小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年10月02日付)
『トレンドは古着屋で見る』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 最近は新品の店頭よりユーズドのお店を見て歩くことが多くなった。長年の習慣で毎月、主要商業施設の店頭を一巡しているが、最近は百貨店をパスして原宿や下北の古着屋を見る時間に割いている。何で百貨店を見なくなったかと言うとトレンドでは二番手、実需では三番手になって時間を割くだけの価値がなくなったからだ。

 

■百貨店は見る価値がなくなった

 百貨店に並ぶ欧米ブランドやデザイナーブランドは半年も前にコレクションで確認済みだから、わざわざ店頭で見る意味もないし、国内ブランドは一足遅れの売れ筋を追って同質化が甚だしいから、これも見る意味がない。先端的百貨店?の編集売場もブランド揃えはともかくセレクトとリミックスの技は見るものがないし、VMDは稚拙に過ぎる。法外価格で買う気にもなれないから、どうしても足が遠のいてしまう。

 実需は駅ビルや郊外SCを一巡すれば手に取るように解る。駅ビルもSCも特有の客層が何タイプもあって、それぞれの打ち出しと量販訴求、値引き訴求を見れば実需の消長は露骨に掴める。百貨店を見ない理由のひとつに、期中の値引きがない?ことがある。駅ビルやSCでは不振商品は即刻、値引きされるからトレンドの終わりや需給ギャップが解るが、期中売変のない百貨店の売場からは動きが見え辛い。

 もっと実需が解るのがECサイトだ。“売れ筋”ランキングはもちろん、スタッフ投稿のスタイリングで旬の動きは一目瞭然だし(先物というより実需)、販売不振の商品はクーポンや値引きが煩雑に仕掛けられている。ECサイトがありがたいのは商品情報の豊富さで、店頭では洗濯タグを探さないと解らない素材の混率なども詳しく明記されているし、進んでるサイトだと店舗在庫まで見えるから在庫の捌け方や色の偏りも透けて見える。
     

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■どんな古着屋で何を見ているか

 百貨店に代わって見て回ることが多くなった古着屋だが、何を見ているかというと、訴求アイテムと供給量と価格だ。古着屋には大きく分けて4タイプがあって、品揃えも価格もまったく異なる。

1)若者向けの低価格店

 箪笥在庫の放出品に加えて近年はデッドストックの還流品も目立つようになり、割高な新品の需要を代替している。新品価格の三分の一程度が値付けの相場だがコンディションで巾があり、人気アイテムには多少のプレミアムが付く。このタイプが一番、トレンドに敏感で、今シーズンはトラックジャケットやナイロンPO、80’Sなキャラクタープリントのスウェットが目立つ。

2)人気ブランドの転売店

 原宿などの裏ストリートで目立つのがこのタイプで古着より“新古品”が多く、レアものだと新品より格段に高い。古着屋としては突出した最高価格帯に属するがブランド人気の消長は速く、在庫を抱えればロスも嵩む。

3)ヴィンテージセレクト店

 好事家向けのヴィンテージ店はアメカジ系からクリエイター系まで多様だが、レアものを除けば新品価格の三分の一以下で買える。ブランドのアーカイブが蓄積された欧州ではよく見かけるが、我が国でもこれから期待されるタイプだ。

4)セレクトブティック

 近年、注目されるようになったタイプで、新品のセレクトショップと見分けがつかない洗練された店も見られる。商品もきちんとクリーニングしてキレイだし、VMDの感度も高い。デザイナーブランドのヴィンテージもさりげなく混じっており、低価格店よりは高いが新品より格段に手頃でお値打ち感がある。

 

 トレンドを見るなら1)若者向け低価格店で、供給量と価格も参考になる。若者向け低価格古着チェーンで大量に集荷・訴求されているのは確実な実需商品で、その価格は新品価格の足を引っ張る。「ナイキ」や「アディダス」などスポーツブランドのトラックジャケットなど、プレミアムものを除けば新品当時の三分の一以下で売られているから、割高な価格をつけた新品は敬遠されてしまう。ついでながら、店頭で残っているのはS〜Mが多く、売れ足が速いのはL〜XXLのオーバーサイズだ。新品当時と今日の“抜け”スタイリングのサイズ感の違いが実感される。
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