小島健輔の最新論文

販売革新2013年4月号掲載
特集「SCビジネスの基礎」
『SCの現状と問題点』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

2012年のSC業界

 2012年末でSC総数は6増加して3096、SC総売上は2.7%増加して28兆1900億円、SCの小売総額に占めるシェアは0.11ポイントアップして20.58%に達した。
 SC開設数は35と前年から19減少して11年振りに50を割り、1969年の31以来、43年振りの低水準となった。また、東日本大震災の被災もあって29SCが廃業し、12年末のSC総数は前年から6増えただけの3096に留まった。新設SCの商業施設面積(賃貸面積に通路など共有部分を加えた面積)も前年から24.4%も縮小して15,752平米と2万平米を割り込み、過去最大だった08年の27,791平米からは半分強にコンパクト化した。商業施設面積5万平米以上の大型施設はイオンモール福津(75,000平米)、イオンモール船橋(61,600平米)東京ソラマチ(52,000平米)の三施設のみで、3万平米超施設も5と前年の12から半数以下に激減した。
 これに伴い、新設SCの総テナント数も1,937店と前年の3,710店から半分強に減少して84年以来28年振りに2000店を割り込み、直近ピークの08年(7,216店)からは四分の一強に減少してしまった。にもかかわらずテナント専門店企業の出店数は三年振りに増加に転じており、定期借家契約満了(後に解説)に伴う既存SCへの出店が急増したと推察される。
 新設SCを立地別に見れば、郊外・周辺立地が19と中心(ダウンタウン/ターミナル)立地の16を上回ったが、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエ、東急プラザ表参道原宿、ダイバーシティ東京プラザなど、注目施設は都内の中心立地やウォーターフロントに集中した。
 核店舗別に見ると、百貨店核SCは皆無で、11年に開業したJR博多シティ(博多阪急)、大阪ステーションシティ・ノースゲートビル(JR大阪三越伊勢丹)、既に三越が撤退したイオンモールむさし村山、イオンモール名取を除けば、04年10月開業のイオンモール堺北花田(阪急百貨店)まで遡らなければならない。百貨店の低迷が続く中、郊外SCへの出店は途絶えており、過去に出店した店舗も次々と閉店している。百貨店を含む多核型モールが大型SCの主流を占める米国とは異なり、日本では郊外SCに百貨店が根付く事はなかった。
 GMS(総合量販店)核のSCも前年の11から4に減少し、74年以降、最少となった。4SCのうち三件はイオン、一件がIYで、その他を核とするSCは皆無だった。GMSは米国同様、業態として行き詰まり、イオンもIYも非食品部門の解体・専門店化に走る一方、SCデベロッパー側も集客力も販売効率も家賃も低位に留まるGMS非食品部門に見切りを付けてSSM(ドラッグなども含む大型スーパーマーケット)導入で済ませるケースが急増しており、GMS核SCは一時的には復活しても長期的には減少して行くと見られる。

SC業界の歴史的変遷

 今や郊外に行ってもローカルに行っても例外なく大小のSCが林立し、メトロポリス大都市圏(郊外が発展して地下鉄網や私鉄網が張り巡らされた広域都市圏)を除けば、かつての中心商業地区はシャッター街と化し、そのメトロポリスでさえ近年は駅上駅中駅前に商業施設が集中して旧来の商業地域は縮小の一途を辿っている。前者は「空洞化」、後者は「垂直リンク集中」と言われるが、中小商店の保護や都市の健全な発展と財政負担を巡って行政は様々に開発規制や営業規制を行って来た。時代の要請に基づく行政規制や法律の改定がSC開発に与えた影響は極めて大きく、SC業界の発展に幾つか明確なターニングポイントをもたらした。SC開発の歴史を行政規制の変化を軸に簡単に振り返っておきたい。
 SC開発は地下街や駅ビルと並行して大都市圏では60年代から始まっていたが、74年に施行された「大規模小売店舗法」で開発が停滞し、規制面積未満のロードサイド店の増殖が先行して『幻のSCエイジ』と言われた。1956年施行の「百貨店法」は中小小売店を保護する為に百貨店の営業に規制を加えるものだったが、60年代以降の郊外住宅地開発で大型量販店が急増するに及んで74年、売場面積1500平米以上の店舗開発と営業を規制する「大規模小売店舗法」(6大都市は3000平米以上)が施行された。以降、79年5月に規制面積が500平米に引き下げられ、82年2月には「大型店出店抑制通達」が出され、70〜80年代を通じてSC開発は毎年数十ヶ所に留まり、替わってロードサイド店が繁殖する時代となった(以上、私の旧著「ザ・SCエイジ」に詳しい)。
 この流れが変わる契機となったのが89年6月に通商産業省がまとめた「90年代の流通ビジョン」であった。これは米国の外圧も加わって流通の規制緩和へと方針を転じたもので、以降、90年5月の大店法緩和通達、92年1月の規制面積引き上げ、94年5月の大店法大幅運用緩和を経てSC開発は90年代を通して毎年百を超え、SC開発ラッシュを呈した。90年代のSC開発は量販店核の中規模な箱形SCが主体であり、次第に大型化したものの大半はCSCの域に留まった。団塊ジュニアを中核としたニューファミリーが主役となったのはこの時代であり、以降の商圏成熟化にもかかわらず業界は「ニューファミリー幻想」を捨て切れず、テナント構成と顧客の乖離を招く結果となった。
 行政の方針が再び開発規制に転じたのが00年6月の「大店立地法」の施行であり、都市計画にもとづく用途規制や環境規制が一気に厳しくなった。その背景は無計画な郊外開発によるローカル都市の空洞化、とりわけ深刻な中心商店街の没落、肥大する郊外圏への行政投資がもたらす地方財政の疲弊であった。90年代の規制緩和局面で地方自治体の負債は倍増し、「コンパクトシティ」を模索せざるを得なくなったのだ。
 「大店立地法」の施行を契機に01年のSC開発は00年の149から39に激減し、以降も00年代を通じて47〜89に留まった。これに輪をかけたのが07年11月に施行された「改正都市計画法」で、商業施設の開発可能用途地域が大幅に狭められ、周辺市町村の広域調整が求められるようになった。施行前の駆け込み開発が終わった09年以降、SC開発は年間50台に急減し、12年は43年振りという低水準に落ち込んだ。
 00年代以降、SC開発は激減したものの郊外の成熟化とともに商圏が広域化し、両端にGMSや大型専門店(稀に郊外百貨店)、シネコンなどを配し、レストラン街やフードコートを備えたモール型の大型SCが主流となり、100〜200、時にはそれ以上の専門店を並べて広域から集客するようになった。ニューファミリーを謳った90年代に較べれば客層の世代も広がり、ミセス/アダルトゾーンやティーンズゾーンを設けるモールも増えて行った。
 畳み掛けるような開発規制の強化でSC開発は都市中心地域へと移動したが、それにはもうひとつの背景があった。それは00年3月1日に施行された「定期借家法」であった。それまでのテナント出店は「普通借家法」に基づくもので、テナントは自ら退店しないかぎり契約の継続が可能であったが、「定期借家法」では契約期間が終了すればデベロッパーが再契約に合意しない限り契約が終了する事になる。その分、差し入れ保証金も「普通借家法」時代の80年代まで基準家賃の100ヶ月分が相場だったのが「定期借家法」では10ヶ月分の敷金で済むようになり、出店の費用が激減するというメリットもあった。実際、当社主催のSPAC研究会メンバー企業のアンケート回答を見ても、80年代初期の100ヶ月分から90年代に入ると60ヶ月分前後に低下し、施行を二年後に控えた98年頃から急減して施行直後には13〜14ヶ月分に落ち、現在はほぼ10ヶ月分に落ち着いている。
 「定期借家法」の導入に拠ってテナント入れ替えが容易になって市場の変化に対応し易くなった反面、テナントは営業継続の保証がなくなり、テナント企業の世代交代や商業施設の競争が激しくなった。90年代までの「普通借家法」時代に大量出店したテナント企業は資金の過半が差し入れ保証金に寝て商品開発に資金が回らずSPA化が進まなかったが、00年以降に多店化したカジュアルチェーンやセレクトショップでは商品開発に潤沢な資金が使えてSPA化が一気に進んだ。
 逆にデベロッパー側は「普通借家契約」テナントを「定期借家契約」に切り替えるのに膨大な資金が必要になり、90年代までに入居したテナントの多いパルコなどはセゾングループの財務破綻も重なって「定期借家契約」への切り替えが進まずにテナント入れ替えが後手に回り、「定期借家契約」以降のテナントが多く、「普通借家契約」テナントの切り替えにも潤沢な資金を投入出来たルミネなどのJR系駅ビルに追い抜かれる結果となった。
 現在、郊外SCでは5年または6年、駅ビルやファッションビルでは3年または4年が「定期借家契約」期間として定着しており、その満了サイクルで一斉にテナント入れ替えが行われるようになっている。開発規制の強化でSC新設数が低迷する反面、過去の開発ピーク時に開業したSCの「定期借家契約」満了が次々と訪れており、人気テナントには出店チャンスが数多ある反面、不人気テナントには追い出しのリスクが巡って来る。「普通借家契約」時代とは一変して新陳代謝の厳しい時代になったのだ。

SC業界の問題点

 今や小売総額の20%以上を占めるSC流通だが、幾つか解決すべき問題点を抱えている。その第一が未だ解消されない核店舗企業の支配と一般テナントとの不公平であろう。
 SCデベロッパーには核店舗企業の子会社と不動産系などの専業会社がある。三井不動産などの専業デベロッパーでは核店舗が商業利害を超えて優遇される事はないが、イオンモールやアリオ(モール・エスシー開発)などでは親会社たる核店舗の意向が強く反映され、出店条件などでも核店舗やグループ系列専門店が優遇されるケースがある。
 近年は核GMS非食品部門の効率低下が著しいため、専業デベロッパーのSCではSSMだけ導入するケースが多いが、核店舗企業子会社デベロッパーのSCでは未だ非効率なGMSが過大な面積を占めるし、GMSの解体・専門店化戦略で系列専門店やGMSからスピンアウトしたインショップ専門店がモールの主要位置を占め、モールの専門店バラエティを損なうケースが多々見られる。SCの魅力極大化にはデベロッパーの独立性が不可欠だが、我が国では未だ核店舗企業の子会社デベロッパーが開発の主導権を握っているのが実情だ。
 もうひとつ、大きな問題がある。テナント出店は投資が大きくリスクを否めないが、商業施設のテナント募集では情報が誇大されたり隠されたりする事が多く、テナント企業は正確な情報が得られないまま出店に踏み切らざるを得ない暗黒大陸なのだ。
 不動産業界では取引履歴や賃貸履歴のデータベースが業界で共有されており、価格や家賃が周辺類似物件と比較して割安か割高か誰でも判断がつく。ゆえに素人が騙されるような悲劇は極めて起こり難い。ところが、同じ不動産でも商業施設となると未だ恣意的な情報隠しや売上の水増しが横行しており、デベロッパーの情報を鵜呑みにして出店し大火傷を負うテナントも珍しくない。本来なら商業施設業界でもデベロッパーやテナント企業が毎月毎年の売上情報を公開登録してデータベースを共有し、誤認に拠る出店の失敗を避けるルールを確立すべきだが、なぜかそのような気運は見られない。プロの世界だから騙された方が悪いという論理なのだろう。
 デベロッパー側にとってはテナント業界の玉不足が頭の痛いところであろう。「定期借家契約」の定着(新設施設ではほぼ100%適用)でテナントの入れ替えサイクルは郊外SCで5年または6年、駅ビルやファッションビルでは3年または4年となったのに、テナント業界の業態開発はそれに追いつかず、新鮮テナントが揃わないという問題を抱えている。それを解消するのが外資テナントの導入で、以前は都心商業施設に限られていたのが郊外SCにまで浸透し、今や欧米系ブランドだけでは足りず、韓国や香港、シンガポールなどのアジア系ブランドにまで広がりつつある。この傾向は加速する事はあっても後退はあり得ず、日系デベロッパーのアジア進出に伴って外資テナントとの取引も広がるから、上海やシンガポールの商業施設のように外資系が過半を占める時代が遠からず来るに違いない。
 極めて逼迫した課題でありながらデベロッパーの対応が遅れているのがECとO2O対策だ。既に国内小売販売額に占めるEC比率は3%台の後半から4%に迫り、既に6.5%に達した米国のようになるのも時間の問題だ(お隣の韓国はもっと先行している)。有力テナント専門店は実店舗より格段にコストの低い(10〜14ポイントも低い)ネット店舗の売上拡大とO2Oに注力しており、既にEC比率が10%を超えている専門店も少なくない。
 ネットから実店舗へ実店舗からネットへと送客するO2Oはスマホの普及とともに加速度的に技術革新が進んでおり、もはや実店舗売上とネット売上を明確に区分けする事が困難になりつつある。この加速度的な変化に直面しながらSCデベロッパーのネットモール進出は遅きに失し、先行する専業ネットモールに太刀打ち出来る状況にはほど遠いし、テナントのO2Oを何処まで許容するのか、どう課金するのか、未だ真剣に検討されてもいない。
 ネットモールを拡大するにもテナントのO2Oを取り込むにも物流フルフィルメントが要だが、どのSCデベロッパーもこれまで何の手も打ってこなかった。このままではSC業界まとめてアマゾンやそのライバルに浸食されていくのを指をくわえて見ているしかなくなる。いったい誰がその壁を突破するのだろうか。

13年のSC業界はどうなる

 「改正都市計画法」の施行で冷えきったかに見えたSC開発だが、相次ぐ工場の閉鎖などで雇用が萎縮して音を上げた地方自治体がSC誘致に転じ、アベノミクスによる景気回復で消費も浮揚の兆しが見える中、2013年度はSC開発の急回復が見込まれる。既に13年開業予定のSCは70と12年から倍増し、09年以降では最多となりそうだ。春にはイオンモール春日部、イオンモールつくば、酒々井プレミアムアウトレット、グランフロント大阪など、冬にはイオングループの総力を結集する巨大SCのイオンモール幕張新都心など、注目案件が目白押しだ。
 14年もイオンモールの京都桂川、西茶屋、和歌山、岡山、三井不動産のららぽーと大阪和泉、イトーヨーカ堂のアリオ武蔵小杉など、店舗面積3万平米を超える案件は既に13を数える。アベノミクス景気が本格化すれば新たな計画も浮上すると思われるから、14年のSC開発は13年以上に活気づく公算が高い。
 とは言っても足元の消費は高額品に偏って消費全般の勢いは弱い。少子高齢化も生産の空洞化も止まるとは思えないから、急激にSC売場面積が拡大すれば競合が厳しくなり、勝ち負けSCの明暗が際立って来る。競合が厳しくなれば「定期借家契約」満了に伴うテナントの入れ替えも加速するから、人気テナント不人気テナントの明暗も激しくなるし、外資テナントの導入も一段と広がるに違いない。SC開発が回復しても弱肉強食な環境はさらに厳しくなると見るべきだ。加えて、ECの拡大とショールーミングの嵐、O2Oは一段と加速せざるを得ない。モルタルなガラパゴス世界に閉じこもったままのSC業界はいったいどうなるのだろうか。

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