小島健輔の最新論文

ブログ論文(アパログ2017年11月15日付)
『ECの収斂と店舗販売の共生』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ECモールと一括りに言うが、そのプラットフォームは大きく3形態に分かれ、コストはもちろんメリットやデメリットも大きく異なる。もはや常識だとは思うが、ばっくり簡便にまとめておこう。
 一番、お手軽なのが「場所貸し型」の総合モールで、売上課金は数%ないしは名目無料だが、数千数万もの出店者が犇めく中を自社ページに誘導する様々なプロモーションが必須だし、ECフロント構築から出荷までほぼ自己責任だから手間もリスクも相応に覚悟する必要がある。売上を伸ばすには自助努力の積み重ねが不可欠で、内部の人件費や外注費用まで加えれば決してお手軽でも低コストでもないのが現実だが、決済関連を除けば顧客情報も入手出来る。
 在庫を預けてECフロントから出荷まで総てモール側にお任せするのが「フルフィル型」だが、人気のファッションモールは売上は取れるが売上課金手数料率も25~40%と嵩み、複数モールに展開すると在庫の分散が避けられない。『在庫を預ける』と言っても売上課金制だから消化仕入れみたいなものでモールと言うより百貨店に近く、顧客データがまったく入って来ないのが癌だ。
 両者の中間に位置付けられるのが、ECフロントのシステムと受注はモール側で‘ささげ’と出荷はテナント側という「マーケットプレイス型」でAmazonが著名だが、モール側の‘ささげ’や在庫管理・出荷、宅配運賃の負担が無い分、売上課金手数料率は「フルフィル型」より10ポイントほど軽くなる。テナント側はそれらの負担が加わるから総コストはさほど低くはならないが、自社ECの‘ささげ’や出荷の体制が整った事業者なら低コストに回せるし、何より在庫を分散しないで済むのが有り難い。顧客情報は「出荷伝票データ」を入手出来るに留まり、決済関連や属性情報までは入って来ない。
 ECの手掛け始めは「場所貸し型」や「フルフィル型」の単店舗だったとしても、慣れて来て顧客を拡げるべく複数のモールに出店し「自社EC」も‘運営’するようになれば、コスト圧縮と在庫分散回避を図って在庫の物理的一元運用へと収斂して行く。ECフルフィルは取り扱い額の拡大とともに加速度的にコストが逓減するから、在庫と出荷を集約出来る「自社EC」と「マーケットプレイス型」に絞り、販売力とブランド力が突出した人気モールを例外として「フルフィル型」からは撤収して行くことになる。
 ECにせよ店舗販売にせよ商品販売の収益を決めるのは運営コストと歩留まり率だから、規模の拡大が在庫を分散させてロスが肥大しコストも下がらない店舗販売より、規模を拡大しても在庫が分散せず加速度的にコストが下がるECに在庫も投資も流れ、店舗販売が萎縮して行くのは避けられない理だ。「オムニチャネル化」が滅び行く店舗販売に対するモルヒネや免罪符に終わる事なく、本当の共生に至るには何を為すべきか、11月29日(水)のSPAC研究会で具体的回答と実行手順を提示したい。

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