小島健輔の最新論文

販売革新2014年7月号掲載
『オムニチャネル革命は21世紀の流通革命だ』
(株)小島ファッションマーケティング 代表取締役  小島 健輔

 「オムニチャネル革命」の実感が日々、強まる中、Eコマースも店舗販売も刻々と変貌を迫られている。そんな革命前夜的状況下、毎年恒例のSPACメンバーアンケートにも風雲急を告げる変化が現れていた。

■ES攻守逆転の衝撃

 「オムニチャネル革命」はEコマースの急拡大に対するストアビジネスのささやかな反撃から始まり、両者が人海戦術から最新ITまで駆使して『いつでもどこでも選んで買って受け取れる』便宜を競うにつれ、両者に劇的な進化形態が出現する新局面に移りつつある。
 米国ではスマホが劇的に普及してモバイル消費が日常化しEC化率が6%に迫った2011年頃からショールーミングの脅威が叫ばれ、ストアビジネスが対策を模索するようになったが、大手デパートチェーンなどのオムニチャネル戦略が具体的に動き出したのは12年に入ってからで、業界こぞっての一大潮流となったのは13年以降の事だ。
 日本では大手セレクトチェーンなどでO2Oが奏功して自社サイトの伸びがモールサイトの伸びを上回るようになった12年頃からオムニチャネルの黎明期に入り、13年に入ってO2Oからオムニチャネル戦略へと先行企業から意識が変わり始め、夏から秋にかけての「WEAR」騒動を契機に業界全体に認識が広がり、セブン&アイ・ホールディングスのオムニチャネル戦略発表で流通業界最大の戦略課題となった感がある。
 一時はEコマースの拡大とスマホの普及でショールーミングが脅威とされたが、ストアビジネス側のオムニチャネル戦略が本格化するに連れ、米国では13年8月のマーケットトラック社の調査でショールーミング率78%に対してウェブルーミング率76%と拮抗。同年11月のハリスポール社の調査ではショールーミング率46%に対してウェブルーミング率69%と逆転に至っている。
 日本でも13年頃からO2O効果でウェブルーミングが拡大する傾向が見られたが、13年春のSPACメンバーアンケートではショールーミング効果+12%に対してウェブルーミング効果+9.4%だったのが14年春のアンケートではショールーミング効果+9.3%に対してウェブルーミング効果+10.1%と店舗優位に逆転した事が注目される。O2Oが先行した日本のファッション分野ではスタートトゥデイ社を除き、12年からマガシーク社やスタイライフ社など専業Eコマース事業者の業績が暗転していたから、オムニチャネルなウェブルーミング逆転現象(ストアビジネスの優位化)は米国より先行したのかも知れない。
 種々の統計調査から推計すれば日本の衣料・身の回り品EC売上は13年度で5945億円、EC化率は4.17%に留まるが、同分野の通販売上比率が12.3%に達して大手通販企業のネット受注比率が過半を超えている事を考慮すれば、実質は13年度で8000億円を超え、EC化率も6%台に載ったと推計される。
 商業デベや百貨店は未だショールーミング恐怖症から脱却出来ないでいるが、ブランド/テナントビジネス側ではES隔てない販売体制が広がり、サイトとSNSで店舗へ誘導する一方で店頭ではタブレットを使ったEショップ誘導が公然と行われている。地道なO2Oを積み上げて自然にオムニチャネル対応が進んだ我が国ファッション業界では館側のショールーミング拒絶はもはや有名無実化した感がある。

■ECモール最新評価に見る時代の趨勢

 そんなオムニチャネル時代にECモールはテナント企業にどう評価されているのか、今春のSPACアンケートで初めて取り上げてみた。評価項目は1)売上規模、2)売上伸び率、3)売上対比経費率、4)モールのファッション感度、5)フルフィルメント・サービス充実度、6)マーケティング情報の提供、7)オムニチャネル対応、の七項目。
 1)売上規模、では「ゾゾタウン」が突出した首位で2.48P、大きく離れて二位の「楽天市場」が1.27P、三位が0.43Pの「マルイウェブチャンネル」、四位が0.17Pの「スタイライフ」、五位が0.09Pの「マガシーク」と格差が大きく、「楽天市場」を除く4モールがファッションECモールだった。4)モールのファッション感度、でも「ゾゾタウン」が1.62P、同じスタートトゥデイの「ラブー」が1.00Pと一、二位を占め、三位が0.73Pの「マガシーク」、四位が0.63Pの「アイルミネ」、五位が0.33Pの「パルコシティ」「ファッションウォーカー」と、上位6モールをファッションECモールと駅ビル/ファッションビル系ECモールが占めた。ファッション商品についてはモールの感度イメージが集客を左右するようだ。
 2)売上伸び率、は規模の差が反映されるためストレートには受け取れないが、一位は0.40Pの「イオンモール・オンライン」、二位が0.33Pの「パルコシティ」、三位が0.29Pの「ゾゾタウン」、四位が0.27Pの「楽天市場」、五位が0.25Pの「109ネット」。集計17モール中8モールがマイナス評価となったのは、オムニチャネル化が進んでファッションECの伸びが自社サイトに移行している事を反映したものと推察される。
 3)売上対比経費率、は売上規模/売上伸び率ともに最低評価だった「ヤフーショッピング」が1.67Pと最高評価で、二位は0.92Pの「アマゾン」、三位は0.91Pの「楽天市場」、四位が0.75Pの「au one ブランドガーデン」、五位が0.67Pの「セレクトスクエア」。上位3モールを総合ECモールが占めたのは5)フルフィルメント・サービスとも関連するものの、手数料率の格段の違いを反映したものと思われる。フルサービスで手数料率の高いファッションECモール、無料〜数%と格段に安いがフルフィルメント・サービスは別料金の総合ECモールという違いはあるが、マイナス評価のモールが無かったのは店舗小売業の不動産費・販売費と較べると依然、割安感があるからだと推察される。
 ちなみに同回SPACアンケートでは、物流を自社で負担している年商1億円以上の15サイト平均手数料率が6.8%だったのに対し、物流をモールに委託している年商1億円以上の47サイト平均手数料率は32.2%で、その差は25.4ポイントもあった。全モールサイトの売上対比総経費率(出店側の人件費や管理費も加わる)は年々、高騰して今年は36.9%に達したが、それでも店舗小売業のテナント店運営総経費率に較べるとまだ割安感があるようだ。
 5)フルフィルメント・サービス充実度、でも「ゾゾタウン」が1.33Pと首位で同社の「ラブー」が1.20Pで続き、以下「ファッションウォーカー」が1.17P、「セレクトスクエア」が1.00P、「イオンモール・オンライン」が0.80P、「アマゾン」が0.77P、「au one ブランドガーデン」が0.75P、「スタイライフ」が0.67Pと続く一方、テナント物流型の総合ECモールは評価が低かった。
 6)マーケティング情報の提供、は顧客プロファイルや買上歴、マーケティング情報の提供を指すが、最高評価の「ゾゾタウン」でも0.67Pに留まり、二位の「マガシーク」の0.09Pまでを除いて三位以下全モールがマイナス評価となった。最高評価の「ゾゾタウン」でもクラスター分析までで、どのモールも顧客情報/購買履歴は提供しておらず、モール店舗ではオムニチャネル対応が難しい事から自社サイトへのシフトが加速している。
 その7)オムニチャネル対応、では「ゾゾタウン」が0.95Pと首位、続く「パルコシティ」の0.67Pまでがプラス評価で、四分の三を超える13モールがマイナス評価となった。「ゾゾタウン」はスタイリングSNSアプリとしての「WEAR」が、「パルコシティ」は実店舗の館とECモールを積極的に交流させる実績が評価されたものの、他のEC専業モールは打つ手も無く、他の商業デベ系ECモールはオムニチャネルへの及び腰が失望されたものと推察される。
 総合評価は「ゾゾタウン」が7.62Pと突出した首位で、五項目で最高ポイントを獲得。大きく離れて二位は1.55Pの「マガシーク」、三位が1.40Pの「ラブー」、四位が1.00Pの「マルイウェブチャンネル」、五位は0.67Pの「スタイライフ」と「パルコシティ」で、上位3モールをファッションECモールが占めた。タイプ別平均値もファッションECモールが0.86Pと突出し、商業デベ系ECモールは▲0.32P、総合ECモールは▲1.37Pと評価が低かった。
 そのファッションECモールとてオムニチャネル化が加速して自社サイトシフトが強まる中、「ゾゾタウン」を除いては伸び悩みが顕著で、11年10月にはワールド系のファッション・コ・ラボ社がファッションウォーカー社を吸収、12年6月には高島屋がセレクトスクエア社を子会社化。13年3月にはNTTドコモがマガシーク社を子会社化、楽天がTOBでスタイライフ社を子会社化、14年6月末にはアマゾンが「ジャバリ」をサイト内に吸収と、淘汰が進んでいる。
 オムニチャネル化が一段と加速する今後、自社ECサイトとオムニチャネル交流を推進する先進的な商業デベ系ECモールがECの主流と成らざるを得ず、EC専業企業は独自のオムニチャネル戦略で活路を切り開く必要に迫られる。その明日は米国の状況を見れば想像が付こうというものだ。

■EC企業の反撃とショールームストア

 米国ではストアビジネスの反撃が始まるのとほぼ同時期の11年末からアマゾンは24時間営業のCVSなどに受け取りロッカーを配備し始めたし、ECで台頭したアイウエアのウォービーパーカー社はサンプル商品を試してタブレットでECに発注させるショールームストアを布陣し、ECでのカラーチノ販売で台頭したボノボ社はノードストロムと組んで同社店舗内にショールームコーナーを開設して急成長している。
 Eコマース事業者のオムニチャネル対策はラストワンマイルをカバーする受け取り拠点の整備、あるいはショールームストアの布陣、というのが模範解答となりつつあるが、後者はアップルストアが先んじて実現したものだ。2001年5月19日、バージニア州のタイソンズコーナーとカリフォルニア州のグレンデールガレリアにオープンしてから表参道店までアップルストアは425店舗を数え、その全世界売上は202.3億ドルとアップル社全売上の11.8%を占め、ルイ・ヴィトン並みの坪販売効率(21万7800ドル/年)と営業利益率(19.8%)を誇っている。
 アップルストアの成功がEコマース事業者のショールームストア戦略に繋がり、旧来のブランド流通システムを革命する事になれば、これまで流通コストと値崩れに苦しんで来た家電や生活用品などの消費材メーカーはもちろん、法外な不動産費や店舗運営費と苦闘して来たチェーンストア事業者も約束の地を見出す事になる。

■「蟹工船」ビジネスから脱却する21世紀の流通革命

 流通・販売のオムニチャネル化がEコマース事業者のショールームストア展開という回答を導き出す一方、「失われた20年」の果てにようやくデフレを脱して経済が浮揚し、少子高齢化で低賃金若年労働者の確保が困難になって行く我が国流通業界は物流と販売を分離した省労働力流通システムの確立を急ぐしかなく、ここにES両方向からショールームストアという未来への回答を見出すに至った。
そもそもチェーンストアは、ギリシャ・ローマの奴隷制に立脚した市民文明を起点に産業革命以降の階級化社会を形成して来た欧米文明下、失業者が溢れる大恐慌時代の米国で成立したデフレ型ビジネスモデルであり、低賃金労働者の潤沢な供給を前提に物流と流通・販売が一体となった前世紀の「蟹工船」的事業形態と言わざるを得ない。それは外資系チェーンも外食系チェーンも同様であり、少子高齢化と若年労働人口減少が加速し賃金水準が上昇していく中、もはや成立が困難になると覚悟すべきだ。
 万一、チェーンストアのようなデフレ型ビジネスモデルが継続しうるとしたら、若年世代への所得と資産の移転が進まず、家庭の形成も子女の養育も住宅の取得も困難となり、少子高齢化が加速して我が国の未来は閉ざされてしまう。ならば20年振りの好機を活かし、ショールームストアというオムニチャネルに物流と流通・販売を分離した省労働力型のビジネスモデルを確立して若年世代労働者の所得を飛躍的に高め、若者と我が国の未来を開こうではないか。20世紀の流通革命がチェーンストアであったなら、21世紀の流通革命はオムニチャネル&ショールームストアとなるのではないか。

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