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『「ユニクロ ムーブ」閉店で「スポクロ」復活?』 (2019年08月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ユニクロはアクティブウエアをコンセプトに17年3月、新宿高島屋8階に開店した国内唯一の「ユニクロ ムーブ」(250平米)を5年の契約期間終了を待たず、8月18日で閉店した。米国の「ルルレモン」が火をつけたアスレジャーブームにいち早く対応して注目されたコンセプトストアにもかかわらず、多店化することもなく閉店に至った事情はなんだったのだろうか。

「アスレジャー」の捉え方が違った

「ユニクロ ムーブ」が閉店に至った直接的な要因は同じ高島屋の12階にある「ユニクロ」の大型店と差別化できず売上げが低迷したこととされるが、東京オリンピックを翌年に控えても一部の人気ブランドを除きスポーツブランドが意外と伸び悩んでいることと合わせ、スポーツ&アスレジャー市場の実態が垣間見える。

 60年代以来、幾度か繰り返されたワンポイントブームに象徴されるように、カジュアルウエアとアクティブウエアは時代のトレンドで近づいたり離れたりを繰り返してきた。近年のアスレジャーブームにしても、ジャージのトラックスーツ姿は00年代にヒルトン姉妹やジェニファー・ロペス、ブリトニー・スピアーズなどセレブが愛用してブームとなった「ジューシー・クチュール」と大差ない。違うのはセレブ感覚のキュートなベロア・ジャージと機能重視のアクティブな合繊ジャージ/シャカシャカクロス、バストやヒップを強調したボディ・コンシャスとボディラインを意識させない緩いサイジングで、時代の社会通念の一変を感じさせる。

 今のアスレジャーはこれ見よがしなファッショントレンドというより生活に定着した日常着であり、着回しの利く楽チンなジャージスタイルはジーニングやアメカジに代わるカジュアルの本流となった感がある。アスレジャーの原点が米国の「ドームスタイル」(部屋着も外出着も大差ないTPOレスな学生寮カジュアル)であることも考えれば、セレブなライフスタイル感覚が残る米国のアスレジャーはともかく、少子高齢化と経済の低迷で国力が衰え低所得層が肥大するわが国の現実を反映したネオ・ヤンキーな国民的カジュアルとも捉えられよう。

「ユニクロ」本体がアスレジャーを手頃な生活着カジュアルの一翼として扱ったのに対し、「ユニクロ ムーブ」はお洒落なライフスタイルトレンドとして打ち出したという違いがあったのではないか。「ユニクロ ムーブ」が位置する高島屋の「ウェルビーフィールド」自体が、それまでの百貨店のスポーツゾーンとは一線を画してカフェやフィットネススタジオもそろえ、女性の「美と健康」のライフスタイルを強く意識したことも、両者の性格を分けたと思われる。

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「ユニクロ」本体の対応も不十分

 ではアスレジャーへの対応は「ユニクロ」本体が正解だったのかというと、必ずしもそうとは言えない。

「ユニクロ」の品揃えは従来のキレイめナチュラルモードな無国籍汎用アメカジを出ず、アスレジャー対応は一部に限定され、そのウエアリングも従来のジャージスタイルの枠に留まってオーバーサイジングなストリートスタイルにも対応せず、合繊のグラフィック配色マウンテンパーカなど機能的なアウトドアアイテムを欠いて着回しも限られる。総じてきれいめシンプルな街着感覚でアウトドア気分を欠き、ストリートなグラフィックデザインと本格的機能性を備える「ワークマンプラス」と比べれば割高感を否めない。

 どうやら「ユニクロ」本体はアスレジャーもアウトドアも無国籍汎用アメカジという根幹を補完するトレンドとしか見ておらず、根幹を変える意思はないように見える。となれば別業態に切り出すという選択が考えられるが、「ユニクロ ムーブ」を閉店したのはどういう方針があってのことだろうか。

「ユニクロ ムーブ」のお洒落なライフスタイル提案が大衆のニーズを捉えず、「ユニクロ」本体の部分的な対応にも及ばなかったと総括した上で、アスレジャーへの対応を再構築するとしたら、97年に開発して早くも98年に撤退した「スポクロ」の復活が浮上してくる。

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スポーツ&アウトドアブランドの割高価格は崩れる

 スポーツ&アウトドアがブームとなって久しいが、近年は「ノースフェイス」など、ごく一部の人気ブランドを除いて売上げが頭打ちになっている。グローバルなメジャーブランドは販路が分散して供給過剰でアウトレット売上比率が高く、国内スポーツメーカーの業績も「ノースフェイス」というドル箱を持つゴールドウインを除けば順調とは言い難い。

 その要因はスポーツ&アウトドアブランドの割高感にある。専門的機能性があるとはいえ「ユニクロ」などポピュラーなSPAに比べれば倍以上も高く、競技用として購入するならともかく、生活と生計に追われる大衆が生活着として常用するには限界がある。

 割高なのはグローバルなメジャーブランドから国内ブランドまで、スポーツ&アウトドアブランドのほとんどがオープンな卸流通に依存しているからで、大小のスポーツ専門店から量販店や百貨店、さまざまなECサイトまで販路が分散して流通が統制できず、マーケティングコストも高くつく。直営店を拡大しているのは例外的な人気ブランドに限られ、それらも売上げの大半は卸に依存している。SPAのように店頭在庫まで自らコントロールしているスポーツ&アウトドアブランドはゴールドウイン(19年3月期で自主管理比率56%)を除けば、ほぼ皆無ではないか。

 スポーツ&アウトドアブランドが付ける正価と一般大衆が生活着として買える価格は倍以上乖離しており、アウトレット店や古着店での購入が一般化している。その乖離を突いたのが「ワークマンプラス」で、業界の予想もワークマンの計画も遥かに超えるブレイクとなった。

「スポクロ」は復活するか?

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 新たなブランドや業態が爆発的な人気を博するのは需給や価格のギャップが大きいからで、機能性もファッション性も備えた価格破壊なスポーツ&アウトドア商品には巨大なマーケットがある。ならばユニクロがそんな好機を見過ごすだろうか。「ワークマンプラス」を正面から圧しつぶさんとする低価格高機能スポーツ&アウトドア業態を立ち上げるのは必然と思われる。

 ワークマンが事あるごとに「デカトロン」をライバル視するのも、ユニクロの本格参入を牽制するフェイントに見える。店舗面積が100坪にも届かない「ワークマンプラス」が1500〜3000坪という競技別自社開発ブランド複合スポーツ&アウトドアライフスタイル巨艦SPAの「デカトロン」をことさら引き合いに出すのは不自然だからだ。

 そんなフェイントに惑わされてユニクロが「スポクロ」復活を躊躇するとも思えないから、早ければ来春にも新生「スポクロ」が立ち上がるかもしれない。中華圏こそ成長を継続して国内より高収益化しているものの国内市場は頭打ちで(既存店売上前年比はECを加えても9〜7月累計で100.5%)、EC拡大とともに「ユニクロ」の店舗数も減少しており、「ジーユー」に続く成長の柱が欲しいところだ。「ユニクロ ムーブ」の閉店を前向きに捉えれば、そんな推測もありだろう。

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