小島健輔の最新論文

商業界2007年9月号掲載
ライフスタイルセンター全研究特集
『ライフスタイルセンターの成功条件』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ライフスタイルセンターとは

 新設SCやリモデルSCで「ライフスタイルセンター」を謳うケースが少なからず見られるが、何が「ライフスタイルセンター」なのか理解に苦しむものも多い。米国の定義によれば、1)住宅地のコミュニティに立地し、2)地域の人々が集う飲食施設を中核に、3)大人のロハスな生活感を溢れる衣料店や生活雑貨店が揃う、4)大型の核店舗がない、5)開放的なオープンモールのSC、という事になるのだが、米国でもこのコンセプトがクローズトモールの大型SCにまで取り入れられ、定義とは懸け離れた発展を見せている。取り入れている要素は様々だが、部分的にオープンモールにする、大人(ベビーブーマー)向けの生活感溢れる衣料店や雑貨店を揃える、大型の核店舗を抜く、というのが多い。
 日本で「ライフスタイルセンター」と自称するSCに共通しているのは、1)大都市の郊外生活圏に立地するCSCまたはNSCでSSMまたはSMを核とする(量販店核抜き)、2)若いファミリー狙いのカジュアル店や生活雑貨店を揃えている、3)飲食サービス店舗の比率が高い、という3点で必ずしもオープンモールとはなっていない。米国と共通するのは量販店核抜きと飲食サービス比率の高さで、大人に対して若いファミリー、必ずしもオープンモールでない事が相違点だ。

ライフスタイルセンターが注目される背景

 定義が曖昧なままライフスタイルセンター的コンセプトがブーム化している背景は、米国も日本も大差ない。それは以下の3点だと思われる。
 1)RSC/CSC/NSCという規模の闘いの外にチャンスを見い出したい。規模でSCの性格が決まってしまうのでは、規模で劣るSCに活路はなくなってしまう。独自のコンセプトで足下商圏を確立して活路を開きたいというスタンスだ。ライフスタイルセンターは商圏極大化志向ではなく足下商圏占拠率極大化志向と性格付けられる。
 2)限られた面積を有効に使い、テナントのバラエティを揃えたい。ならば、販売効率が低く家賃も格段に安い総合量販店核は排除すべきで、その分をテナントに割けばバラエティも拡がり家賃も安く出来る。ゆえに既存の量販店核CSCの核抜きリモデルや敷地面積の限られた新規開発SCのコンセプトとして注目される訳だ。
 3)反対を押し切って大型SCの開発に時間とコストをかけるより、地元に歓迎されるコンパクトなSCで開発の時間とコストを抑制したい。都市計画規制や環境規制が厳しくなればデベロッパーの開発戦略も変化していく。米国では80年代に入って大型SC開発規制が厳しくなり、90年代以降、ライフスタイルセンター的コンセプトが台頭して行った。
 米国ではこの他、子供が巣立ったベビーブーマー達に大人のロハスなライフスタイルを提供するというコンセプトが盛り上がり、「チコス」「コールドウォータークリーク」「Jジル」などのミセス業態やインテリアチェーンが急成長したが、日本では若いファミリーの郊外ライフスタイルに限定されているのが実情だ。

ライフスタイルセンターの成功条件

 1)立地
 ライフスタイルセンターは足下商圏占拠率極大化が狙いだから、高密度な都市アーバンエッジや中密度な都市サバブに適しており、一戸建てが散在する低密度のサバブエッジやローカルでは成立が難しい。一方で、開放的なオープンモール的環境が成り立つ地価と緑溢れる周辺環境が求められるから、低層マンションと一戸建てが混在する都市サバブの住居専用地域に限定されざるを得ない。並木通りに囲まれたロハスな環境がベストで、ゴミゴミした下町地域には向かない(必然的に中の上以上の高所得住宅地域になる)。工業地域では人口密度や周辺環境が合わないし、周辺商業地域では低層モールはコストに合わない。正統派にこだわれば立地はかなり限定されるが、「ライフスタイルセンター風」と割り切るならもう少し巾が出るだろう。

 2)施設構成とモール環境
 コンパクトな中にテナントのバラエティを求める以上、総合核の排除は必須条件。ライフスタイルセンター化リモデルでも量販店核抜きは第一条件で、核は高質なSSMや自然食SMに限定したい。ライフスタイルセンター風パワーセンターを狙うのでない限り、カテゴリーキラー的な大型店の導入もミニマムに留めるべきだ。
 四季の変化が激しい日本ではオープンモールにこだわる必要はなく、部分的にオープンモール的な開放感が演出出来れば良い。既存箱型SCのリモデルでは外壁の部分的な開放やテラスデッキの取り付け、ゆったりとした外階段の設置、ウッド素材の多用などがポイントになる。地域に根ざした環境コンセプトを打ち出し、駐車場からモール内まで植樹と季節の花々を配してロハスな開放感を演出したい。

 3)テナント構成
 「コミュニティの人々が集う」というコンセプトからして、ナチュラル感覚の飲食サービスが揃っている事が第一義的に問われよう(飲食サービステナントがリース面積の過半を占める)。それも通常のナショナルチェーンより自然素材やロハス環境を謳ったローカル〜リージョナルチェーンが好ましい。
 衣料品や生活雑貨については団塊世代を狙うのか団塊ジュニア世代を狙うのかで大きく異なるから、足下商圏の世代構成や住居形態(一戸建て/マンション・アパート)構成を見て判断すべき。どちらもナチュラルなライフスタイル感覚が通低するが、団塊世代狙いならトラベルやアウトドア、ガーデニング、エスニック、団塊ジュニア狙いならサーフ、スポーツ、キッズ、ママ子といった切り口がインパクトがある。ペットはどちらにも受け入れられる。衣料にせよ雑貨にせよ都心感覚のモダンなショップはタブーと考えた方がよい。

 4)運営
 地域コミュニティ密着が至上命題だから、地域のイベントやお集りを私営公民館的に受け入れる体制が不可欠。ささやかなモールの広場では何時も何かの地域イベントが催されているといった感じだ。逆に人寄せ的な営業イベントは不要と割り切った方が良い。地域コミュニティが私達の帰属する場所と認識する事が大切だからだ。施設の清掃や身障者のサポートなども地域のボランティアを積極的に活用したい。

※    ※    ※    ※    ※

 改正都市計画法施行で大型SC開発が抑制されれば、新設SCが小型化する一方で既存SCのリモデルが急増し、「ライフスタイルセンター」を謳うSCが急増する事になる。コンセプトや環境にライフスタイルセンター的要素を折り込む程度のSCが大半を占めると思われるが、出店するテナントにとって明らかなメリットが期待できるのが「量販店核抜き」だ。モールテナントのバラエティによって集客が増大し、家賃も割安になる。「ライフスタイルセンター」が謳い文句に終わらないかどうかは「量販店核抜き」の有無で判断すればよい。

論文バックナンバーリスト