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WWD 小島健輔リポート
『好調アダストリアに死角はないのか』
(2022年10月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 コロナ禍からの回復顕著な中間決算を発表したアダストリアだが、フォーエバー21の再進出を独自商品企画主体のフランチャイズ展開で担うという発表には強い違和感を否めなかった。ポイント時代のバイイングSPAから垂直統合型SPAへの大転換を果たして国内市場ではユニクロを追う最右翼に台頭し、海外展開も加速するアダストリアのブランド・ポートフォリオには逆行するように見えるからだ。一体、アダストリアは何処へ行こうとしているのだろうか。

 

■回復顕著な23年2月期中間期だが

 10月7日に発表した23年2月期第2四半期(中間期)決算では前中間期比で売上が21.6%増、営業利益が8.83倍、経常利益が3.97倍と顕著な回復を見せたアダストリアだが、コロナ前20年2月期中間期(19年3月〜 19年8月)と比べると売上は1.0%減(今期買収した飲食のゼットンを加えて3.3%増)、営業利益は22.3%減で売上対比4.9%、経常利益は11.9%減と“全快”には今一歩だった。

 ファーストリテイリングの22年8月期がコロナ前19年8月期と比べて売上が0.5%増、営業利益が15.4%増で売上対比12.9%、税引前利益が63.8%増だったのと比べれば売上はともかく利益は見劣りがするし、パルグループホールディングスの23年2月期中間期がコロナ前20年2月期中間期と比べて売上が16.8%増、営業利益が37.3%増で売上対比9.7%、純利益が38.7%増だったのとも格差がある。インディテックスの23年1月期中間期がコロナ前20年1月期中間期と比べて売上が15.8%増、EBIT(利息・税金控除前利益)が19.2%増、売上対比16.4%だったのと比べても勢いを欠く。

 アダストリアはコロナ前の19年2月期、20年2月期と2期連続して売上前年比が99.9と伸び悩み、営業利益率も18年2月期の2.2%、19年2月の3.2%から20年2月期にようやく5.8%に回復したばかりの所をコロナに襲われたわけで、23年2月期通期売上が予定通り14.1%伸びて2300億円に達しても営業利益率は4.3%と、インディテックスやファーストリテイリングと比べてはもちろん、パルグループホールディングスと比べても収益水準の低さは否めない。

 2011年2月期から取り掛かった垂直統合型SPAへの大転換も十余年を経て完成の域に達したはずだが、粗利益率は回復しても56.3%(23年2月期見通し)と、バイイングSPAのピークだった06年2月期〜10年2月期の60%台には遠いし、棚資産回転率も5回転強と07年2月期の13回転強の4掛けにとどまる。マーチャンダイジングの生産性指標たる交叉比率はピークの800近い水準から4掛け以下に落ち込み、近年は300を割っている。

販管費率も52.0%(23年2月期見通し)と当時の40%強から12ポイントも嵩み、20%を超えていた営業利益率は4.3%(23年2月期見通し)と比較すべくもない。平米当たり売上も当時の6掛け強、一人当たり売上も8掛け弱にとどまるから、何処を見てもバイイングSPA時代より高収益になるはずがない。一体、垂直統合型SPAへの大転換はアダストリアに何をもたらしたのだろうか。

 

■バイイングSPAから垂直統合型SPAへの大転換は正解だったか

 業績指標だけ見れば苦労とリスクを伴う垂直統合型SPAへの大転換は報われなかったようにも見えるが、07年2月期と比較して23年2月期見通しの売上高は3.73倍になるし、22年2月期の純資産は2.81倍にも増えている。従業員数も2,462人から22年2月期は10,451人と4.2倍に増えた。事業規模の拡大に伴うキャッシュフローの増殖は事業活動の活力を高め、積極的な業態開発やM&Aを可能にし、優れた人材を結集して企業のポテンシャルを高めたことは言うまでもなく、ユニクロ、ジーユーに続くカジュアルSPAの三番手に食い込んでいる(しまむらは仕入型、良品計画の衣料品売上は限られるので除外)。

  バイイング型から垂直統合型への大転換は期待したほど付加価値を高められず、商品開発の機動性を損なって需給ギャップも広がり、値引きや残品のロスも肥大して期待したように粗利益率が高まらず、在庫回転も交叉比率も大きく落ち込んだが、バイイングSPAのままでは果たせなかったこともある。それは素材の開発・調達、製品の企画・開発によるコストコントロール力とデザイン・スペック開発力の獲得だったと思われる。

 アダストリア主力業態の企画を見ると素材の集約による価格の抑制、オリジナル素材やデザイン・スペックの開発による付加価値の上乗せが意図されているのが判るが、そのバランスが絶妙で大ヒットする商品がある一方、企画が平板になって“お値段以上”にならず転けている商品もある。「ユニクロ」との比較で見るとロットの桁が違って価格負けしている商品があり、駅ビル専門店との比較で見ると価格で勝っても味負けしている商品がある。バイイングSPAと垂直統合型SPAの違い以前に、調達ロットのスケールが中途半端であることも成果を中途半端にしているのではないか。

 

■垂直統合型化と3タイプのブランド

 アダストリアのブランドは1)規模は限られるがキャラクターやトレンドを訴求して駅ビル価格が通る「収益型ブランド」、2)お手頃SC価格で面展開する大型ブランドの「独立型ブランド」、3)将来の大型ブランドに育つと期待される「成長型ブランド」の3タイプに位置付けられている。

「収益型ブランド」は駅ビルやファッションビルを基盤とするゆえ店舗数や事業規模が限られ、垂直統合型化によって企画力は高まったが価格競争力や機動性は多少なりとも損なわれ、「レイジブルー」は106億5900万円、「ヘザー」は97億3500万円、「ハレ」は58億7400万円といずれも13年2月期にピークを打っている。「ジーナシス」は127億5400万円と17年2月期がピークだったが、今日も100億円前後の規模を維持している。

 立地の性格から規模には限界があるが、垂直統合型化によって企画・開発力が高まって価格が通るようになったことは評価に値する。規模の限界を心得て無理に拡大せず、時代の求める新たなキャラクターを立ち上げていけば良いのではないか。インフルエンサー軸やクリエイター軸のD2Cブランドはさらに小粒になり、その分価格帯が上がるが、同様な体制で価格の通る商品開発が期待できる。

 問題は「独立型ブランド」で、中途半端な規模では素材集約によるコスト抑制とバラエテイや変化による魅力のバランスが取れず、「ローリーズファーム」は13年2月期の267億1400万円でピークを打ち、「グローバルワーク」も20年2月期の417億1000万円で一度ピークを打っている。23年2月期は中間期で215億8700万円を売っているからピークを更新すると期待されるが、「ユニクロ」(22年8月期で国内8103億円)や「ジーユー」(同2461億円)のように数千億円のブランドに化けるとは思えない。

 そんな壁を超えると期待されるのがライフスタイル系や雑貨系の「成長型ブランド」だが、ここでも調達ロットとバラエティの相剋が成長を阻害する。カントリーナチュラルな「スタディオクリップ」は18年2月期の243億1800万円でピークを打ち、ヴィンテージライフスタイルの「ニコアンド」も20年2月期の320億1700万円で一度ピークを打っている。サーフカジュアルの「ベイフロー」も同期の98億5200万円で一度ピークを打っているが、ライフスタイルの軸を振らさなければ再成長できるのではないか。

 ライフスタイル系や雑貨系はロットとバラエティの相剋もともかく、ライフスタイルが時代の波に乗れるか否かが大きい。11年以降、拡大してきた等身大なゆるナチュラル志向がコロナの収束と共にオフトレンドとなり、日本が没落しインフレ下で国民が貧困化していく中、キレイめスタイリッシュな勝ち組イメージが求められるとしたら、ライフスタイルブランドもモダンに変貌していく必要があろう。貧困化していく日本でわざわざ貧乏臭いゆるナチュラルを志向する意味があるか、「無印良品」の立ち位置に疑問を感じざるを得ない。

 

■単価アップ型ブランド・ポートフォリオ 

 垂直統合型化の最大の功績はコスト抑制より、むしろ単価上昇だったと思われる。調達ロットの中途半端さで垂直統合型化のコスト抑制力が徹底されなかった反面、素材軸の企画・開発で付加価値が高まり、ブランドが大きくなる中も単価をアップできたことは、異次元なインフレと円安が進む今日、大きな強みとなっているのではないか。

 同社のブランド・ポートフォリオを見ても、垂直統合型化以前は駅ビル立地の収益型ブランドが先行し「ローリーズファーム」「グローバルワーク」の独立型ブランドが拡大する構図だったが、垂直統合型化以降は13年2月期に収益型ブランドの「レイジブルー」「ヘザー」「ハレ」が頭を打ち、17年2月期には「ジーナシス」「レプシィム」も頭を打ち、以降は独立型の「グローバルワーク」「スタディオクリップ」「ニコアンド」や成長型の「ベイフロー」が拡大し、むしろマスマーケット志向が強まっていった。

同時期にエレメントルール社の設立など、その流れをバランスするコアマーケット志向の種が撒かれ始め、コロナ禍が明け始めた22年以降、インフレもあって単価アップが顕著になったが、「フォーエバー21」のライセンス展開はそんなコアマーケット志向とは逆行するものと受け止められる。従来のファストファッションとは次元を画した日本企画中心に再構築するとは言え、「フォーエバー21」という西海岸ファストファッションの強烈なイメージが容易に刷新されるとは思えない。

東西冷戦終了から33年を経て冷戦が再燃し、グローバル化の果実であったデフレと市場拡大が強烈なインフレと市場分断に転ずる中、ブランド・ポートフォリオは単価アップに向かわないと三重インフレ(調達・物流・販売人件費)を吸収できず収益が悪化してしまう。コアマーケットのX、Y、Z世代向け収益型ブランドとマスマーケットのモダンライフスタイル独立型ブランドの両方向をバランスして単価アップしていく構図をどう確立するか、大胆かつ精緻なブランド・ポートフォリオが問われているのではないか。

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