小島健輔の最新論文

販売革新2013年2月号掲載
特集「効果ある値引き」
『衣料品の在庫コントロールとプライシング』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 昨年は夏バーゲンの後倒しに伴う混乱から在庫コントロールに苦慮するアパレル事業者が頻出し、夏物在庫の処分が遅れて秋物の立ち上げまでずれ込み、冬バーゲンの混乱を恐れて11月から不振在庫の期中セールに走るなど、かえって「セール日常化」を招く結果となった。バーゲン時期の適否はともかく、この混乱を契機に在庫コントロールとセール処分方法を見直し、ひいては「正価」の通る商品開発とMD展開を根本から再構築して歩留まり率を改善すべきと思われる。

期末セール早期化と期中セール頻発の要因

 そもそも業界で「セール正常化」が謳われる要因となったのは、80年代までに較べて夏の期末バーゲン時期が3週間前後も早まった事だが(冬は大差ない)、その原因は以下の3点と思われる。
 1)期中QR投入が肥大して同質化が蔓延し、プロパー価格が期末まで保てなくなった。
 2) QR投入の肥大で夏は晩夏期、冬は梅春期が霧散し、期末まで店頭の鮮度が保てなくなった。
 3)期中から値引き訴求するブランドが増え、アウトレットに今期商品が溢れるなど、セールが
   常態化して「正価」が通らなくなった。
 より本質的要因は、もっとシリアスだ。
 4)00年の「大店立地法」施行で営業時間が伸びて販売員不足が常態化し、売場運営と販売の質が劣化して消化率が低下した。それが計画MDの遂行を困難にして売れ筋QRを肥大させ、同質化と値崩れを招いた。加えて、販売の質の低下は店舗の優位性を損ない、近年のネット販売急増を招くに至った(人気の韓流アパレルサイトなど至れり尽くせりで、店舗より格段の販売力がある)。
 5)消化率の低下を埋めるべく調達原価の切り下げが業界に蔓延し、バリュー感が損なわれた(大手カジュアルチェーンでは10年間で10ポイントも切り下げられた)。百貨店では92年からのバブル崩壊に伴う売上減少局面で同様に納入掛け率の切り下げが業界ぐるみで進行し、大手アパレルの生産原価率が10年間でほぼ10ポイントも低下した結果、バリュー感が損なわれてさらなる売上減少と駅ビル/SCなどへの顧客流出を招いた事を忘れてはなるまい。

期末セール時期は遅いのか

 80年代に較べれば確かに夏バーゲンは早期化したが、欧米諸国やアジアの近隣都市と比較すれば、むしろ後手に回っている。
 米国の夏バーゲンは6月中旬から始まって7月4日の独立記念日までには切り上げられ、売場はプレフォールやバック・トウ・スクールに切り替わる。ご存知のようにフランスでは行政がバーゲン時期を定めており、例年6月の最終水曜日から始まり、バカンスシーズン前には切り上げられる。お隣の韓国でも6月中旬から、シンガポールでは5月末から行政が旗振りして夏バーゲンに突入する。加えて、日本では期末バーゲンをやらないラグジュアリーブランドもバーゲンに参加するのが両国の魅力だ。
 冬バーゲンは米国では感謝祭(11月第四木曜日)翌日の金曜日(小売店が黒字転換するという意味で「ブラックフライデー」と言われる)から始まり、クリスマス明けから全面セールに突入し、年明けには70%オフなどの捨て値処分に移行する。NYなどでは「ブラックフライデー」は午前零時から店を開けてセールが競われるが、昨年は前日からフライングするストアが相次ぐなど、業界ぐるみでお祭り騒ぎを盛り上げている。フランスでは行政が定めて1月の第二水曜から始まり、昨年は12日、今年は11日の水曜からだった。韓国は米国とほぼ同様な流れのようだ。
 こうして見ると、行政が定めるフランスは別として(それでも夏は日本とほぼ同時期)、米国や近隣アジア大都市は日本よりかなり早く、行政が旗を振って早める傾向に在る。行政が旗を振るのは観光客売上を拡大するためで、日本のように業界ぐるみで遅らせば周辺諸国に売上が流出しかねない。韓国ソウル市やシンガポール政庁などの積極的なバーゲン推進と比較すれば、業界利益のためにバーゲン時期を遅らせようという日本の動きには違和感を感じざるを得ない。LCCが広がる中、近隣都市との顧客獲得合戦はいちだんと過熱するから、観光客獲得を謳う行政にとっては業界の動きは困ったものと言えよう。

在庫コントロールとセール手法

 そうは言っても、アパレル事業者は売上の極大化とマークダウンの極小化を図るべく、在庫コントロールの精度とロスの少ないセール手法を追求せざるを得ない。売上を極大化しマークダウンを極小化して歩留まり率を高めるには以下の6点を励行するべきだ。
 1)月度売上を平準化する
 年間の売上予算を設定する時、ピーク月の売上を高くすると翌月のマークダウンが肥大するから、ピーク月とセール月の売上を抑え、端境期や立ち上げ期にキャンペーンやキックオフを仕掛けて売上を平準化すれば年間のマークダウンをミニマムに抑える事が出来る。ちなみに月指数とは年間売上を百とした月売上比率で、単純平均すれば8.333・・・となる。一般に売上が伸びているブランドほどピーク月とセール月の指数が低く平準化するが、売上が落ちているブランドほどピーク月とセール月の依存度が高まってマークダウンロスも肥大する傾向が指摘される。
 2)計画MD比率を高める
 売上を平準化するには期初の売上を高めるよう計画MD比率を高めるのが基本。売れ筋が判ってからの期中QRを拡大すると売上の山が後ろにずれ込み、同質化による値崩れでマークダウンも肥大しがちだ。ユニクロがやっているように、計画MDを基本に期中に備蓄素材で色・サイズの補正生産を行って実際の売れ行き動向にすり寄せ、期中の後追い企画をミニマムに抑えるのが定石だ。
 3)新規投入優先で定期的に店間移動する
 売上が予定通りに進まないと在庫が滞貨し、新規投入が困難になる。在庫枠をオーバーした分、新規投入を抑制したり遅らせたりするのは最悪の選択で、ますます売上不振が深刻化してしまう。どんな売上状況でも新規投入は計画通りに実行し、不振在庫を店間移動したりアウトレットに回して枠を空けるのが正しい選択だ。
 それにはSKU別の消化進行を掴んで定期的な店間移動や引き上げを行い、在庫の流れを滞らせない事だ。しまむらは毎日、SKU別に自動判別して移動先店舗をコンピュータが指示するシステムを確立しているが、それが物流費に折り合うのは自社のルート便体制があるからで、自社ルート便体制のない企業は週サイクルに新規投入と店間移動を連動するのが限界であろう。
 店間移動による消化を適確に行うにはエリア毎の店舗布陣から仕組む必要がある。先物がプロパーで売れるフラッグシップ店、通常店、実需期以降に値引き販売すれば処理能力が高いセールアウト店、この三タイプをエリア毎にバランスよく布陣し、店間移動のパターンを決めておくとミニマムな物流費で消化が図れる。
 4)販売力を回復させる再編集運用に熟練する
 同じ在庫状況でもテイストやアイテム、型・色・サイズの分類・配置・陳列階梯を販売動向に対応して再編集し、腐った商品を抜き上げて新鮮商品が目立つように陳列し、ルックやアイテムの出前を多重露出して上手く仕掛ければ、売場は鮮度を回復して売上が上向く。これを定期的な新規投入/店間移動のタイミングで行えば、確実に販売力を維持出来る。
 この再編集運用こそ小売業の生命線たる技術体系で現場の足腰と言うべきものだが、創業経営者が現場を離れれば衰退してしまう事が多いし、二世経営者やMBA的スカウト経営者は現場の運用技術を軽視してしまう嫌いがある。が、店間移動やプライシングとも連動する再編集運用の熟練を欠いては販売消化力を維持出来ず、在庫の滞貨とマークダウンの肥大を許してしまうのだ。
 5)プライシングに熟練する
 セール処分の方法も近年は多様化しており、従来の期末セール処理より歩留まり率の高い手法が広まって来た。大きくは以下の3手法だが、その組み合わせ方によって歩留まり率は大きく左右される。
 1.期末セール
 もはや古典的な手法で歩留まり率もキャッシュフローも最も不利だが、顧客向けの事前シークレットセールやセール残在庫のアウトレット処理と組み合わせるのが主流。ラグジュアリーブランドなどでは店頭の期末セールを行わず、シークレットセールとアウトレット処理に限定する事も多い。
 2.随時処分
 品番別の52週消化進行計画との誤差から半自動的にマークダウンと店間移動を組み合わせて消化を図る機動的な手法で、歩留まり率もキャッシュフローも格段に有利にはなるが、「セール日常化」に陥れば価格不振が高まるから適正な「正価」設定が問われる。カジュアルチェーンやSPAでは一般化しており、SKU単位にマークダウンするストアも見られる。
 3.キックオフ
 不振品の処分と言うより主力商品や立ち上げ期の販売に勢いを付ける手法で、52週消化進行計画との誤差をピーク以前に解消したり、立ち上げ直後(景品表示法では二週間経過後)の販売を加速するのに活用される。通常、10〜25%オフや1000円引き、あるいは「One buy one get half」などを一週間あるいは特定週末だけ訴求するケースが多い。米国では一般的だが、日本でも紳士服チェーンやユニクロで活用されている。

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 このように、適正に消化し歩留まり率を高めて「適正価格」を実現し、それがまた消化を促進するという好循環に載せるには、悪循環に陥った要因を正して行くしかない。店間移動や再編集運用、プライシングなど小売業としての技術的熟練も不可欠だが、予算設定やMD展開手法、適正な売価設定など、根幹から見直すべき事も多い。「小売の環」に追い落とされぬよう、常に顧客の側に立って革新を問い続けるべきなのだ。

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