小島健輔の最新論文

マネー現代
『「死にかけ」アパレル業界、じつはまだまだ「生き残れる道」があった…!』
(2021年02月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

最新トレンドは「エッセンシャル」

日本百貨店協会の百貨店売上に続き経済産業省の商業動態統計、総務省の家計調査も2020年通計が出揃ったが、いずれもリーマンショックを超える大幅な落ち込みとなった。

全国百貨店売上は25.7%も減少し、とりわけ衣料品は31.1%(婦人服32.2%、紳士服31.0%)、身の回り品は27.1%、インバウンド消滅とマスクに直撃された化粧品は39.1%も落ち込んだ

商業動態統計でも百貨店は25.5%減少、衣服・身の回り品小売業も16.8%減少したが、スーパーは3.4%増、ホームセンターは6.7%増、大型家電専門店も5.1%増と、エッセンシャル(生活必需)消費や巣ごもり消費は対照的に好調だった。

ドラッグストアは化粧品の落ち込み(7.8%減)を衛生用品などヘルスケアの好調(15.9%増)がカバーして6.6%増だった。

家計調査の消費支出(二人以上世帯)は5.3%減と2年ぶりに減少に転じ、比較可能な01年以降で最大の落ち込みとなった。中でも「被服及び履物」が19.8%減、「教養娯楽」が18.1%減、「交通・通信」が8.6%減と大きく落ち込んだが、巣ごもり消費で「家具・家事用品」は6.1%伸びた

そんな構図は米国とて大差なく、米国商務省小売販売統計でもコロナ禍で食品スーパーなどエッセンシャル(生活必需)小売業が伸びて「小売売上」(自動車・機械・ガソリンを除く)全体は6.9%増加。

ECが大半を占める「無店舗小売業」は22.1%も伸びた一方、「衣料品・アクセサリー小売業」は26.4%、「フードサービス」(飲食業)は19.5%も減少した。日米とも“総崩れ”というより「エッセンシャルシフト」だったことが見て取れる。

「過剰供給」の泥沼

20年の衣料・服飾消費は米国の26.4%減ほどではないが、ほぼ20%減少したと推計される。

減少しても我が国の衣料・服飾小売売上は「小売売上」(自動車・機械・ガソリンを除く)全体の7.96%も占め、米国「小売売上」に占める衣料品・アクセサリー小売売上の4.95%の1.6倍にも及ぶから、コロナ禍による市場縮小が一過性で済むはずがない

アパレル業界の20年春夏物最終消化は業界紙のアンケート調査では60%台に留まり、1〜9月の衣料品輸入数量(衣料品供給の98%を占める)も前年から13%近く減少したが、11月累計は11.6%減まで戻り、20年累計では7%減まで押し戻したと推計される。

21年春夏物の復調を期待した調達と思われるが、コロナ禍が収まらず先走りとなれば過剰供給が余計に酷くなってしまう。コロナ前でも需要に倍する過剰供給で値引き販売が常態化していたのに、消費が20%減っても供給数量は7%減では過剰供給は解消されそうもない。

アパレル業界はコロナで壊滅的な打撃を受けたのに懲りておらず、コロナが収束すれば以前の売上に戻ると甘く見ている事業者も少なくない。楽天的なほどポジティブな業界だから、喉元過ぎればまたぞろ過剰供給の泥沼にはまることになりそうだ。

大手アパレルのひどい惨状

とは言ってもコロナ禍のダメージは大きく、大手アパレルは軒並み業績の悪化に苦しんでいる。ワールドが2月3日に発表した21年3月期第3四半期決算(4〜12月)の惨状とリストラ策に『アパレルはここまで追い詰められたか』と業界に諦観が広がった。

ECが20.9%伸びても店舗売上が激減し、売上は前年同期から27.2%も減少。営業利益は96億7000万円の赤字と前期から266億5800万円も落ち込んだ。

通期も売上が24.7%減少して222億円の営業赤字、最終損益も76億円のリストラ費用などを計上して175億円の損失を予想している。

長引くコロナ禍による想定を超えた業績の悪化にともない、20年8月5日に決定した21年3月期中の5ブランド終了と358店の閉店、200人の希望退職募集(294人が応募)だけでは足りなくなり、21年2月3日には新たに百貨店ブランド中心に7ブランドを終了するなど450店舗を来期中に閉店し、約100人の希望退職を募集すると発表している。

今期来期の合計閉店数は800店を超え、16年3月期の500店を合わせれば1300店、希望退職者数は16年3月期の453人を合わせれば847人にも上る。

そんな惨状は他社も大差ない。

TSIホールディングスは第3四半期累計(3〜11月)で売上が22.7%減少して111億9600万円の純損失を計上。通期も22.3%の売上減少と178億円の営業赤字を予想しており、期中に少なくとも234店を閉め、300人の希望退職を募集している。

アパレル業界に未来はあるのか

オンワードホールディングスは第3四半期累計(3〜11月)で売上が28.3%減少して142億円の純損失を計上。通期も24.5%の売上減少と89億4500万円の営業赤字を予想しており、昨年末の12月11日には虎の子のオンワードラグジュアリーグループを売却。前期の423人の希望退職に加え、今期と来期で1400店を閉める。

三陽商会も第3四半期累計(3〜11月)で売上が38%(月次前年比から推計)減少して67億8500万円の営業赤字を計上。通期も前々期比(前期は14ヶ月の変則決算)35.7%の売上減少と85億円の営業赤字を予想しており、今期中に160店を閉めて販売員500人を雇い止め、150人の希望退職を募集する。

三陽商会は13〜18年にも770人が希望退職しており、今回の応募次第では累計希望退職者が千名に及ぶやも知れない。

これを“総崩れ”と言わずして何と言うべきかだが、長年の楽観的に過ぎた経営のツケと言うしかあるまい。

ではアパレルにまったく未来がないかと言うと、そうでもないと思う。

異次元緩和とオリンピック期待で無理やり盛り上げてきた平成バブルも長引くコロナ禍で弾け散り、収入減や失業で生計に窮する人々が半端なく広がる日本はオリンピックを支える機運も体力も尽き、贅沢なお洒落や割高な通勤服に支出を割く余裕はもはや大衆には残っていない。

じつはユニクロ「だけ」じゃない

百貨店や駅ビル/ファッションビルを主戦場とした高額なアパレルの崩壊はもう止まらないが、生活圏の手軽なお洒落を支えるエッセンシャル(生活必需)なアパレルはユニクロのような大手から中小まで現状を維持するだろうし、規模は限られるものの個性的なアパレルもD2Cで新たなマーケットを開くと思われる。

アパレル市場はコロナ禍で八掛けに萎縮した規模から大きく回復することは到底望めないが、コロナ禍を契機に店舗の賃料や運営コストの圧縮が進めば採算規模に収斂し、ECと連携して八掛け強で均衡するのではないか。

過剰供給で積み上がった流通在庫や消費者のタンス在庫からの放出も新品販売を圧迫するから、それがアパレル市場規模の天井であり、その中で時代に応じた新陳代謝が繰り返されていくだろう。

夢を創り夢を売って過大に膨れ上がったアパレルのバブルは少子高齢化がもたらした日本の落日と社会の疲弊で萎んだが、日常生活を支えるエッセンシャル衣料は規模を維持し、趣味的な衣料もそれなりに残る。規模とコスト、価値と価格をわきまえるなら、アパレルもそれなりにやっていけるのではなかろうか。

※D2C(Direct to Consumer)……ブランドメーカーが店舗やネットの小売業者を通さず、自社のサイトやショールーム、ポップアップストアで直販する販売形態。

 

論文バックナンバーリスト