小島健輔の最新論文

販売革新2012年2月号
特集[アウトレットモール/飽和と成長の分岐点]
転換期に入ったアウトレットモール
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

アウトレットモールはそろそろ飽和?

 国内アウトレットモール二強たるチェルシージャパンと三井不動産アウトレット部門の11年3月期決算で既存アウトレットモールの減速が明らかになり、『アウトレットモールはそろそろ飽和では』という見方が広がっているが、果たしてそうだろうか。
 チェルシージャパンの決算は1%増収の2061億円と売上が頭打ち、既存施設は7%の減収に留まった。増床した神戸三田は24%、同じく土岐は18%売上を伸ばしたが、他の6施設は軒並み3〜10%の減収だった。なかでも開業景気の反動が出た阿見と震災の打撃を受けた仙台泉は10%減で、稼ぎ頭の御殿場も3%減少した。11年4月のイオンレイクタウンアウトレット開業が影響する阿見、11年9月の三井ジャズドリーム長島の第四期増床が影響する土岐は今期、さらなる売上減少が避けられず、アウトレットモールの競合激化を実証している。
 一方の三井不動産アウトレット部門は10年4月開業の札幌北広島、10年7月開業の滋賀竜王の好調もあって16%増の1912億円と売上を伸ばしたが、既存8施設は軒並み7〜14%の減収となった。震災の打撃を受けた仙台港の10%減はともかく、9%減の横浜や多摩南大沢は入間による自社競合、9%減の大阪鶴見は滋賀竜王による自社競合、14%減と最も落ち込んだ神戸は09年12月のチェルシー神戸三田の第二期増床(テナント数はほぼ倍増)に直撃されたと推察される。
 矢野経済研究所に拠れば、06年段階では30施設計4180億円だったアウトレットモール市場は5年で10施設増の40施設、売上は1.52倍の6350億円に拡大したが、伸び率は新設や増床の規模で年度によって5.2%〜16.5%と波がある。4月に三井の札幌北広島、7月に滋賀竜王の新設があった10年は11%近く伸びたが、11年は前年の札幌北広島と滋賀竜王の新設に加えて4月のイオンレイクタウンアウトレット開業、9月の三井ジャスドリーム長島の第四期増床があったにもかかわらず3%弱の伸びに留まった(12月1日開業の三井アウトレットパーク倉敷はほとんど寄与しない)。新設や増床が続いた結果、アウトレットモール間の食い合いが激化して既存施設の多くが売上を落とし、市場総体の伸びも鈍化したと見るべきであろう。
 今後も12年春の三井アウトレットパーク木更津金田、13年春の成田プレミアムアウトレットに加えてイオンのアウトレットモール第二弾第三弾、既存施設の増床が続くが、新設施設の売上が加わる一方で既存施設の売上は減少するから市場総体は頭打ちになるという見方が大勢だ。しかし、これらをもって『アウトレットモールはそろそろ飽和』と言い切って良いのだろうか。近年のアウトレット市場の変質を注視すれば別の見方も出て来る。

変質するアウトレット市場

 近年のアウトレットモールはメジャー化と競合激化で急速に変質しつつあるが、その要点は以下の4点であろう。
 1)売上が減少するアウトレットモールが増えている。
 2)アウトレットモールの立地が大都市圏に接近している。
 3)ラグジュアリー系が減って国内ブランド主体になった。
 4)アウトレット専用開発商品が急増している。
 1)売上減少については、新設アウトレットモールとの商圏の重なり合いが主要因と思われる。アウトレットモールの商圏はプロパーのモールより遥かに広く高速道路を使った60分圏が基準となるが、モールの新設で60分圏が重なり合って独占商圏規模が縮小し、重なり合う商圏を分け合った実勢商圏規模も大きく削られるケースが続出している。アウトレットモールの売上はこの実勢商圏規模にスライドするから、当然、売上も大きく減少する。今後の新設計画や増床計画を考えれば、ほとんどの既存施設が売上減少に直面して行くと思われる。
 2)立地の大都市圏接近については加速度的で、かつての60分圏ルール(アウトレットモールは大都市商業立地から60分以上離れているべき)はとっくに破棄され、遠く離れたリゾート立地から大都市郊外立地へ、さらには大都市のウォーターフロントや郊外駅前にまでアウトレットモールが開設されるようになった。
 アウトレットモールの消費地接近は、アウトレットモールがプロパー商業施設代わりに利用されるという側面が広がったからでもある。実際、ローカルや郊外ではアウトレットモールほど有力ブランドが揃った商業施設は存在しないから、最新商品にこだわらない限り、大都市の百貨店や駅ビルまで足を伸ばさなくても十分に満足出来る。軽井沢や那須、佐野、阿見、入間、イオンレイクタウンなどはそんな利用が少なくないと推察される。
 プロパー商業施設代わりという利用が広がるなら、行き詰まったファッションビルや百貨店の跡がアウトレットモールに化けるケースが出て来ても、もはや何の不思議もない。
 3)ラグジュアリー系テナントの減少は、新興国市場の急拡大で日本市場への依存率が低下して日本向けデリバリーが減少し、アウトレットへ回す在庫が減少した結果、アウトレット店を増やす必要がなくなった事が要因だ。有力ブランドではアウトレット店を減すほどで、新設アウトレットモールに出店するブランドが急減し、チェルシー系でも仙台や阿見は国内ブランド主体となって三井系と同質化してしまった。  一方の国内ブランドはアウトレットモール未進出、進出途上のブランドも多く、プロパー販売の低迷もあって出店テナントに事欠く状況ではない。当社の主催するSPAC研究会メンバー企業でも既進出比率は半分強で未進出企業の三分の一が進出を検討しており、既進出企業でも4割はアウトレット店の拡大を考えている。既進出企業の平均アウトレット売上比率は8.6%だが10%を目処と考える企業が多く、出店はまだまだ続くと思われる。
 4)アウトレット専用開発商品の急増については、SPAC研究会メンバー企業でも二年で3.5倍に拡大しており、アパレルメンバーでは平均8%に留まるもののリテイラーメンバーでは平均19.3%に達している。もはや持ち越し在庫や期末処分品だけでアウトレット店頭を回す事は出来ず、SPACメンバー企業平均でも期中品が四割近くを占める状況だから、専用開発商品を拡充せざるを得ない。
 在庫処分というアウトレット店の建前から言えば本末転倒という批判もあるが、プロパー店代わりにアウトレット店を利用する消費者も多く、消費者が値引きメリットと同時に季節とトレンドに適した豊富な品揃えを求めているという現実を直視すれば、専用開発商品という選択も否定すべきではない。アウトレット店は在庫処分店という枠を超え、売れ残り品と専用開発商品を組み合わせて豊富な品揃えを提供するオフプライス業態に変質して行くと見るべきだ。

オフプライスストア軸に新たな発展期へ

 アウトレットモールの売上が頭打ちになって来たのは、これまでの成長期をリードしたラグジュアリーブランドの処分品供給が細って魅力が削がれ、類似した顔ぶれの国内ブランドが並ぶアウトレットモールが同質化して食い合うようになったからだ。その壁を超えてアウトレットモール市場が成長するには新たなテナント群が登場する必要がある。それはこれまで主流であったファクトリーアウトレットストアに代わるオフプライスストアに他ならない。
 ファクトリーアウトレットストアはブランドが在庫を値引き処分する店、オフプライスストアは小売業が自社の処分品に加えて仕入れたり開発した商品を値引き販売する店、と区分けされるが、ブランドが専用開発商品を加えて売る店は「ファクトリーオフプライスストア」とでも言えばよいのだろうか。「ファクトリーオフプライスストア」は既に何処のアウトレットモールでも広がりつつあるし、オフプライスストアの芽も既にイオンレイクタウンアウトレットに見られる。
 アウトレット先進国たる米国ではアウトレットモールの増加に伴い、ファクトリーアウトレットストアよりオフプライスストアが主流となって久しい。米国のアウトレットモールではブランドのアウトレット店と並んで、高級百貨店やセレクトショップが展開するオフプライスストア、オフプライス専門にチェーン展開する専門店がズラリと並んでいる。ノードストロムはフルラインストア115店の一方でオフプライスストアの「ラック」89店を展開しているし、サックスはフルラインストア47店の一方でオフプライスストアの「オフ・フィフス」を57店も展開している。ブルーミングデールも2010年9月、初のオフプライスストアをマイアミとニュージャージーに開設している。オフプライス専門店も「ロス・ストアーズ」が988店、「T.J.マックス」が923店、「マーシャルズ」が830店を展開する他、「ローマンズ」や「シムズ」など多彩に広がっている。
 アウトレットモールが消費地に近づいてプロパー店代わりに利用されるケースが増え、消費者も処分商品と専用開発商品を明確に見分けている実情(タグのプライス表示が二重か一つかで簡単に見分けられる)、米国アウトレット市場の発展を見れば、オフプライスストアが新たな勢力として広がって行くのは間違いない。オフプライスストアを軸にアウトレットモールは新たな発展期を迎えるのではないか。百貨店や大手セレクトショップなど、米国の「ノードストロム・ラック」や「オフ・フィフス」に学んで新たな事業機会を拡げるべきであろう。

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