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WWD 小島健輔リポート
『ライセンスビジネスが再び脚光を浴びるわけ』
(2022年12月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 フォーエバー21、LLビーン、エディバウアーと伊藤忠商事は立て続けに海外ブランドのマスターライセンスを獲得し、国内アパレル事業者とのサブライセンス・ネットワークを広げている。97年のディオール、98年のアディダスから15年のバーバリーまで、ブランド本家の直販戦略でライセンスが打ち切られる“事件”が相次ぎ、百貨店の凋落もあってライセンスブランドの時代は終わったとさえ囁かれたはずなのに、いま何故、ライセンスブランドなのだろうか。

 

■ライセンスビジネスを拡大する伊藤忠商事

 もとより独占輸入権/マスターライセンス権を持つブランドはFILA、HEAD、Vivienne Westwoodなど、国内商標権を所有するブランドはCONVERSE、LeSportsac、OUTDOOR PRODUCTSなど多数に及び、Paul Smithには資本参加するなどライセンス事業に積極的な伊藤忠商事だが、今年に入って4月には米国アンダーアーマーの総代理店ドームの株式の過半を取得、5月にはリーボック(Reebok)の日本国内販売権とライセンス権を獲得、8月には英国バブアー(Barbour)の独占輸入販売権、米国エディバウアー(EDDIE BAUER)の国内販売権とマスターライセンス権を取得、9月にはフォーエバー21(Forever21)の国内販売権及びマスターライセンス権を取得、12月には米国LLビーン(L.L.Bean)のマスターライセンス権及び卸販売権を取得と、矢継ぎ早にライセンスブランドを拡大している。

 アパレル・服飾のライセンスブランド市場は今世紀に入って縮小が続いており、00年に2兆円近くあったのが近年は1兆円ほどに半減していると推計されるが、その間の百貨店の衰退が背景にある。百貨店売上総額は00年から21年で半減し(50.1%)、衣料品売上は三分の一を割り込んだ(32.9%)のだから、致し方あるまい。伊藤忠商事が近年拡大しているのは駅ビル/ファッションビルやショッピングモール、ECで展開するブランドであり、市場の拡大が見込めるからこそブランドを広げているのだ。

ライセンスビジネスの主流はもはやアパレルや服飾雑貨などのファッションではなくキャラクター&エンタメ分野で、市場規模はファッションの2.5倍以上ある(世界市場では4倍近い)。伊藤忠商事はこの分野でも商品化権の獲得を進めており、メタバース市場を見据えて20年4月にはVTuberプロダクション大手のエニカラー社(22年6月東証グロース市場に新規上場)に出資している。

 

■ライセンスビジネスはオワコンではない

 国家が発展・成熟していくに連れ、消費市場も発展・成熟・衰退の過程を辿る。発展途上期はブランド市場がまだ未成熟でライセンスブランドが過渡的な役割を果たすが、国力が発展し市場が成熟するに連れ代理店経由で海外ブランドが流れ込むようになり、国力が頂点に達する頃にはブランド市場の規模も拡大して海外ブランドが直接進出するようになる。頂点の栄華を満喫した80年代から90年代の我が国、爆買いに走った10年代半ば以降の中国を思い浮かべれば理解されよう。

 近年の我が国のように成熟から衰退に凋落する段階になると、自国通貨の購買力も落ちて海外ブランドが割高になり、これまで購入できていた層も手が出なくなる。そんな衰退期では再び、ライセンスブランドが役割を果たすようになる。当たり前の論理だが、言われてみると愕然としてしまう現実だ。

 国家が衰退期に入らなくても、金融経済化が進み移民の流入が続けば貧富差が広がり、ハイブランドが富裕層に売れる一方、中産階級も手の届くライセンスブランドやオフプライスストア、大衆も手が届くチープなファストファッションも必要とされる。リーマン前まではライセンシングや卸から直販にシフトしていた米国ブランドも、直販のコストとリスクに音を上げてライセンシングや卸を再強化するケースも少なからず、インフレの加速(とりわけ人件費の高騰)がその傾向を加速するのは間違いない。

 もう一つ、ブリグジット(英国のEU離脱)やトランプの大統領就任に発して、ウクライナに侵攻したロシアや覇権を膨張する中国の締め出しに発展した分断と冷戦の復活が、サプライもマーケットも分断していく。かつてデフレと市場拡大をもたらしたグローバル化はインフレとカントリーリスクをもたらし、サプライもマーケティングもローカル化を余儀なくされていく。そんな現実の中、ファッションビジネスもグローバル展開の幻想から覚醒させられ、ローカルの文明やライフスタイルへの対応が求められる。

我が国でも外資アパレルチェーンのピークは2016年で、オールドネイビーが撤退した17年から縮小に転じ、19年にはフォーエバー21、アメリカンイーグルも撤退。20年、21年とコロナ禍に襲われて売上減少が加速し、インディテックス(ZARAやBershka)やギャップの大量閉店もあって大手チェーンの合計売上はピークから半減してしまった。それは国潮(グオチャオ)が吹き荒れゼロコロナ政策で混乱する中国とて大差ないのではないか。

 ならばブランドビジネスがグローバルにサプライとマーケティング・販売を一貫するロスとコスト、リスクは見合わないものとなり、各国市場の提携事業者にサプライとマーケティング・販売のローカライズを委任した方が賢明ということになる。グローバル化が進んだ90年代から00年代はブランドビジネスの直販戦略が進行したが、今や時代の歯車はすごい勢いで逆転しつつある。ライセンシングや卸はオワコンではなくなったのだ。

 

■グローバルNBというサステナブルビジネス

 ゲオホールディングスが毎年公表しているセカンドストリートのリユース販売ブランドランキングでは、今年も「ザ・ノースフェイス」を筆頭に「シュプリーム」「リーバイス」「パタゴニア」「コロンビア」「ラルフローレン」「スチューシー」「カーハート」「グラミチ」「バンズ」などが並んだが、その大半は米国発で、多くは各国市場にライセンシングや販売代理店でローカル対応しているブランドだ。直販・直卸する市場でも現地法人がローカル対応に注力するケースが多い。

 ちなみに「ザ・ノースフェイス」は米州と欧州ではブランドホルダーのVFコーポが自ら卸と直販を行い(VF全体で卸53.8%/直販45.6%)、日本では日本国内商標権を保持するゴールドウインが、韓国では韓国内商標権を保持するヨンウォンアウトドアがライセンス生産・販売を行い、中国ではVFチャイナが卸と直販を行っている。ゴールドウインはアウトドアを超えた独自の日本企画で売上を伸ばしているし、韓国のヨンウォンとて独自企画が目立つ。それぞれ日本と韓国でブランドイメージを損なうことなくアウトドアブランド最大の売上を実現しているから、大成功したライセンスビジネスと言えよう。

 「ラルフローレン」は07年にオンワード樫山からインパクト21を買収して09年にラルフローレンジャパンとなり、独資ながらローカル対応にも注力して直販、EC、卸を行っている。「リーバイス」は70年に設立した日本支社を82年にジャパン社に改組。日本市場に根付いて89年に店頭市場に株式公開し、20年1月に上場廃止するまでジャスダックに上場していた。

 なぜかセカンドストリートのランキングには漏れているが、「チャンピオン」もリユース市場の人気ブランドだ。ゴールドウインが75年からライセンス生産・販売していたが販売不振で赤字事業となり、15年末で契約元のヘインズブランズジャパンに事業譲渡して奉還している。その後の急拡大を見ると、「ザ・ノースフェイス」と並ぶゴールドウインの主力ブランドになり得たかも知れない。

 欧州の有力メゾンが各国ローカル市場の成熟とともにライセンシングや代理店流通から独資販社による直販へと切り替えて行き、その狭間で供給が途切れることもあったのに対し(直販が行き詰まって代理店回帰するケースも少なくない)、米国発グローバルNBは各国ローカル市場の実情に応じてライセンシングと直販・直卸を柔軟に使い分け、ローカル市場にしっかり根付いている。

米国発グローバルNBに共通しているのがリユース市場での継続的人気で、グローバルな古着流通網に支えられて供給が途切れることもなく、新品と古着が相乗してローカル市場でのブランド価値が保たれている。リユースの高年式市場(販売から3年以内)でも低年式市場でも人気があるブランドは、そう評価して良いだろう。そんなグローバルNBのサステナブルなローカルマーケティングを見る限り、ライセンスビジネスがオワコンになることは無いと思われる。

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