小島健輔の最新論文

商業界2010年6月号掲載
『SC出店/退店の勘所』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

SC淘汰の時代

 90年代末期の大店立地法施行前駆け込み開発、03〜08年の大型SC開発ラッシュを経て、09年末にはSC総数は3037ケ所に達し、SC総商業施設面積は97年末から09年末までの12年間で73.6%(2162万平米)も拡大した。結果、各地で競合が激化してSCの平均坪販売効率は同期間に35.7%も低下し、景気の暗転もあって08年以降はSC総売上も減少に転じている。
 SCの急増で何処の地域でも過酷な喰い合いに陥り、負け組SCの淘汰が進むのはもちろん、閉鎖的な市場では共倒れになるケースも見られる。地域毎に立地と規模や構成によるSCの優劣は明らかで、負け組SCはテナントの撤退が相次いで負の連鎖に陥っており、デベロッパーの経営破綻やSC閉鎖に至るケースも急増すると見られる。有力デベロッパーには行き詰まったSCの再生依頼が相次いでいるが、大半は再投資を回収出来る見込みがなく、閉鎖するしかないのが実情だ。
 SCの淘汰整理が避けられない以上、負け組SCを見極めて傷が浅いうちに撤収し、勝ち組SCに店舗を集約して収益性を高めるしかない。大手チェーン各社ももはや負け組SCの回復はないと見て、店舗の撤収と勝ち組SCへの集約を急いでいる。

大撤収ラッシュが来る

 過去のSC開設ラッシュとテナント出店の急増、その反動たる退店ラッシュのリズムを当社のSPAC研究会メンバー企業の出退店から振り返ると、94〜96年のCSC開設ラッシュの反動による97〜99年の退店ラッシュ、99〜00年の大店立地法施行前駆け込み開設ラッシュの反動による04〜05年の退店ラッシュが見られた。05〜08年の開発立地規制前駆け込み開発ラッシュの反動による退店ラッシュは08年後半から始まったばかりで、10年がピークになると思われる。
 SC協会の統計に拠れば、直近の新設SCテナント出店ラッシュのピークは08年の7216店だったが09年には2812店に急減しており、新設SCがさらに減る10年は01年の水準(2307店)を割り込むのではないか。対して退店は出店を上回り、メンバー企業の退店動向から推計すれば10年中に3000店以上が退店すると見られる。退店を出店で埋めても1000店前後が新たに空床となるから、負け組SCのシャッター街化が加速するのは避けられない。
 一度テナントの歯抜けが始まると客流が細ってさらなる歯抜けを招くから、先を争うように退店が拡がって行く。当然ながらデベロッパーは家賃条件を切り下げて既存テナントを引き止めたり、歯抜けを穴埋めする新規テナントを好条件で導入せざるを得ない。こうして出店条件は急激にテナント有利に流れて行くのだ。

急落する出店条件

 08年から09年にかけての出店条件の変化をSPAC研究会メンバー企業の新規出店事例報告から検証すると、売上対比家賃比率は郊外大型SCこそ0.1ポイントしか下がらなかったが、郊外小型SCは2.3ポイント、駅ビルでは0.6ポイント、ファッションビルでは1.1ポイント、百貨店インショップの歩率も1.3ポイントの低下が見られた。07年までのミニバブルの反動もあって保証金/敷金の下げはもっと大きく、駅ビル/ファッションビルでは平均24%、郊外大型SCでも平均7%低下した。
 結果、もともと低水準だったアウトレットモールの売上対比不動産費率は17.4%と変化なかったが、郊外大型SCのそれは19.7%と0.5ポイント、郊外小型SCは同19.1%と2.7ポイント、駅ビルは同19.0%と1.0ポイント、ファッションビルは同18.9%と1.6ポイント、百貨店インショップも32.5%と1.5ポイント低下した。
 契約形態では「最低保証付け歩合」がジリジリと増えてSPACメンバー企業の新規出店でもほぼ8割を占めるに至っているが、この最低保証水準にも顕著な低下が見られる。とりわけ、歯抜けの跡を埋める出店では大幅な引き下げが当たり前になっているようだ。条件交渉でも賃料率は大きく動かないが、最低保証水準は結構下げられる。通常月は気にならないが、売上の低い2月や8月では大きな負担を回避出来るから有り難い。  近年は定期借家契約が常識となり、SPACメンバー企業の新規出店でも97%近くを占めるに至っているが、買手市場となる中でも、これだけは逆流がみられなかった。

デベロッパー評価も変化

 SPACメンバー企業によるデベロッパー評価にも変化が見られる。ベスト5ではアウトレットモールブームでチェルシージャパンが昨年の2位から首位に上がり、三井不動産のアウトレットモールも昨年の7位から3位に急上昇。ルミネが昨年の3位から2位に上がる一方、郊外大型SCのイオンモールは4位、三井不動産は5位と昨年からひとつポジションを落とした。
 ベスト10には東京圏駅ビル開発や小田急電鉄、東急モールズデベロップメントなどの駅ビル系や東神開発が入る一方、新設ビルの不振が相次いだパルコは12位に後退。ワースト5には負け組SCを少なからず抱える大和リース、大和情報サービス、大和システム、ロック開発、西友が並び、双日商業開発が続いた。
 今期もこの傾向は変わらず、アウトレットモール系、駅ビル系のデベロッパーが評価を上げる一方、郊外大型SC系、ファッションビル系は現状維持からやや低下し、郊外中小型SC系の不評が続くと見られる。

危ないSCの見分け方

 SC出店ではデベロッパーの口上を真に受けて一か八かというギャンブルに賭けるのが実情のようだが、実は負け組となったSCのすべては開業前から負けると判っていたSCばかりなのだ。
 当社は10年近く前から開業予定の大型SCや駅ビル/ファッションビルの大半をテナント募集が始まった段階で検証し、売上と販売効率はもちろん、客層特性まで予測してSPACメンバー企業に提供している。売上予測の精度は最大振れても5%以内に収まっているから、負けるか勝つかの判定は完全無欠と言ってよい。当社のSC格付け情報さえあれば、溝に金を捨てるという事態は確実に避けられる。
 SCが開業した後も毎年、出店しているメンバー企業のアンケートや売上月報で販売効率の推移を追い、SCの新設や既存SCの増床による地域毎の競合の変化も再検証しているから、増床時や歯抜け跡に出店する場合も正確にアドバイス出来る。
 実際には数千万円を投資してソフトとデータをアップデイトして来た商圏分析システムに拠らないと正確な答えは出ないが、何百ものSCを検証して売上を予測して来た経験から、確実に危ないSCを見分ける要点を幾つか上げておこう。
 1)足元密度の希薄なSC・・・・グーグルマップで住宅分布密度を見れば誰でも推察出来る。大型SCでは足元密度が薄くても2km圏〜5km圏に高密度地域が拡がっていればよいが、それがライバルSC方向だと取り切れないし、新設SCに奪われるリスクも指摘される。
 2)商圏の拡がりが物理的に制約されるSC・・・・海や大河、鉄道や多車線道路、空港や公園などで遮られるSCは商圏が拡がらず、客数不足に陥り易い。とりわけ、それが高密度地域からのアクセスを阻害する場合は致命傷となる。このケースは極めて多く、地図やグーグルマップで見て危ないと思ったら避けた方が賢明だ。
 3)アクセスに難点があるSC・・・・アクセスする道路が貧弱だったり渋滞が激しかったり、駅から400m以上離れていて、アクセスに難渋するSCは危ない。商圏分析ソフトを使えばアクセス難易度はリアルに解るが、現地に行って実際に電車や車でアクセスして見れば誰でも実感出来る。
 4)視認性の悪いSC・・・・駅やアクセス道路から見え難いSCは難しい。道路から一段下がっていたり、道路方向から横顔しか見えないSCはまず失敗する。それは都心の一等地でも同様で、横断陸橋で遮られる商業施設に成功例はない。
 5)過大あるいは過長なSC・・・・商圏規模に較べて過大なSCは販売効率が低くなるし、広すぎるモールは歩き切れないから売れない区画が必ず出て来る。大型SCではトライアングルあるいはサーキット型のモールで歩行距離をミニマムに抑えるのが定石で、直線的に長過ぎるモールは必ずと言ってよいほど失敗している。
 6)ゾーニングが混乱したSC・・・・業種や客層、テイストの繋がりを無視した解り難いゾーニングでは客流が安定せず、いつも何処かが売上不振になってテナントの入れ替わりも激しい。都心立地でもパルコ系に共通して見られる欠点だ。
 7)商圏の客層と乖離したSC・・・・大衆的な住宅地に高級イメージのSC、成熟商圏にニューファミリー向けSCなど、商圏の客層と乖離した構成のSCは絶対に成功しない。そんな馬鹿はいないと思うかも知れないが、大手デベロッパーでさえ幾つもそんなSCを開発して苦労している。

退店は見切り千両

 判断を誤って負け組SCに出てしまったり、当初は好調だったのにライバルSCが出来てジリ貧になったり、まずまず好調なSCでも自店の区画は客流から外れたりと、売上不振で採算を割るケースは様々だ。そんな時は、まず積極策に出てみて、だめだったら一刻も早い撤収を決断するべきだ。
 売上が低迷すると在庫を圧縮したり販売員を削減したりと消極策を採りがちだが、それでは縮小均衡のスパイラルに陥ってますます追い詰められるだけで、浮上する事はまずない。よって、売上が低迷した時は広告を打つ、在庫を積む、販売員を増やす、等の積極策を採るべきだ。それで浮上しないなら始めて消極策に転じ、家賃や最低保証の切り下げなどを交渉して採算点を下げ、退店のタイミングを探す事になる。
 負け組SCが浮上するのはライバルSCが音を上げて閉鎖するケースぐらいしかないから(地方百貨店ではよくある話だが)、もはや浮上が期待出来ないと判断したら、除却損失が吸収出来る最速のタイミングで撤退すべきだ。低迷する店舗を引き摺っていては在庫が回転しないしスタッフも燻ってしまう。在庫も人材も活かせる店舗に一刻も早く移動し、組織を活性化しなければならない。退店は見切り千両なのだ。

出店に保険を掛けよう

 失敗した出店は大きな損失を招き、それが続けば投資余力を失って新規出店も滞ってしまうし、最悪の場合は経営の破綻にも繋がりかねない。にも拘わらず、デベロッパーのパンフレットや口上を鵜呑みにして実地検証せず、あるいは好案件との抱合せで不良物件まで抱えてしまうのは理解に苦しむ。出店はギャンブルではなく、きちんとした科学的検証を行なえば百%の確立で失敗を回避し、成功店舗だけを揃える事が出来るものだ。
 SCには勝つSCと負けるSCがあり、勝敗はSCが開業する前から百%決まっている。当事者は幸運や奇跡を期待するが、そんな事は滅多に起こらない。商業施設間の吸引力による実勢商圏を地形や交通機関アクセスも考慮して厳密に割り出せば、売上予測ば5%も狂わないからだ。SCの開業前売上予測手法は既に精度が確立されたものであり、その予測結果さえ知れば溝に金を捨てる悲劇は確実に避けられる。費用も出店の失敗で失う金額に比べれば何百分の一程度のものだから、保険として活用するのが賢明と思われる。

論文バックナンバーリスト