小島健輔の最新論文

販売革新2008年7月号掲載
『グローバルvs.ローカルの構図が強まるカジュアル市場』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 大手カジュアルチェーンの2月本決算/中間決算が既に発表されたが、ポイントに急ブレーキがかかりライトオンが低迷を深める一方、ユニクロ(単体国内事業)は巡航成長を続けて各指標も上向き、グローバルSPAへの変貌を実感させた。08年8月本決算で売上4480億円を見込むユニクロの巡航成長の一方、ライトオンは08年8月本決算見込みで1030億円と売上減少に転じ、08年2月本決算で731億円に達したポイントも既存店売上がマイナスに転じて成長に黄信号が点り、ユニクロの独走が際立つ図式となった。

低迷を深めたライトオン

 NBジーンズ軸のアメカジで寡占的地位を固め成長して来たライトオンだが、そのNBジーニングの凋落とともに06年8月期来、業績がジリ貧に転じ、カジュアルの本流がジーニングからレイヤードに雪崩打った08年2月中間期は劇的な販売不振に陥った。
 既存店前年比は87.2と二桁の落ち込みとなり、08年8月本決算の売上見通しも1030億円と減収に転ずる事が確実となった。坪販売効率は前中間期から15.8%も下落してピークの05年8月期の77%まで低下。商品回転は4.9回と前中間期から1回転近く悪化し、04年8月期の水準まで低下してしまった。販売効率の急落にともなって不動産費率は同1.9ポイント悪化して14.9%に達し、営業経費率は2.8ポイントも上昇して営業利益率は3.4ポイントも低下した。
 NBジーンズ軸のアメカジというローカルなポジションに固執してSPA化が遅れたライトオンはNB比率が高く、企画サイクルが低頻度で調達の射程も長い。調達の機動性を欠いてウェアリング変化への対応が後手に回らざるを得なかったと推察されるが、対応する意志があったかどうかも疑わしい。ジーニング軸の単品ウェアリングが衰退してレイヤードがカジュアルの主流となる中、それに対応する変化は店頭に見られなかった。恐らくは短期的なトレンド、あるいは自社にそれほど影響のない対岸の事象と軽視したと思われるが、現実は対岸の事象に止まらずライトオンの顧客は急減してしまった。

ライトオン再生のキーは柔軟なSPA化だ

 ライトオンの業績が回復し再び成長軌道に乗るには、マーケット変化に真摯に対応してウェアリングとマーチャンダイジングはもちろん、調達手法から根本的に変革する必要がある。ポイントのように企画開発機能を持ったAMS業者と取り組んでSPA化に踏み込めば、企画開発要員を抱える事なく自在なオリジナル開発が可能となり、NBの企画サイクルや調達射程に縛られる事なく機動的な市場対応が出来る。意志さえあれば、レイヤードカジュアルにもすぐさま対応出来るのだ。
 柔軟で機動的なSPA化によってNBジーンズ軸のアメカジというローカルなポジションを脱すれば、新たなグローバル・ポジションを狙う事も可能となる。GAPやアバクロと同列にカジュアル市場を争う成長ビジネスモデルも見えて来るのではないか。
 ライトオンが短期に成長力を回復出来るか否かは、古典的なSPAの概念に捕われる事なくAMS業者を活用した柔軟で機動的なSPA化に踏み出せるか否かで決まる。NBジーンズ軸のウェアリングとNB主体の調達というこれまでの枠に囚われ続ける限り低迷を脱する事は困難で、抜本的なビジネスモデルの転換を迫られている。

成長に黄信号が点ったポイント

 顧客目線のOEM活用ファーストSPAで急成長して来たポイントだが、08年2月決算では成長に急ブレーキがかかった。既存店売上が97.8と前年を割り込んで坪効率も05年2月期の水準まで低下し、商品回転は前期の13.2回から10.7回まで急減速して05年2月期の水準を割り込んだ。粗利益率こそ適確な在庫処分で60.2%とほぼ横ばいを保ったが、販売効率低下に伴って不動産費率が0.7ポイント悪化して16.3%、人件費率も1.0ポイント悪化して14.2%と肥大。営業経費率が42.8%と2.6ポイント悪化し、営業利益率は17.4%と2.5ポイント低下した。止まる所を知らぬかと思われた快進撃も06年2月期/07年2月期をピークに減速に転じた訳だが、ポイントはこのまま失速して行くのか、再び急成長軌道に復帰出来るのか。
 ポイントは業態別の既存店前年比を発表していないが、当社が全国の主要SCから集計している販売データに因れば、08年2月期の1年間平均で既存店が前年を割ったのはグローバルワークとローリーズファームという百店超の主力業態だけで、レイジブルーやジーナシスは一桁後半、ヘザーは二桁の伸びを示している。今期の売上計画でもローリーズファームは横ばいだが、レプシムは3倍、アパートは5割近い伸び、ヘザーは3割強、ジーナシスとレイジブルーも二桁の伸びが見込まれている。グローバルワークとアンダーカレントの二桁増は疑わしいが、幾つかの業態が成長期にある事は間違いない。
 08年2月期の減速は百店を超えて壁にあたった基幹業態の失速が要因であり、ポイント全社が減速に転じる事には必ずしも繋がらない。だが、成長期にあるアパート(14店舗/約20億円)、レプシム(21店舗/約19億円)、ヘザー(33店舗/約37億円)、レイジブルー(39店舗/約58億円)、ジーナシス(55店舗/86億円)などの売上増だけでは50億円強にしかならず、年商730億円を超えた企業を二桁成長させるには力不足を否めない。基幹業態であるローリーズファームとグローバルワークの成長なしには二桁の伸びは保てないのだ。

ポイントは成長軌道に復帰出来るか

 では両基幹業態を再び成長軌道に乗せる事は可能なのだろうか。ローリーズファームは112店、グローバルワークは130店と、ライトオンの470店、国内ユニクロの783店(直営のみ)と較べれば数は知れており、失速は店舗の飽和によるものではない。とは言えターミナル立地のローリーズファームは出店余地が限界に近く、これ以上の多店化は難しい。だからこそ、郊外SC立地版のレプシムに今後の成長を託した訳だ。グローバルワークはターミナルから郊外SCまで立地の巾は広いから、出店立地の限界はまだ遠い。
 問題は既存店売上の失速であり、その要因を解決しない限り再成長に転ずる事は困難だ。ローリーズファームの場合はテクニカルな対応で済み、ブランドポジションやビジネスモデルの変更にまでは至らない。ワンピースやチュニックを軸としたレイヤードに対応すれば既存店前比のクリアは容易で、取り組みOEM業者を多少入れ替えるだけで問題は解決出来ると思われる。
 グローバルワークの場合は問題がもっと本質的なもので、ブランドポジションやビジネスモデルの見直しが必要だ。ミリタリーからプレップまでミックスするワークカジュアルのグローバルワークでは素材の選定から加工まで応分のこだわりが必要で、短射程のOEM調達ではバリュー創造に限界がある。百店以下のニッチなポジションならOEM依存のファーストSPA体制で伸ばせたが、130店舗を超えての成長にはGAPやアバクロのような開発にこだわったSPA体制への転換が必要と思われる。OEMを維持するにしても開発射程は当然に長くなり、店頭陳列も現在の単品訴求からルック訴求に比重を移す事になる。ブランディングの手法もGAPやアバクロと競うメジャーなものにアップスケールすべきであろう。
 端的に言うならローカルニッチからグローバルメジャーへの抜本転換であり、壁を越えればグローバルワークの成長限界はふっ飛んでしまう。それはポイントの成長力も決定する事になる。ポイントの経営陣が本質に気付き抜本転換を決意するか否かが分かれ目となるのではないか。

グローバルSPAへと変貌するユニクロ

 ライトオンが失速しポイントが減速する一方でユニクロの1本調子の巡航成長が際立っている。さすがに年商四千億円を超えて二桁成長には届かないが、毎年三百億円超を積み増して8%前後の巡航成長を続ける勢いは本物だ。
 大型店シフトによる坪販売効率の緩やかな低下は見られるものの商品回転は7回前後で安定し、08年2月中間期では粗利益率も前中間期比3.1ポイント改善して47.6%を確保。不動産費率も8%前後で安定しており、今中間期では人件費率の改善も寄与して営業経費率が27.7%に収まり、営業利益率は前中間期比2.6ポイント向上して20%に達している。正しく巡航成長と評するべきであろう。
 FC19店舗を含めて757店舗という布陣は郊外ロードサイドからターミナルまで立地巾があるとは言え飽和限界も遠くないと思われるが、フルサイズ大型店からコンビニタイプまで多様な提供スタイル、ベーシックな汎用性と突出したバリュー感で様々な客層を捉え、過去9半期間に渡り既存店売上は前年をクリアし続けている。
 商品企画の精度も毎年高まっており、東京、ニューヨーク、パリ、ミラノに拠点を置いたグローバルな企画開発体制が成果に結びつきつつあるようだ。著名デザイナーやアーチストとのコラボを積み重ねてメジャーイメージを固めるとともに、ベーシックとは言え商品にも徐々に洗練されたグローバル感が加わり、バリュー価格のグローバル・ベーシックブランドに変貌しつつある。guを始めとする国内関連事業には課題が残されるもののユニクロ自体は国内外でブランド・ポジションを高めつつあり、H&MやGAPと同列に競うグローバルSPAとして認知されるに至ったと言えよう。

グローバルVS.ローカルの構図

 グローバル・ベーシックSPAに変貌したユニクロ、既に日本市場に定着したGAPやZARAに今秋にはH&Mが加わり、来年にはアバクロも上陸する。グローバルなSPAウォーズが過熱する一方、日本のカジュアル市場は急速にローカル化しており、欧米とは懸け離れたレイヤードスタイルが拡大している。グローバルVS.ローカルという極端な二極化が進行しているのだ。
 大仕掛けな開発体制とブランディングでメジャーポジションを固めるグローバルSPA、機動的で柔軟な開発体制で機微にローカル市場を捉えるローカルSPA、両者がそれぞれに競い合う日本市場でどうポジションを確保するか。大手カジュアルチェーンの戦略選択が問われている。

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