小島健輔の最新論文

販売革新2015年8月号掲載
『アウトレットモールの行方』
(株)小島ファッションマーケティング 代表取締役  小島 健輔

人気アウトレットモールの変化

 当社では08年春、11年秋、そして14年春、一部15年春と主催するSPAC研究会メンバー企業の出店者アンケートと公表された施設別の売上を集計して来たが、その7年間の変化は熾烈だ。
 出店者アンケートにおける08年のベスト20モールで14年のベスト20モールに残ったのは13モールで、7モールが脱落。ベスト10モールからもマリノアシティ福岡が消えている。11年秋に新たにベスト20入りした6モール(すべて新設)でも、14年春のベスト20ではイオンレイクタウンアウトレットとあみプレミアムアウトレット(以下PO)が消えている。年を追う毎に三井不動産と三菱地所サイモンの寡占化が進み、14年春では軽井沢プリンスショッピングパーク(以下SP)を除き人気ランキングの16位まで両社が占めた。
 最新の14年度売上(14年10月期のマリノアシティ以外は15年3月期)では来日外国人売上に押し上げられた御殿場POが年商761億円(16.8%増)と圧倒的な首位を堅持し、神戸三田POが465億円(7.5%増)、三井OPジャズドリーム長島が457億円(0.0%増)、増床した軽井沢プリンスSPが440億円(23%増)、同じく増床した三井OP木更津が422億円(31%増)と続く。売上上位20施設中、三井不動産のOPと三菱地所サイモンのPOが17施設を占め、他は3位の軽井沢プリンスSP、13位のマリノアシティ福岡、19位のグランベリーモールに限られる。
 上位モールは増床を繰り返して200店以上のラインナップを揃えているが、中下位モールは数十〜150店程度に留まってバラエティを欠き、集客力も劣る。拡張余地と資本力のあるモールは競って増床を繰り返しており、上位モールと言えども増床が後手に回れば地盤沈下が避けられない。実際、敷地に余裕がないモールは周辺ライバルモールの増床合戦に圧されて年々、集客が落ちている。

転機が訪れたアウトレットモール

 日本のアウトレットモールは00年7月の御殿場プレミアムアウトレット開業で本格的な発展期を迎え、今日では三菱地所サイモン(旧チェルシージャパン)系9施設、三井不動産系12施設(7月開業の北陸小矢部で13になる)を中心に40近いアウトレットモールが存在するが、ラグジュアリーブランドも揃うAクラスは10施設に届かず、国内ブランドが揃って活気があるBクラスまで含めても20施設に届かない。
 テナントのバラエティを欠く小規模モールや高速道路ICから離れたモール、通常商業施設との中途半端な複合モールは大型モールに圧されて客足が遠のき、優劣格差が広がっている。有力モールとてライバルモールとの増床合戦で後手に回れば売上の減少は必至で、敷地の拡張余地と資金力、リーシング営業力を競う総力戦を呈している。残された有望立地もわずかで、新規に開設される以上に淘汰され閉店あるいは開店休業化していくモールも多いから総数も現状が上限に近く、出店して採算が見込めるモールは全国二ダースに満たない。総市場規模は14年度で7000億円前後と推計されるが、両雄の拡大の一方で弱小モールの売上減少や閉店も進み、アウトレットサイトへの代替も加速するから、インバウンド需要を除けば頭打ちと見るべきだろう。
 アウトレットモール先進国たる米国でもモール数は96年の329がピークで、その後は加速度的に淘汰が進んで12年には185に急減し、やや回復した13年も201に留まっている。その一方で平均GLA(賃貸面積)は96年の15,468平米から13年は36,509平米へと2.36倍に急拡大しており、大型モールが中小モールを淘汰して行った状況が見て取れる。
 そんなアウトレットモールに新たな転機が訪れている。それはファクトリーアウトレットからオフプライスへというテナントの変化と新たな処分チャネルの台頭、限られる内需の天井を突き破るインバウンド需要の奔流だ。

オフプライスストア化と新たな処分チャネルの台頭

 米国ではアウトレットモールの主役がファクトリーアウトレットストア(ブランド直営の処分店)からオフプライスストア(仕入れ品や専用開発品による値引き販売店)に転じて市場規模も桁違いに拡大したが、日本ではどうなるのだろうか。
 プロパー店舗数に対するアウトレット店舗数の比率を見ても、Jクルーがプロパー280店に対してアウトレット139店と五割近くを占め、09年の34.5%から随分と増えた。卸を行っているブランドではさらに甚だしく、ポロ・ラルフローレンはプロパー207店に対してアウトレット259店と1.25倍に及び、09年の95.5%からさらに増えた。それはデパートのアウトレットストアとて同様で、ノードストロムはプロパー116店に対してアウトレットのノードストロム・ラックは167店と144%に達し、09年の64.3%から急増しているし、サックスフィフスなどプロパーが40店に減ったのに対しアウトレットのオフ・フィフスは85店に増えて2.1倍にも達し、09年の96.2%から激増している。オフ・フィフスのアウトレット専用開発商品比率は90%と言われるから、ノードストロム・ラックも大差ないものと推察される。
 実際、アウトレットストアも多店舗展開すればプロパー店の売れ残り品だけで回るはずもなく、専用開発商品や仕入れ商品が大半を占めるオフプライスストアに変質せざるを得ない。日本でも二桁のアウトレットストアを展開しているケースではオフプライスストア化している事が疑われる。実際、当社のSPACメンバーアンケートでも09年から11年にかけて専用商品は3.5倍に急増し、多店舗を展開して全社売上に対するアウトレット売上比率が10%を超える企業に限れば、14年の専用商品比率は平均32%に達していた。
 アウトレットモールの総数が全国40に届かず、そのうち一定の集客と売上が見込めるモールはシビアに見て1ダース、甘く見ても2ダースに届かない日本では専用商品主体のオフプライスストアが主流になるとは思えないが、逆に言うなら40ヶ所を超えてアウトレットモールが増えて行くにはオフプライスストアが主流となる必要が在る。日本のアウトレットモールでも外資チェーンの多くは大半を専用開発商品で回しているが、ほとんどの顧客はそれに気付いていないか納得ずくで騙されているようだから、もはや‘禁じ手’と言う段階ではなくなっている。
 アウトレット店を専用商品中心に回すようになると別の問題が発生する。プロパー店の売れ残り品を処分するチャネルがなくなってしまうからで、その捌け口として台頭しているのが集約処分店とECサイトだ。
 処分品は通常、プロパー店⇒集約処分店⇒アウトレット店と流れるが、商品のライフサイクルが短くなった近年では期中から直接、アウトレット店に流す手法が広がっていた。それがアウトレット店の多店化による専用商品依存で処分品を受け入れられなくなり、通常商業施設内の集約処分店を増やす方向に転じている。集約処分店を設定しているSPACメンバー企業は前年の四割から五割強に増え、総店舗数に占める比率も18%弱(5.6店に1店)に増加している。
 ECサイトを運営しているSPACメンバー企業の6割強はプロパー店舗から引き上げた商品をECサイトで処分しているし、そのうち半分強のメンバーはアウトレット専用サイトを設けている。売場面積や在庫枠という物理的な制約の無いECサイトではロングテールな展開が可能で、最終処分に適したチャネルでもあり、アウトレットサイトやフラッシュセールサイトが急成長してアウトレットモールの役割を代替しつつある。

インバウンドの神風は何時まで続く

 訪日外国人消費は1〜3月、前年から64%増の7066億円と四半期として過去最高を更新し、その4割を中国人が占めた。年間で43%も増えた前年より一段と加速しており、百貨店協会の調査では百貨店免税売上は免税範囲が化粧品や食料品まで広がった4月は前年同月比322.4%、5月も366.4%と急激に膨張している。それはアウトレットモールとて同様で、アクセスの良いモールや観光地のモールには来日観光客のバスが殺到し、3.11直後の伸び悩みから一転して売上も急伸している。
 インバウンドのブームは‘クール・ジャパン’のトレンドもともかく、急激な円安と近隣途上国の非効率なブランド流通がもたらしたもので、免税売上の四割を占める中国人については関税や消費税、流通の非効率などによる中日価格差も大きな要因だ。日本製品の中国国内価格は三割以上高いし、欧米高級ブランドはさらに割高だ。それに偽物不信も加わって訪日中国人の‘爆買い’を招いている。
 そんな海外購入が災いして中国の旅行収支赤字は12兆円にも達しており、今年に入って中国内の高級ブランド市場はマイナス成長に転じている。欧米高級ブランド消費の流出額は年間2000億円を超えると推計されるが、今年に入っての日本国内における欧米高級ブランド売上の積み増し額を見る限り、過半が日本で購入されているようだ。1〜3月の訪日中国人の買い物総額は1635億円と旅行消費額の58.9%を占めており、年間では7000億円を超えると推計されるが、この‘上乗せ’がなくなったら都心の百貨店や家電量販店はもちろんアウトレットモールも一気に冷え込んでしまう。
 中国政府とて輸出が萎縮する中、内需を盛り上げないと経済成長を維持出来ないから、このほど衣料品や靴・バッグ、化粧品など主要商品の輸入関税を一気に半減して国内消費の盛り上げに乗り出した。これで海外に流出している消費のどれほどが国内に回帰するかは読めないが、効果が足りないと見れば次なる刺激策を講じて来るのは明白だ。為替とて何時、円高に転ずるやも知れず、訪日中国人の‘爆買い’がいつまでも続くと期待すべきではないが、アウトレットモールにも当面の神風となっている。

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