小島健輔の最新論文

繊研新聞2005年7月5日付掲載
第87回全国有力SCテナント調査2005春商戦
『不足の時代が新たなチャンスを開く』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

亜熱帯ジャパンの新時代を開いた今春夏商戦

 2月の装飾キャミソールからスタートして3月のワッシャーシャツ/カフタンブラウス、4月のコンパクトジャケット、5月のレイヤードアンサンブル、6月の羽織りニット/ボレロと、季節が逆行するように売れ筋が巡っていった春夏商戦であったが、それだけ新鮮なスタイリングが次々と登場した歴史的な転換シーズンであったとも言えよう。前々回から重ねて予言した通り、日本の亜熱帯化とウエストコースト&レイヤードスタイルのメジャー化で、ウェアリングとMD展開は一気にシーズンレス化してしまった。来春夏に向けては今シーズンのウェアリング革命にラテン(南半球)トレンドの爆発が加わるから、シーズンレス化はさらに加速するに違いない。今春夏のウェアリング展開(=MD展開)こそ今後の起点となる新たなスタンダードと肝に命じ、過去のMD展開の常識をすべて捨てて来春夏期のストーリーを描くべきであろう。
 この歴史的とも言うべきウェアリング革命に上手く乗れたのは短サイクルMDのリテイル系SPAぐらいなもので、古典的なMD展開に囚われたままの百貨店ブランドは手痛いダメージを受けた。春商戦で前年をクリアしたのはウェアリング革命以前にあるメンズブランド/ストアのみで(101.5)、百貨店婦人服・洋品は93.7、同紳士服・洋品は94.8、レディスブランド/ストアも96.2と低迷を継続した。夏商戦に入ってから泥縄式に盛り上がった「クールビズ」もシャツを持ち上げてネクタイの足を引っ張っただけで新たなマーケット創造には至らなかったが(半年は前から準備しないと無理)、来春夏のメンズ市場に亜熱帯スタイル/ラテンスタイルを提案する契機となった事は確かであろう。

スタイル変化への対応が明暗を分けたレディス

  ヤングのブランド系は低迷を継続し、クリエイティブキャラクターの「A/T」「ナショナルスタンダード」、ストリートカジュアルの「トゥーアクー」などに好調ブランドが交代。カジュアルストア/SPAではナチュラル系カジュアルストアの「ジーナシス」が絶好調に加速、「agプラス」「タァルガ」が好調組に加わった。キャラクター編集ストアの「フレーバー」も絶好調に加速した。
 セクシーガールではトレンドキャラクターが好調を継続。「ラブガールズ・マーケット」は絶好調を継続し、好調継続の「ラブボート」「LB−03」に「アナップ」「ジャッシー」「エゴイスト」が加わった。B系復活の波に乗り、「スライ」も絶好調に加速した。カジュアルマーケット全体の亜熱帯化で同質化に沈むブランドと変化をリードするブランドに二極化しており、トレンドキャラクター系の明/エレガンスキャラクター系の暗という構図が明白だ。
 ワーキングガールは総じて勢いを落とす中、カジュアルミックスストアの「パラビオン」「アクシーズ・ファム」が台頭。ロマンティックキャラクターでは「トルネードマート・ファム」「ミスアリス」、キュートエレガンスキャラクターでは「プライドグライド」「プライベートレーベル」、ナチュラルキャラクターでは「ロペピクニック」など、好調ブランドの入れ代わりも目立った。
 インターナショナルクリエーターでは「アナスイ」「マークbyマークジェイコブス」が好調に加速、「シンシア・ローリー」「ジル・スチュアート」も健闘した。セレクトショップでは「ガリャルダ・ガランテ」は絶好調に加速したが、減速するブランドも見られた。多店化して鮮度の落ちたストア型SPAは低迷を継続、カジュアルキャラクターの「グローバルワーク」も絶好調から好調に減速した。
 ウェアリング変化に乗り遅れたトランスキャリアは減速/失速して絶好調ブランドが消え、好調ブランドも「ノーベスパジオ」「アナイ」「ラ・エフ」などに限られたが、「Mプルミエ」の健闘が目立った。トラッドは低迷を継続し、好調ブランドがなくなった。
 ミッシーは低迷を継続して好調ブランドは「ノーリーズ」に限られたが、大型ブランド「23区」の健闘が特筆される。キャリアは部分的ながら勢いを回復し、「シトラスノーツ」「マルニ」「ヴィヴィアン・ウェストウッド」が絶好調に加速、「エポカ」は好調に加速。「スポーツマックス」も健闘した。ウェアリング変化に取り残されたミセスは低迷を深め、好調ブランドはエレガンスキャラクターの「トゥー・ビー・シック」に限られた。プレタも失速/減速が目立ち、好調ブランドはほとんどなくなった。
 ラグジュアリープレタではエレガンスプレタが復調して「クリツィア」「エスカーダ」が好調に加速。トレンドプレタでは「ジルサンダー」が絶好調に加速、「セリーヌ」が好調を継続したものの、失速/減速するブランドも目立った。ラグジュアリーグッズのバッグ/シューズ系では「ボッテガ・ヴェネタ」が絶好調に加速、「フェンディ」「ロエベ」も好調に加速したが、宝飾系では好調ブランドが見られなかった。

二大潮流とこだわりの狭間で惑うメンズ

 勢いを回復したヤングでは、ストリートカジュアルで「レイジブルー」、モードカジュアルで「トルネードマート」、ベーシックキャラクターで「Rニューボールド」が好調ブランドに加わった。
 ヤングアダルトでは「お兄系」の波に乗ってホストキャラクターが復活し、「バルー」「テットオム」が好調に加速。スタイリッシュキャラクターは堅調を継続し、好調継続の「バーバリー・ブラックレーベル」に「ポール・スミス」が加わった。ナチュラルモードキャラクターも復調し、「キャサリン・ハムネット」「リキエル・オム」が好調に加速した。ストリートクリエーターは上級版お兄系モードカジュアルと化し、好調継続の「5351プールオム」に「コムサ・コレクション」が加わった。
 グローバルカジュアルでも、お兄系モードカジュアルの奔流でトラ味/スポーツ味のブランドが失速し、「フレッド・ペリー」を除いて好調ブランドは見られなかった。
 コンテンポラリーではスタイリッシュ系の「セオリー・メン」「ジョゼフ・オム」が好調を継続する一方、一部を除いてトラッド系ブランドは苦戦を継続した。アダルトでも好調ブランドは「ゼファー」「ジョセフ・アブード」などのスタイリッシュなユーロモード系に限られ、イタリアントラッド系は苦戦した。ビジネスは総じて低迷を継続し、好調ブランドは見られなかった。プレステージも総じて減速したが、好調継続の「ロロ・ピアーナ」に「エルメネジルド・ゼニア」が加わった。
 品揃えはほぼ全タイプが低迷を継続、セレクトやSPAはタイプで明暗あるも堅調に回復した。SPAではアウトドアの「コロンビア・スポーツウェア」「ノースフェース」「エーグル」が好調を継続。セレクトショップでは好調継続の「トゥモローランド」にデザイナーズ編集の「ルイス」が加わり、テイスト編集系も堅調に回復した。
 ヤング〜ヤングアダルトではゆるめセクシーなお兄志向、コンテンポラリーではメトロセクシーなスタイリッシュ志向が主流の中、セレクト各社はこだわりとトレンドの狭間で方向性を見失っているように見える。

「不足の時代」がもたらすビッグチャンス

 マーケットサイドでは加速度的なシーズンレス化、グラマラス/スタイリッシュ/ネオコン/ローハスといった様々なスタイリング志向、中産階級の崩壊とニューリッチ&ニュープアの台頭というドラスティックな社会変化が指摘されるが、サプライサイドの変化はもっと劇的だ。原材料市況の高騰とグローバル分業再編を背景とした付加価値創造のファブリケーションからキーデバイスへの移行、労働人口の世代再編と需給逼迫という「不足の時代」の到来に直面し、ファッションビジネスも産業界も歴史的な転換点を迎えている。過剰供給環境を前提としたマス調達やQRの論理が破綻し、理念を持って市場を創造する作り手/売り手が顧客と直結して流通を主導するブランドビジネスの古典的モデルが一気に普遍化しようとしている。
 供給が限られる原料/部品/商品/サービス/人材は常にインフレ圧力を受け、ブランディングのプロセスに組み入れられていく。逆に潤沢な供給を目指す者は常にデフレ圧力を受け、コスト削減の悪循環に巻き込まれて行く。マス・プロダクト=マス流通というモダニズム神話が崩壊し、古典的な需給モデルが復活するだけだと思ってもらっても良い。家電業界など、それだけで出口のない悪循環から脱出出来るし、リゾートビジネスの再生はその論理で貫かれている(オン/オフ・シーズンの価格差は今や3倍が常識だ)。
 優れた作り手/売り手がブランディングを目指して売り惜しむようになれば、量産量販に立脚するビジネスモデルは悉く崩壊してしまう。だからこそ「ケイレツ」と「安定雇用」を復活させねばならないのだ。コスト削減とQRを追ってこの両方を放棄しファブリケーションビジネスに堕したファッションビジネスは、「不足の時代」に直面して古典的ビジネスモデルに回帰すべきかも知れない。
 「不足の時代」はあらゆる分野で新たなビジネスチャンスを産む。その本質は供給の抑制とブランディングであり、インフレ循環によって潤沢な価値が創造されていく。「薄利多売」「EDLP」「コストカッター」が死語になる日が迫っている。

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