小島健輔の最新論文

ファッション販売2005年8月号巻頭カラー掲載
『ローカル文化の風薫るイオン直方SC』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 福岡県直方市郊外に4月8日開業したイオン直方SCは、新興住宅地に囲まれた緑豊かな山裾に位置しながら広域ドライブアクセスにも恵まれるという、絵に描いたように理想的なローカル立地RSCだ。ジャスコとスポーツオーソリティ/シネコンを繋ぐ全長215メートルの2層モールには飲食サービスを含めて140店が並び、総店舗面積は42,000平米、パブリックスペースを含む商業面積は62,727平米に達する。初年度売上予算は210億円(うちジャスコ80億円)と発表されているが、当社の計算では280億円近くまで伸ばせる超有望SCと評価している。
 ドライブタイム30分圏人口は約40万6千人と大都市郊外とは比較にならないほど限られるが、この間には競合する大型商業施設も強力なダウンタウンもなく、イオン直方SCは必然的にローカル文化の中心地とならざるを得ない。開店から2ヶ月近く過ぎた同SCには30分圏を超えて様々な人々が訪れ、お洒落なカジュアルスタイルでモールを楽しんでいた。
 なかでも目に付いたのがローハスなこだわりカジュアルを纏ったアダルト〜シニアなカップルで、東京郊外でもなかなか見られないほどお洒落なスタイルが印象的だった(御婦人は吉祥寺風なDC系イージークロージングが多い)。若い人々から40代のお父さんお母さんもモールの専門店が打ち出すカジュアルファッションを上手に着崩しており、大都市郊外のSCよりお洒落水準は格段に高い。カジュアルでも普段着ではなくお洒落を意識していく場所と直方SCは位置付けられているのだろう。
 立地と顧客に恵まれた同SCだが、モールのテナント構成は必ずしもローカル文化の薫り高い顧客層に応えてはいない。「トレンドファッションゾーン」こそ“アフリカタロー”“アクシーズファム”“アロー”“ギャザー”など勢いのあるローカルチェーンが揃っているものの、「デイリーキッチンゾーン」や「ベーシックスタイル&ファミリーゾーン」はコミュニティSC的な構成で、なんで“ユニクロ”や“ダイソー”があるのと文句のひとつもつけたくなる。「ラグジュアリータイムゾーン」も中核はお手頃都会風なワールド系セレクトSPA業態で目玉がなく、ブランドグッズの“ハピネス”が辛うじて華やかさを加えている程度。お洒落な叔父様叔母様達にはレトロ雑貨の“まるや”や和雑貨の“生活実感工房”があるぐらいでモールのブティック対応は皆無だから、ジャスコのインショップでは満たされない顧客のために一刻も早いブティックの導入が求められる。それも都会のブランドショップというよりローカルなブランドミックス店やセレクトショップがベターであろう。歳を重ねて自分流の個性が確立した大人達には対等に交信してくれる店が必要だからだ。

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