小島健輔の最新論文

販売革新2013年11月号掲載
『強い専門店の条件』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

「強い専門店」とは何か

 「専門店」と位置付ける時、スタンスははっきり二つに分かれる。一つは総合小売業にとって顧客を奪われる脅威としての「強い専門店」であり、ひとつは逆に総合小売業が顧客を奪う中小零細な「弱い専門店」である。それは商業施設デベロッパーの賃貸条件格差を見れば明らかで、核店舗たる総合小売業が後方も含むとは言え一般専門店の三分の一以下の坪家賃で売場を提供される一方、カテゴリーキラーや有力外資SPAも共益費や共同販促費など込み込みで一般専門店の半額以下で出店していると見られる。
 「強い専門店」とは総合小売業を脅かし、商業施設デベロッパーが集客や高販売効率を期待して格別の好条件で招聘する突出した存在であり、多くはカテゴリーキラー的性格の大型店だったが、今日ではフォーカスを絞った代替性のない人気中小型店も含まれる。かつてはカテゴリーキラーと言われた大型専門店でもモール専門店の平均販売効率を下回るようでは「強い専門店」とは言えないし、逆に中小型店でも驚異的な集客力や販売力を発揮するストアは「強い専門店」と言わねばなるまい。
 具体的な例を挙げれば、アパレル大型店では「H&M」「ユニクロ」「GAP」「オールドネイビー」、同中型店では「ZARA」「ホリスター」「ロンハーマン」、上陸が迫る「Jクルー」、セレクトでは「ユナイテッドアローズ」「トゥモローランド」「ジャーナルスタンダード」、郊外型では「ニコアンド」「グリーンレーベルリラクシング」「PLST」「GU」、都心のラグジュアリーでは「LV」「エルメス」「プラダ」、小粒でも抜群の人気を誇るのがミッシープレタの「フォクシー」やOLガーリーキャラクターの「スナイデル」、ファクトリーダイレクトのシャツSPA「メーカーズシャツ鎌倉」などであろう。
 服飾雑貨や化粧品、ランジェリーでは「ABCマート」「チャールズ&キース」「プラザ」、再進出が待たれる「セフォラ」、上陸が迫る「ビクトリアズ・シークレット」、生活雑貨関連の大型店では「東急ハンズ」「Loft」「無印良品」「フランフラン」、同中型店では「ZARAホーム」、小型店では「JINS」が挙げられよう。
 これらの大半はリーシングの代替性が無く、集客力や販売効率の高さもあって格別の好条件で出店しており、大ロット開発の製販一貫型では収益力も高い。

「強い専門店」の条件

 例示した「強い専門店」に共通する要件を探ると、いくつかのパターンが見えて来る。最も原始的なのが家電や玩具など特定カテゴリーの流通商材を集積してバイイングパワーで価格訴求する第一世代だが、今日ではECサイトとの価格競争が厳しく、ショールーミングに圧されて集客力も販売力も急速に低下している。彼らはもはや狩られる側であって「強い専門店」とは言えなくなって来た。
 第二のパターンは化粧品やインテリア雑貨などカテゴリーを特化してブランド編集/ニーズ編集、あるいはカテゴリーを超えてライフスタイル編集する非価格競争編集型で、前者では「プラザ」や「セフォラ」、後者では「東急ハンズ」や「Loft」が挙げられる。ECサイトとの直接的な価格競争は避けられるが、専門的接客のコストと編集型ゆえの粗利益率に難があり、支店経営の延長に留まって多店化が難しいケースもある。「セフォラ」のようにブランド企業グループを背景としたり「ABCマート」のようにブランド商社機能を内包すれば、粗利益率を確保して急速な多店舗展開も可能だ。
 第三のパターンはカテゴリーやテイストに特化したり客層を限定しないコンセプトで多店化し、垂直統合型のオリジナル商品開発でバリューと粗利益率を両立させて高収益モデルを確立したSPA型で、これが今日のグローバルスタンダードとなっている。衣料品では「ユニクロ」や「GAP」「ZARA」、ランジェリーでは「ビクトリアズ・シークレット」、服飾では「チャールズ&キース」、インテリアでは「IKEA」や「ニトリ」が代表的な成功例だ。
 SPA型で成功する要件は、1)カテゴリーやテイスト、素材の絞り込みと顧客の幅広さを両立させるコンセプト、2)企画開発コストを吸収して圧倒的なお値打ち価格を実現する生産ラインの集約と巨大ロット、3)顧客を取り込む面のVMD展開とその時系列な補給と切り替え、4)顧客の購買プロセスを誘導し店内物流業務を極小化する元番地の棚割り陳列と出前の多重訴求、これに今日では5)クリック&モルタルの顧客情報と在庫を一元管理し相互にプロモーションして送客し顧客を囲い込むオムニチャネル戦略、を加えなければならない。
 カテゴリーやテイスト、素材を絞るほど、生産ラインを集約しロットを極大化するほど、顧客の購買プロセスと店頭VMD展開、ロジスティクスと生産プロセスがダイレクトに連動するほど、バリューもコスト競争力も強まって「強い専門店」になる。今日の成功組でも「H&M」はVMD運用とロジスティクスに難があって消化回転がスローに留まり(年四回転弱)、「ユニクロ」もVMD展開と購買プロセスが噛み合ず店内物流業務過多に陥っている。
 これら3パターンとは一線を画して必ずしもスケールやロットに囚われないのが第四パターンのコンサルティング販売型で、客単価が高いため客数を必要としない分、小商圏低コスト立地に展開して高収益が得られる。代表的なのが化粧品の「マリオノー」やヨガライフスタイルの「ルルレモン・アスレティカ」だが(ストレッチパンツの「ビースリー」も近いかも知れない)、他分野では突出した成功例を聞かない。恐らくローカルの中小専業店に留まっているのだろうが、矯正下着などSPA方式と組み合わせれば高収益な多店舗展開が期待される。

現場の遂行精度こそ「強い専門店」の命

  上記の4パターンはあくまでビジネスモデルの骨格であり、それらを満たせば「強い専門店」が出来る訳ではない。そのビジネスモデルを遂行する現場の実務精度とスピード(正確にはリズムの安定性)が問われるのだ。
 かつてイトーヨーカ堂衣料部門は今日の「H&M」を凌駕する52週在庫編集陳列技術でファストな消化回転を実現していたが、POSデータを過信しての売れ筋絞り込みで品揃えが細り、現場の在庫編集陳列技術を軽視して技術が散逸したため消化回転が悪化し、今日ではお荷物部門に転落してしまった。その「H&M」にしても、年間20コレクションという多頻度投入に在庫編集陳列技術が追いつかず、年間商品回転が四回を割ってマークダウンロスが肥大し収益が頭打ちになりつつあるのを、巨大ロット超低コスト調達による高差益がカバーしているスローファッションビジネスというのが実情だ。
 各店SKU一点投入売り切り(アパレル商品)と自社ルート便による日々店間移動(もちろん什器番地・棚割り管理を徹底)でかつてはロス率を5%未満に押さえ込み、パート主体運営でも業務精度とクレンリネスが徹底されていたしまむらも、近年はロスの上昇とクレンリネスの劣化が懸念される。まだ業績には大きな陰りは見られないが様々に綻びが露呈し、「ユニクロ」との格差も急速に拡大している。その遮るもの無きかに見える「ユニクロ」にしても、VMDと購買プロセスの乖離から店内物流業務が肥大し、店舗スタッフの労働負担が指摘されている。
 これらは一例に過ぎないが、ビジネスモデルを遂行する現場の実務精度が維持向上され続けないと、事業規模の拡大とともに運営効率が低下し、ロスとコストが肥大してスケールメリットを食い潰してしまう。商品企画やMD展開のVMD設計(棚割り)はもちろん、多店舗間の配分・補給・店間移動と物流、店頭在庫の再編集陳列運用など、収益の要になる基幹技術の劣化が目立つ企業が実に多い。POSやビッグデータの活用に偏る事なく、現場の実務マニュアル更新と研修教育の手を抜かず、実務技術が確実に進化継承されるよう日々研鑽して行くべきだ。

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