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ブログ(アパログ2018年09月18日付)
『ヘンリ・ベンデルとともに美術的VMDも消える』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ウォールストリートジャーナルが伝えるところに拠ると、「ビクトリアズ・シークレット」を擁するL.ブランズ社は「ヘンリ・ベンデル」の全23店舗とECサイトを来年1月末に閉鎖するそうだ。あのモダン・アールデコスタイルの美しいストアが消えるのかと思うと、91年3月の開店に立ち会ったVMD関係者としては寂しさを隠せない。

 「ヘンリ・ベンデル」はL.ブランズ社がまだアパレル主体だったLimited.Inc時代のイメージリーダー的事業で、90年6月から9月に布陣したコロンバス、ボストン、シカゴに続く旗艦店舗として91年3月、マンハッタン五番街に開店した。1912年にムッシュ・ヘンリ・ベンデルが57丁目に開いたパリ・モードのセレクトショップを85年に買収して移転増床したもので、20年代ゴールデンエイジの「HENRI-BENDEL」を再生した華やかなアールデコ様式のストアデザインと美術的なVMDが全米のみならず世界のファッション業界の注目を集めたものだ。

 そういえば、その頃の「リミテッド」では販売員がやたらフランス語を使っていたのが思い出される。なにせ『いらっしゃいませ』が『ボンジュール マダム』『ボンジュール ムッシュー』だったのだから、会長兼CEOのレスリー・ウェクスナー氏以下、相当のフランスかぶれだった。

 ベンデル・ストライプの洒落たグラフィックを効かせたコスメ雑貨や服飾雑貨は評判を呼んだもののアパレルのマーチャンダイジングには試行錯誤し、近年はボストンやシカゴなどの大型店を次々と閉めてアパレルから撤退し、SC内や空港内のギフトショップ的展開に甘んじていた。18年の売上見通しは約8500万ドル、営業損失は4500万ドルとお荷物になっていたが、売上はL.ブランズ社の売上の0.7%にも届かず、損失額は営業利益の2.6%に過ぎないから、リストラ効果は知れている。ラルフローレンは五番街旗艦店を撤退するのに3億7000万ドルを要したが、「ヘンリ・ベンデル」も撤退費用の方が桁違いに大きくなるのではと懸念される。

 それはともあれ、20年代米国商業美術の華を再現した「ヘンリ・ベンデル」が消えるのは、効率を追求して量販SPAと大差ないVMDに堕した米国デパート業界の凋落を象徴する葬送劇と受け取れる。VMDが美術性もフェイス管理機能も損なって大仕掛けのディスプレイでしかなくなったのは米国デパートのみならず世界のファッション業界に共通する退化であり、量販SPAがVMDをリードしたかのような錯覚が蔓延したことも退化を加速させたと悔やまれる。91年10月1日初版発行の私のVMD集大成『見えるマーチャンダイジング』をご一読いただけば、今世紀のVMDが如何に退化したか痛感されることだろう。

 文明は進化するとは限らず、優れた文明や技術がジャングルに埋もれていくこともある。効率を追いPOSやITに依存して消えていった商業文明が、かつてマンハッタンにあったことを記憶に留めて欲しい。

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