、同質化と値崩れが避けられません。キャラクターMDブランドは両者の中間にあって独自のマーケットを捉え、両極の欠点を補います。この三層のバランスがとれていれば館の人気が高まって売上が伸びますが、開発型に偏れば顧客層が広がらず、ファスト型に偏れば値崩れして売上が低下し、やがては人気も離散してしまいます。
 現状の商業施設を位置付けるなら、渋谷109は新手の開発型キャラクターブランドやキャラクターMDブランドが限られる中、ファストMDブランドばかりが増えて同質化と値崩れが蔓延し、人気が離散して末期状態に陥っていると評されます。ルミネエストは三層のバランスがとれて人気が頂点に達した後、さらなる客層の広がりを狙ってファストMDブランドを増やし過ぎ、単価が落ちて頭打ち気味と評されます。新宿ルミネはテナントの鮮度は気になるものの大きくバランスを崩す事なく安定しており、アミュプラザ博多も手堅くルミネ型を踏襲しています。大阪駅のルクアは尖ったローカルブランドや新手の雑貨ブランドを加えて開発型の比重を高めた意欲的な構成が注目されます。
 現実のテナントミックスでは、この三層構造のバランス以前に顧客層や業種業態、価格帯の構成が問われますし、テナントのライフサイクル構成(鮮度)も無視出来ません。デベロッパーの見識と技量が問われているのではないでしょうか。

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