小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔が絶賛
『新生渋谷パルコは奇跡の最高傑作だ!』(2019年11月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_ab46bb4b625668ee0f846fb8496172ba1073525

 

 16年8月に休業して建て替えていた渋谷パルコが11月22日、ようやくグランドオープンにこぎ着けた。渋谷の変貌や財務的制約を乗り越え、『世界に唯一無二なストリートファッションとサブカルチャーの聖地』を目指した新生渋谷パルコが無謀ともいうべき夢をどこまで実現したか、世界が注目するに値する。

まさしく“ファッションカルチャーの聖地”

 新生渋谷パルコは今どきの商業施設としては驚くほどアパレル店舗が多い。ヲタクに尖ったストリートブランドやクリエーターブランド、古着ミックスやヴィンテージのセレクトショップから駅ビルやファッションビルでおなじみのブランドまで、全193店のうちアパレル主体が94店、下着や服飾雑貨まで加えると118店と6割を超える。「駅ビルやファッションビルでおなじみのブランド」は明らかに脇役で、多くは新生パルコに合わせて新たに開発した派生業態を投入している。

 アパレル94店の大半がストリート感覚の若者狙いで、カップルMDが47店、メンズMDが17店、レディスMDが30店とカップルやメンズの比率が高く、キッズMDを扱うのは「MSGM」1店のみ。これほどファミリーMDを拒絶した商業施設はファッションビルでも極めてレアだ。

 メンズMDを扱うのが64店とアパレル店の68%にも達するのはサブカルチャー志向の半端ない強さをうかがわせる。「若者狙い」と言っても低価格の量販的テナントは皆無で、サブカルな希少性にこだわった“コレクションプライス”を打ち出す店もあり、好きなものには金に糸目をつけない若者のヲタク消費に驚かされる。

 基本は定期借家契約のファッションビルだが、直営のコーナー編集売場やポップアップスペースを随所に散りばめ、各フロアをトーキョーのストリートになずらえて変化に富んだ構成を実現している。なのに違和感なくなじむのは、カテゴリーは違ってもカルチャーがつながる配置になっているのだろう。

 B1Fは「新宿ゴールデン街」を思わせる猥雑で怪しげな食文化空間の「カオスキッチン」。1Fは「ディオール」が「リモワ」とコラボするポップアップスペースの「ザ・ウインドウ」、「グッチ」「ロエベ」「コムデギャルソン・ガール」「トム・ブラウン」と「ディオール」「シュウ・ウエムラ」などのコスメブランドが路面店感覚で並ぶ「商店街エディット・トーキョー」。

「ディオール」が「リモワ」とコラボする1F「ザ・ウインドウ」
ロエベ、グッチなどラグジュアリーモードも並ぶ1F

 2Fは「イッセイミヤケ」から「アンダーカバー」までトーキョーモード主体にクリエーターを集積した「モード&アート」。「セレクトショップ」「アートトイ」「ギャラリー」を複合した新業態のスタジオ「2G」もマニア好みのレアアイテムがそろってインパクトがある。

マニアックな複合スタジオ業態「2G」(2F)
トーキョーストリートを代表する「アンダーカバー」(2F)

 3Fはパルコ直営コーナー編集売場の「ガイザーパルコ」をコアにストリート系セレクトからヴィンテージまでトーキョーストリートのエッジをそろえた「コーナー・オブ・トーキョーストリート」。「オフ-ホワイト」をフィチャーしたラグジュアリーストリートのセレクトショップ「ヌビアン」のインパクトが半端なく、これほど高価なアパレルを買える若者が世界には多数存在することに驚かされる。

3Fのコアとなるパルコ直営編集売場「ガイザーパルコ」
ラグジュアリーストリートのセレクト「ヌビアン」(3F)
奥渋のヴィンテージセレクト「グリモワール」

 4Fは著名セレクトから有力アパレルまで駅ビルの人気テナントがそろう最もリアルクローズ寄りの「ファッション・アパートメント」。さすがに新開発の派生業態を投入するブランドが多かった。

4Fパルコミューゼアムの「AKIRA」

 5FはEC連携のショールーミング売場「キューブパルコ」をコアにデジタル仕掛けのショップが並ぶ「ネクスト・トーキョー」。レアなスニーカーやフィギュアを集めてEC連携でオムニに訴求するコレクターズセレクトの「BAIT」が目を引いた。

5Fのコレクターズセレクト「ベイト」にはレア物が満載
5Fのショールーミング売場「キューブパルコ」内の「ラヂオEVAストア」

 6Fは「ポケモンセンターシブヤ」「ニンテンドートーキョー」をコアにトーキョー発のアニメやゲームのキャラクターコンテンツをそろえた電脳サブカルチャーの「サイバースペース・シブヤ」。アニメ/ゲーム好きが世界中から押し掛ける“聖地”になりそうだ。

6F「サイバースペースシブヤ」のコア「ニンテンドートウキョウ」

 ストリートファッションからコレクターズアイテムまでサブカル好みのコンテンツをこれでもかと集積したインパクトは東京はおろかアジア全域でも世界でも唯一無二で、ワールドワイドな超広域からファッションヲタクやサブカルヲタクを引き付ける魅力に満ちている。元祖ファッションビル「パルコ」の生誕50周年の節目にあたり、世界に唯一無二な“ファッションカルチャーの聖地”を目論んだ意気込みは十二分に結実したのではないか。 

世界に唯一無二な“サブカルチャーの聖地”

 新生渋谷パルコの印象は尖ったマイナーカルチャーがごった煮になった超濃い味の“闇鍋”みたいなもので、ファッションのみならずアニメからフードサービスまでサブカルチャー好きなら夢中になるコンテンツがこれでもかと詰め込まれており、定期借家契約のテナントを並べて『はい終わり』というファッションビルとは次元が違う。

 商業施設フロアは「FASHION」「TECHNOLOGY」「ART&CULTURE」「FOOD」「ENTERTAINMENT」「SUSTAINABLE」の6つのコンセプトを軸に編集されており、定期借家契約の固定売場にとどまらず、コーナー編集の可変売場や短期入れ替えのポップアップ売場が随所に配され変化に富んでいる。ファッションもラグジュアリーやモードはもちろんトーキョーストリートやクリエーター、裏渋感覚のヴィンテージまで、それぞれのヲタクが夢中になれるコンテンツを“発掘”してそろえている。

 フロア内の配置も無秩序なカオスではなく目線を通しカルチャーでつなぎ、“商店街”感覚で宝探し的ストーリーを仕組んでいる。とりわけ、裏渋なマニアコンテンツは外回り階段からしか入れない位置に隠しており、裏路地を探索する醍醐味もある。

外階段からしか入れない古着ミックスの「ベルベルジン」(3F)
新宿ゴールデン街を彷彿させるB1「カオスキッチン」
ビールケース椅子の立ち飲み酒屋。B1「カオスキッチン」
「カオスキッチン」の奥地にはゲイバーも潜む!

 ファッションもともかく、度肝を抜かれるのは地下1階「カオスキッチン」で、ジャンルレス・シーンレス・ジェンダーレスに新宿ゴールデン街や奥渋をイメージしたというだけに、立ち飲み酒屋やスナックバーの間にレコード店があったり、厚化粧のオネエさんが歓待してくれるゲイバーまで潜んでいる。その一方で、5階「ネクスト・トーキョー」ではECと連携するショールーミング編集売場「キューブ」、QRコードでパルコの公式オンラインサイトへ飛ぶ大型サイネージ、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)を使った空間演出や体験コーナーなどテクノロジーにも尖っている。

 かつてのパルコは「公園通りの奇跡」で渋谷を東京の若者の“ファッション聖地”に化けさせたが、新生パルコはトーキョーストリート発のコンテンツを軸としながら世界のストリートコンテンツも随所に取り込み、トーキョーに日本全国からアジアから世界からマニアックな若者を引き寄せるワールドワイドな“ファッション狂とサブカルチャーの聖地”となるに違いない。

贅沢かつ困難な課題を実現した「現代の奇跡」

 渋谷パルコの再開発は、「世界に唯一無二な楽しい、面白い、格好いい商業施設」を目指して凝りに凝った商業施設に劇場を乗せ、投資の採算を図るべくその上にオフィスまで乗せ、中からも外からも回遊できる斬新な建築にするという、幾つもの課題を全て実現せんとする贅沢かつ極めて難易度の高い構想だった。実際に開業した姿は満点とは言えないまでも、73年に開業した当時の「公園通りの奇跡」をふた回りスケールアップした「現代の奇跡」を実現している。

 渋谷パルコの再開発は同じくJ.フロント リテイリングが中心となって開発した「GINZA SIX」との共通点が指摘される。公共道路を跨ぐ再開発、上層階へのオフィス導入、インバウンドなどグローバル対応だが、渋谷パルコは難易度も技術度もさらに高かった。

「GINZA SIX」はオフィスが7階〜12階の3万8000平米、商業施設が地下2階〜6階の4万7000平米で、文化施設は地下3階の観世能楽堂の1630平米(480席)に限られる。商業施設にはラグジュアリーブランドからイートインまで241店舗がそろい、初年度600億円の売上予算をクリアしたと言われるが、定期借家契約のテナント構成で運営の手間がかからず、わずか30人のスタッフで運営して収益性も高い(同規模の百貨店運営では300人を要する)。

 新生渋谷パルコは12階〜18階の事務所床1万4750平米を不動産賃貸のヒューリックに譲渡し、商業施設は地下1階〜8階および10階の一部、営業面積4万2000平米に193店舗を配している。1.5倍の636席に拡大したパルコ劇場の他、9カ所のギャラリーを散りばめているから、文化施設の規模は「GINZA SIX」を凌駕する。

 定期借家契約のテナントビルとはいえ、パルコが直営するコーナー編集売場の「ガイザーパルコ」(3F)や「ポートパルコ」(4F)、オムニチャネルなEC連携コーナー編集売場の「キューブパルコ」(5F)、ポップアップ展開の「ブリッジ」(2F)、「ザ・ウインドウ」(1F)、「ゲート」(1F)など出店者を多頻度に入れ替える手間のかかる売場も多く、「GINZA SIX」のように手間のかからない運営とは次元が異なる。

 年間売上高は建て替え休業前の16年2月期の153億3600万円から200億円に伸ばしたいとしているが、極限まで凝った構成、知恵と手間暇を惜しみなくかける運営が国内のみならず世界の若者の人気を集めてストリートファッションとサブカルチャーの“聖地”となるなら300億円に届くかもしれない。百貨店や商業施設が手間のかからぬ定期借家契約に依存して創造力も編集力も失っていく風潮に、新生渋谷パルコは一石を投じたのではないか。

 加えて、駅ビルと高層オフィスと通勤客の行軍という無個性な街と化していく渋谷“新市街”に対し、蘇った渋谷109とともに若者が坂と路地の街を探索する渋谷“旧市街”の魅力を高めていくと期待される。「公園通りの奇跡」は今の渋谷にこそ必要なのだ。

 

論文バックナンバーリスト