小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『デフレ経営とインフレ経営
冷戦復活で崩壊する西欧の脱化石燃料パラドックス』
(2022年09月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ウクライナ戦争は双方の全力消耗戦となって長期化し、西欧側の経済制裁とロシア側の資源制裁でどちらの経済活動も冷え込んで脱化石燃料どころではない状況となっているが、もとより脱化石燃料は西欧側の仕掛けた既存インフラ全面償却という世紀の大謀略であり、OPEC +ロシアを締め付けるものだった。

 

■リープフロッグ謀略がパラドックスに

 もとより二酸化炭素を元凶とする地球温暖化説は、西欧消費国が化石燃料文明の既存インフラを全面償却してクリーンエネルギー文明を構築する巨額投資を仕掛けた世紀のリープフロッグ※大謀略であり、化石燃料輸出に依存するOPECやロシアを締め付ける経済戦の性格も強く、いずれ彼らの反撃は避けられなかった。ロシアのウクライナ侵略の背景はEU圏(ひいてはNATO)の東進による軍事的圧迫に加え、西欧側が仕掛けた脱化石燃料謀略への危機感もあったと思われる。

 産業革命以来のインフラ蓄積の厚い西欧消費国は第二次大戦からの復興が終わって以降、BRICsのようなリープフロッグ現象が期待できず、戦争に代わる大規模な有効需要政策を必要としていた。08年のリーマンショックに対策して西欧各国の中央銀行が大量供給した低金利資金も西欧消費国の投資機会が限られ、大半がBRICsに流れて中国やインド、ロシアの急成長をもたらし、習近平とプーチンの独裁的権力獲得に貢献した。今日の冷戦復活の種を蒔いたのは西欧諸国であり、今や負の収穫を強いられている。

 地球温暖化説も二酸化炭素元凶説も科学的裏付けの怪しい※プロパガンダに過ぎず気候学者や地質学者の多くは疑念を呈しているが、行き詰まった西欧文明を既存インフラの強制償却によって再生せんとする利害の一致した大謀略を否定するメリットも無く、トヨタ自動車など冷静な知性の声もポピュリズムの大合唱にかき消されようとしている。

 ウクライナ戦争は西欧諸国(NATO)の代理戦争と化して長引く総力消耗戦となり、化石燃料と火薬の大量使用で二酸化炭素が爆発的に発生し、兵器とインフラの消耗で巨大な有効需要が生まれ、脱化石燃料の謀略がなくても経済が活性化し資金が有効活用される状況となったが、これでは化石燃料供給側を利するばかりで西欧のリープフロッグ化は頓挫しかねない。戦場の勝ち負けはともかく、経済戦が長引くと西欧(資源消費)側の犠牲が大きく、プーチン(資源供給)側が有利になるという見方も強まっている。

 西欧側は償却するはずの化石燃料インフラに頼るか原発に頼るかの選択を迫られ(日本も同様)、脱化石燃料のリープフロッグ謀略はパラドックスと化した感がある。持続可能なより良い世界を志向するSDGsの理念には共感するが、脱化石燃料は現実を見て資源国側も共に歩めるステップを踏むべきだ。ならば東西冷戦も破滅的終焉を避けられるのではないか。

※リープフロッグ(カエル跳び)現象・・・インフラ蓄積の薄い新興国の方が技術革新による設備投資が早く加速度的にインフラ更新が進むこと。固定電話網の普及以前に携帯電話が普及したり、ATMの普及以前にスマホのネット決済が普及した中国の事例が引き合いに出されることが多い。

※地球温暖化説は時間の物差し次第で逆(寒冷化)とも取れる未検証な説で千年単位では明らかに寒冷化しており、二酸化炭素元凶説も産業革命以降ではなく8000年前の焼畑農耕に発すると見る学者も多い。

 

■止まらぬインフレと顕在化したカントリーリスク

 ウクライナ戦争で東西冷戦が復活して33年続いたグローバル化から東西分断に逆転し、グローバル化の恩恵だったコストダウンと市場拡大が急激なコストインフレと市場縮小に転じ、カントリーリスクも一気に顕在化した。そんな歴史的反転劇に直面してファッションビジネスはどう動くべきなのか。

 まず、「喉元過ぎれば」を期待してはいけない。33年ぶりの歴史的反転なのだから後戻りはなく、新たな環境は相応の期間続くと覚悟するべきだ。

 サプライチェーンのリスクカントリー回避や国内回帰は不可避だが、価格ポジションで選択は異なる。NBプライス以上で勝負するなら生産ラインに密着する企画・開発力(必然的に国内など生産地が近くなる)とSNS駆使の顧客交流は必須で、低販管費率のD2C体制(工場直出荷でEC倉庫に在庫を積まない)が問われる。低価格を志向するなら生産地がさらに遠隔化してリードタイムが長くなり、継続性の定番MDはともかくファストなトレンドMDには無理がある。

リードタイムを短縮してリスクとコストを回避するにはリスクカントリーの内側に入るしかないが、リスクカントリー内では投資を回収できなくても販売カントリー内で回収できれば良いと割り切るべきだ。販売サイトの運営と代金回収は消費国で行う一方、商品は生産国から消費地の顧客に郵便小包で直送する越境ECを想起すればよい。DXを駆使した小ロット高速反復生産による実質無在庫販売はともかく、先進消費国の個人輸入(越境EC)における関税や消費税の減免に商機を見出したSHEINのビジネスモデルは結構、普遍的なものだと思う(リスクカントリーの通商政策は一方通行だから逆は成り立たない)。

リスクカントリー内で小売店舗を展開するのは投資も大きく回収が手間取り、いざとなれば現地資本に二束三文で叩き売るか全てを放棄して撤退するしかなくなる。ウクライナ侵攻後の西側資本ロシア店舗の撤退を見れば想像がつくだろう。戦前生まれの人には習近平の中国は満州と重なって見えるのではないか。

 

■デフレ経営よりインフレ経営が有利

 ファッションビジネスに限らずPL(損益)は粗利益と販管費のバランスで決まるが、その方向は二つに分かれる。ひとつは販管費が肥大しても粗利益の上昇が上回るよう付加価値を高めて値上げし利益を確保するインフレ経営で、ラグジュアリーを頂点とするブランドビジネスの多くが志向する。もうひとつは売価も粗利益も抑制してお値打ちを追求し販管費をそれ以上に抑制して利益を確保するデフレ経営で、低価格のアパレルチェーンや卸型NBアパレルが志向する。

 前者は棚資産回転がスローでも利幅が厚く、後者は利幅は薄くても棚資産回転がファストというのが成功条件だが、販売不振だと前者でも粗利益率が落ち込み、後者も棚資産回転が落ち込んで利益が出なくなる。

 グローバル化がコスト切り下げと市場拡大という恩恵をもたらしたリーマン前まではそれぞれ上手く回って収益を確保できたが、以降はコストインフレに転じて収益が圧迫され、コロナとウクライナ危機ではインフレが加速してカントリーリスクも顕在化した。その中でインフレ型のブランドビジネスは値上げを繰り返して収益力を維持しようとしているが、売上が伸び悩んで販管費率が上昇し収益力が低下するケースも少なからず見られる。デフレ型のアパレルチェーンビジネスはコストインフレに直撃されて販管費率が上昇する一方、値上げを徹底できずに粗利益率が圧迫されて収益力が低下するケースが多々見られる。

 企業は環境生態系の中で適者生存する「擬生体」だから、デフレ局面ではデフレ型が有利に、インフレ局面ではインフレ型が有利になる。今日のような急激なインフレ局面(円安による輸入インフレも加わる)は付加価値を乗せて値上げ出来るインフレ型ビジネスには好機だが、コスト上昇を価格に転嫁しきれないデフレ型ビジネスはストレートに収益が圧迫される。

 実際、90年代のインフレ局面で米国のブランドビジネスは値上げを繰り返して売上と収益を伸ばし、ベタープライスのミセスSPA「チコス」は8年間、8%づつ値上げを繰り返して高収益を謳歌した。コロナからの回復局面にウクライナ危機が加わった今はそれ以上のインフレ局面であり、調達コストも運営コスト(人件費と物流費)も高騰しているから、値上げできないブランドやチェーンは商機を逸するどころか追い詰められてしまう。

 インフレ型のブランドビジネスはインフレを「商機」と見て値上げを煽るという選択が可能だし(値上げしても買える顧客が前提)、デフレ型のアパレルチェーンも無理せずコストを価格に転嫁すれば苦しい思いをしなくて済む。行政の消費課税政策も場当たり的で、10%に増税した時、あれほど内税価格表示にこだわったのに、今や食品スーパーさえ公然と外税価格表示しているから、内税表示から外税表示に切り替えるだけでも9%安くなったかのごとく錯覚させる効果が期待できる。行政の無策で商業者も国民も追い詰められているのだから、外税表示に切り替えてコスト転嫁しても誰も責めることはできない。

 今のコストインフレはあまりに大幅で広範なものだから、よほどの高収益チェーンでも吸収は困難で、遅かれ早かれ業界全体がインフレ分を値上げすることになる。下請法の監視もあってインフレ分の値上げを受け入れるのが公正である以上、サプライチェーンを丸ごと再編でもしない限り、インフレ分は結局、価格に波及する。コロナ禍の不振在庫を呑み込んで川中は限界まで疲弊しており、川上から川下へインフレが波及するのは必然だ。

それで減少する販売点数と上昇する単価の掛け算(売上)は食品ではプラスになることが多いが、アパレルではどっちに転ぶのだろうか。『皆で渡るしかない』のなら覚悟を決めて渡ってしまうべきだろう。

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