小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ZOZOの迷走に経営者の胆を見る』 (2018年11月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファッションEC最大手のZOZO(旧スタートトゥデイ)は10月末日、19年3月中間期(4〜9月)決算を発表してアナリスト/機関投資家向けに説明会を開催したが、そこで公表された数字と方針はゾゾスーツ配布を軸とするPB戦略の蹉跌を匂わせるものだった。

2代目ゾゾスーツもPBも空回り

 量産失敗で前期に40億円もの特損を計上した初代に続いて2代目ゾゾスーツも採寸精度が期待値に達しない中、ゾゾスーツ採寸に基づくPBもパターン作成や生産が順調に行かず、7月に鳴り物入りで売り出したオーダーメイドスーツも注文こそ殺到したもののマーキングCADの不調などで大幅な納期遅れが続き、中間期のPB売上げは6億5800万円と計画に遠く届かなかった。それでも通期のPB売上予算200億円は下方修正せず、下期の急拡大を見込むなど、強気の姿勢は崩していない。

 その一方、これまで配布したゾゾスーツで蓄積した採寸情報によるAIマッチングで、今後はゾゾスーツなしでPBが注文できるように切り替え、将来的にはゾゾスーツを廃止すると発言。ゾゾスーツの配布量も初期計画の600万〜1000万枚から最大300万枚に抑えて30億円を節約するとトーンダウンしており、ゾゾスーツ採寸によるパーソナルなPB衣料の提供という構想は既に破綻している。

 ECプラットフォーマーのZOZOがSPA的なコンテンツ開発にのめり込めば両にらみの戦略になり、投資が分散してアマゾンなどライバルにつけ込む隙を与えることになる。宅配料金や人件費の高騰でフルフィルセンターの自動化投資が急がれる中(筆者の『ユニクロの有明自動倉庫に見る課題』を参照されたい)、未経験で予想外に手間取る商品開発に投資も人材も割かれては足枷になってしまう。

 PB事業は上半期だけで70億円もの営業損失を計上しており、2代目ゾゾスーツの配布費用、納期遅れや返品による損失、下期の営業損失を合わせれば、軽く200億円は飛んでしまう。それはフルフィルセンターの自動化やシステム拡充に投ずるべきではなかったか。

“百貨店化”と揶揄される手数料率の高騰

 前中間期と比べれば取扱高伸び率が38.3%から18.0%と20.3ポイントも減速。それにスライドするはずの営業収入の伸び率は35.3%から25.9%と9.4ポイントの減速に収まっているから、手数料率のかさ上げが行われたのだろう。事実、取扱高対比営業収入比率は35.7%から38.1%へ2.4ポイント上昇している。15年3月期と比べれば6.2ポイントも上昇しているから、相当なピッチでかさんだことになる。

 新規ショップが小粒化していることもあって受託ショップ事業の取扱高対比手数料率は28.7%から29.6%と0.9ポイントしか上がっていないが、大口の多いEC支援事業(BtoB/12サイト)は21.2%から23.4%へ2.2ポイントも上昇している。受託ショップ事業とて07年3月期からは7.2ポイントも上昇しているからZOZOの手数料率かさ上げは90年代の百貨店並みで、出店アパレルが『ZOZOが伊勢丹化している』と嘆くのも理解できる。

 もとより百貨店もZOZOも売上手数料を徴収するビジネスモデルで在庫リスクは負わない。委託仕入れや消化仕入れで販売員の派遣が必要な百貨店と在庫を預かって出荷してくれるZOZOを同列にはできないが、出店アパレルにとって百貨店に代わる販路として期待するZOZOの手数料率高騰やクーポン値引きの負担は収益を圧迫しており、コスト負担の軽い他のEC販路や自社運営ECへのシフトを加速させている。それがZOZOの取扱高拡大にいずれブレーキをかけることになるのは明白だ。

収益構造も劇的に劣化

 今中間期決算では収益構造も劇的に劣化した。前中間期と比べれば取扱高対比経費率が6.2ポイントも上昇して27.6%にかさみ、取扱高対比営業利益率は11.6%から7.1%と5ポイントも急落した。最大項目の物流費(荷造運賃と物流業務委託費)は8.3%から11.0%へ2.7ポイントも上昇。プロモーション関連費用も1.7%から3.9%と倍以上にかさみ、人件費(物流以外の業務委託費を含む)も4.1%から4.3%に上昇しているが、物流費の上昇が率・絶対金額ともに突出している。

 宅配料金の値上げや人件費の高騰は業界に共通するが、これほどの経費率上昇を招いた要因はPB開発と物流機能拡充の両面をにらんだ経営戦略の無理にあることは明らかだ。物流機能拡充の投資競争を強いられるECプラットフォーマーがコンテンツ開発に数百億円を投じる無理が経費構造の劣化を招いたと指摘されても致し方あるまい。

前澤友作はイーロン・マスクの夢を見るのか

 経済誌オンラインで前澤友作のイーロン・マスク化を危ぶむ記事を見かけたが、女優との派手な交際はともかく、不可能と思われる壮大な構想に挑戦する辣腕ぶり、直情的なツイートが炎上を招くあたりは確かに共通している。イーロン・マスク氏率いるスペースXが開発する「ビッグ・ファルコン」での月旅行を打ち上げるのも、同氏へのオマージュが前澤氏を衝き動かしたのだろう。

 経済誌の危ぶんだ「イーロン・マスク化」は経営のプレッシャーから言動が不安定化して思わぬ足を取られることで、前澤氏のツイート『ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ』は大炎上で済んだが、イーロン・マスク氏の株式非公開化ツイートは株価を動かし、SECから提訴されてテスラ会長職の辞任(CEOは続ける)と2000万ドルの罰金(テスラ社にも同額の罰金)、お目付役の外部取締役の招聘という和解条件を強いられた。

 これを厄災と見るか地固めと見るかは分かれるが、マスク氏を苦しめてきた「モデル3」の量産がようやく軌道に乗ったこともあってSECとの和解発表直後にテスラ社の株価は一時、14%も高騰。8月7日の高値からの下げ幅も15%を切った。それに対してZOZOの株価は7月18日の高値から半値を伺う下げっぷりで、テスラ社とは対照的だ。

 イーロン・マスク氏は不可能といわれた難事業を幾度も破綻に瀕しながら乗り切ってきた「鉄人」であり、「イーロン・マスク化」は危ぶむ揶揄ではなく、難局を乗り切って「鉄人」に脱皮する期待と受け止めるべきだ。前澤氏が両にらみの誤りに気付いて本道に回帰し、ZOZOをコスト競争力も備えた最強のファッションECプラットフォーマーに変貌させるなら、販売不振とコスト増に苦しむアパレルなどコンテンツ事業者にとって大きな救いとなるだろう。

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