小島健輔の最新論文

繊研新聞2020年12月11日付掲載
『オフプライスストアの成功条件
もはや処分業者には頼れない』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 需要に倍する過剰供給にコロナ禍で行き場を失った在庫が加わってアパレル業界は膨大な過剰在庫を抱え処分業者に放出される在庫も急増したが、それで終わったと思ってはいけない。処分業者が引き取った在庫は例年の三倍にも及ぶと言われるが再販売の販路は広がっておらず、処分業者が抱える在庫も限界まで膨れ上がって制御の効かない放出や二次破綻も危ぶまれる状況で、プロパー販路と棲み分けたオフプライス販路の拡大が急がれる。

かと言って処分業者が抱えた在庫がすべからくオフプライスで消費者に再販されれば新作品の「正価」販売を圧迫するし、一旦は消費者のタンスに収まってもいずれ中古市場に放出され、一段と低価格になって新作品販売の足を引っ張る。例年の何倍も放出された処分在庫は巡り巡って何年も新作品の販売を圧迫し、新作品市場を縮小させることになる。

 

■処分業者は転売屋の域を出ない

 処分業者の多くはディスカウントショップやホームセンター、安売り衣料店や催事業者などへの「横々」と言われる転売が主力で、自ら消費者に直販する比率は限られる。ECサイトや直販店で販売するにしても、ブランドのプロパー販路と重なるメジャーなECモールや商業施設は使えないから急な販路拡大は難しく、コロナ禍で急増した副業転売ヤーを組織化しても引き取り在庫の急増に再販が追いついていない。「横々」の転売卸しにしても、オフプライス小売業者はまだマイナーな域に留まっているから、急に販路が広がるわけでもない。

処分業者に放出すれば在庫処分は終わると多くのアパレル事業者は錯覚しているが、処分業者はプロの転売ヤーであって小売業者ではないから、引き取り在庫が急増すれば転売も直販も追いつかず、処分業者の抱える在庫が膨れ上がってしまう。

 転売卸しにしても小売直販にしても処分業者の在庫再販が進まない要因は放出在庫の引き取り方にもある。処分業者は小売業者ではないから品揃え計画を立てて放出商品を選択的に買い取っているわけではなく、買い叩くにしても条件が合えば持ち込まれた商品を全量引き取る業者が多い。引き取ってもパッキンを開けることなくサンプルや画像で転売するケースが大半だから、仕分けて付加価値を付けるスキルも育たない。

 引き取った処分在庫に付加価値を付けるには多段階の仕分けスキルが必要で、1)製品販売可能なものとウエスや繊維原料になるものの一次仕分け、2)ディスカウント訴求する知名ブランド品と価格訴求する無名ブランド品の二次仕分け、3)性別や世代、シーズンとアイテムの三次仕分けが基本。知名ブランド品はクラスやテイスト、販路規制(海外限定、地域限定、来期販売指定など)の四次仕分けが加わる。

 処分業者の大半は在庫を保管する倉庫しか持たず、ネームやタグの切り取りや付け換えは行っても仕分けラインは備えずスキルもないから、仕分けで付加価値を創造することが出来ず、本格的なOPS(オフプライスストア)チェーンのバイイングには対応できない。それがまた、我が国OPSの離陸を阻んでいる要因の一つと思われる。

 

■我が国のOPSはようやく黎明期

 我が国でも昨春来、ゲオの「ラックラック・クリアランスマーケット」を皮切りにワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁事業「アンドブリッジ」、PPIH(ドン・キホーテ)の「オフプラ」、ショーイチの「カラーズ」などOPSが一気に広がった感があるが、最も先行している「ラックラック・クリアランスマーケット」でも12月9日開店の松坂屋静岡店(催事契約)で8店舗、好調と伝えられる「アンドブリッジ」にしても期間限定店を含めてまだ4店舗に過ぎない。唯一、チェーン展開しているのは激安プライスライン型OPSの「タカハシ」で、東京圏郊外に平均160坪の41店舗を布陣して87億円を売っている(20年8月期)。

 米国ではコロナ前の20年1月期で最大手のTJX(4529店舗で年商417.17億ドル)を筆頭に、ロス・ストアーズ(1805店で118.7億ドル)、バーリントン・ストアーズ(727店で72.61億ドル)の大手3社合計7061店舗で650億ドルを売り上げ(「ノードストロム・ラック」を加えると7305店舗で702億ドル)、百貨店大手のメイシーズ(百貨店429店、専門店とアウトレット/OPS347店で245.6億ドル)、ノードストロム(フルライン店116店他で99.43億ドル、OPSの「ラック」を除く)、ディラード(百貨店257店とクリアランス28店で62.04億ドル)の3社合計407億ドルを6割も上回るから、我が国のOPSなどまだ黎明期とも言えない。

米国ではOPSにアウトレットストアや百貨店のセールまで合わせるとアパレルブランドはオフプライス販売が大半を占め、百貨店のカード会員優待まで合わせるとフルプライス(正価)で購入する顧客はもはやほとんどいない。我が国はそこまでは行ってなかったにしても、コロナ禍を契機に過剰在庫のなり振り構わぬ叩き売りが広がり、米国並みの状況に近づいている。

 

■過剰在庫の捌け口としてOPSは不可欠

アパレル商品の過半が売れ残る我が国でOPSがメジャー化しなかったのは売れ残り在庫を翌シーズンに持ち越す業界慣習があったからで、川下(小売やアパレル)の売れ残り率は10〜30%でも川中(商社と問屋)が川下の未引取在庫を抱えて先送りして来た。そんなモラトリアムもコロナ禍で限界を超え、大量の過剰在庫が二次流通に放出されて処分業者の資金力と再販力が追い付かず、過剰在庫の捌け口として本格的なOPSチェーンが必要とされる状況となっている。

処分業者が抱えた在庫の再販が進まないと過剰在庫の受け入れが困難になり、アパレル事業者がなり振り構わぬ在庫処分に走ってブランド価値を毀損しかねない。実際、ワールドは浅草ROXやイオンモール京都に期間限定ながらOPSの「アンドブリッジ」(自社ブランドもかなりの比率を占める)、名古屋郊外のららぽーと愛知東郷には自社ブランド処分の「ネクストドア」、オンワードも柏駅至近のモラージュ柏に自社ブランド処分の「オンワード・グリーンストア」を出店して持ち越し在庫を最大8割引で売り、サザビーリーグの「エストネーション」に至っては都心中の都心たる銀座店(2225平米)を全館OPSにしてしまう。過剰在庫を抱えて背に腹は変えられなくなったのだろうが、立地もわきまえず叩き売ってはブランドの未来を閉ざしてしまう。

 

「処分業者が抱えた在庫の再販が進まないと過剰在庫の受け入れが滞り、なり振り構わぬ在庫処分が拡がってブランド価値を毀損しかねない。ワールドはゴードン・ブラザーズとの合弁で展開するOPSの「アンドブリッジ」(自社ブランドもかなりの比率を占める)を期間限定ながら浅草ROXやイオンモール京都に、自社ブランド処分のアウトレットストア「ネクストドア」を名古屋郊外のららぽーと愛知東郷に、オンワードも自社ブランド処分中心のOPS「オンワード・グリーンストア」を柏駅至近のモラージュ柏に出店し、持ち越し在庫を最大8割引で売る。サザビーリーグの「エストネーション」に至っては、都心中の都心たる銀座店(2225平方㍍)を全館OPSにしてしまう。過剰在庫を抱えて背に腹は代えられないとは言え、立地もわきまえず叩き売ってはブランドの未来を閉ざしかねない。」 

 

米国ではアウトレットストアにせよOPSにせよ、リゾート地のアウトレットモールや郊外のパワーセンターなど、フルプライス販売の都心店やリージョナルモールとは立地を分けて一応の棲み分けを図っている。我が国のオフプライス販売もタイプ別に立地を固め、フルプライス販売と棲み分けて在庫処分の役割を継続的に担うべきではないか。

 

■OPSは品揃え計画在りきの選択的調達が要

 OPSは転売業の在庫処分業社とは根本から異なり、シーズンの品揃え計画が先にあって必要な商品を調達するリテールビジネスだから、在庫処分業社のように持ち込まれた商品を丸ごと買い取るのではなく、自ら必要な商品を探して選択的に調達する。ブランドディスカウント型の「アンドブリッジ」も激安プライスライン型の「タカハシ」も8週サイクルの品揃え計画を組んで適合商品を選択調達している。でないと消費者に受け入れられず販売効率が低位にとどまり、在庫が滞貨して行き詰まってしまう。OPSは『先に品揃え計画在りき』なのだ。

ブランドディスカウント型OPSの品揃えのキーは1)今着れるアイテムが揃う、2)旧シーズン品でも良いから知名度の高いブランドが揃う、3)知名度は落ちるブランドでも良いから鮮度のある今シーズン品が揃う、の3点で、品揃え計画もその実現に向けて組まれる。

処分在庫は都合よく放出されるわけではないから、確保が難しいとブランドメーカーやベンダーと組んで計画調達することも多い。米国のTJXは鮮度のある今シーズン品を確保するためにもブランドメーカーとのタイアップ調達品がかなりの比率を占めるし、「タカハシ」もベンダーや工場と組んで必要なアイテムを調達している。それはブランド直営のアウトレットストアとて同様で、我が国では専用開発商品は季節によって2〜3割だが、米国のカジュアルSPAでは9割を超えることもある。

 

■売り切る編集スキルが不可欠

OPSは買取のリテールビジネスだから、確実に販売消化しないと在庫が滞貨して値引きや残品のロスが肥大し利益を確保できなくなる。8週サイクルの品揃え計画を組めば最良で年間6.5回転する計算になるが、TJXは6.32回転、ロス・ストアーズは6.09回転もしている(20年1月期)。速やかな消化回転を実現する決定打となっているのが編集陳列スキルで、TJXなど平均800坪もある大型店の在庫を毎週のように再編集して組み替えているのには驚くほかはない。

ブランド品は投入時は4ウェイや2ウェイにトルソーを組み合わせてブランド別に訴求し、消化が進んで欠品が目立ってくると類似ブランドをテイスト別に4ウェイやシングルハンガーにまとめ、売り切りサイクルではアイテム別、最終はプライスライン別か値引率別にまとめてサークルで売り切る。ニットやカットソーなどカラー展開アイテムは色が欠けてくるとカラー別にまとめ、ボトムやシューズなどサイズ展開アイテムはサイズが欠けてくるとサイズ別にまとめて購買プロセスを誘導している。

当たり前と言ってしまえばそれまでだが、我が国にそんな編集スキルを駆使できるアパレル小売業者がどれほど残っているだろうか。プロパー店舗でも、それだけの編集スキルがあれば値引きに頼らず販売消化して、売れ残り在庫を放出する必要も無くなるのではないか。店舗販売でもECでも小売業の要は売り切るスキルなのだ。

 

■OPSの成功パターンは2タイプ

 OPSの成功条件は前述した品揃え計画在りきの選択的調達と編集運用による消化促進だが、仕組みとスキルはあっても供給と需要が両立しないとビジネスは継続も拡大もできない。

 アパレルブランドのクラスはピンキリだが、高級クラスになるほどコレクション受注生産で流通統制も厳しく、安定?した売れ残り品の供給は期待できないから、OPSでなくディスカウントストアの扱う商材になる。OPSは品揃え計画先行でバラエティ優先の薄い在庫を確実に消化回転させる「面」のマーチャンダイジングだが、ディスカウントストアは流通から偶々はみ出た在庫を縦積みして量販する「点」のマーチャンダイジングで、調達も品揃えも販売も両極の性格だ。PPIH(ドン・キホーテ)の「オフプラ」一号店(名古屋郊外のメガドン・キホーテUNY大口店内)が上手く離陸しなかった理由もそこにあったと思われる。

 安定した供給が期待できるのは百貨店のボリュームブランド、駅ビルブランド、SCブランド、量販店(衣料スーパー)ブランドの4クラスで、知名度のある百貨店ブランドと駅ビルブランド、著名なSCブランドを「正価」からの割引率で訴求する「ブランドディスカウント型」、知名度の低いSCブランドと量販店ブランドをアイテム毎の絶対価格で訴求する「激安プライスライン型」の2タイプは安定した需要も期待できる。逆に言えば、2タイプ以外は供給と需要が両立し難く多店化は難しい。「ブランドディスカウント型」を代表するのが「アンドブリッジ」でハイクラスとミドルクラスの2タイプがあり、「激安プライスライン型」を代表するのが「タカハシ」だ。

「ブランドディスカウント型」は百貨店ボリュームブランド中心にベターブランドやハイブランドまで揃えるハイクラス型、駅ビルブランドと著名SCブランドを揃えるミドルクラス型の2タイプが成り立つが、ともにブランド別ラック訴求からスタートして再編集で売り切っていく。「激安プライスライン型」はアイテム別価格訴求は動かせないから、心太方式の押し出し編集で売り切っていく(「タカハシ」のアナログ心太番地管理は出色)。 

前者は広域生活圏立地やターミナル駅裏立地、後者は近隣生活圏立地が基本で商圏人口が一桁違い、前者は全国120店舗程度、後者は1000店程度が展開の上限と思われる。どちらにせよ自己流では限界があり、米国OPSで確立されたマーチャンダイジングと調達手法、店作りと什器構成、編集スキルを学ばずして成功はあり得ない。

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