小島健輔の最新論文

ファッション販売2013年11月号掲載
『売場を蘇らせる再編集技術』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 店頭は秋物が出揃っているのに、売れ筋が一巡すると動きが止まり、このままでは冬物の投入枠が厳しくなる。この時期はそんな状況に陥りがちだが、そんな時、手持ちの在庫を再編集陳列して売場を活性化し、売上を回復させる技法がある。

売場陳列の基本原則

 売場陳列の目的は商品構成を表現して販売を円滑に進める事に尽きる。その基本は1)商品分類配置とVP誘導、2)陳列階梯誘導、3)出前陳列訴求、4)販売誘導、の五点で、これが崩れていると販売が停滞し売上が低迷してしまう。
 1)商品分類配置とVP誘導とは、ブランド/ストアのコンセプトとMD構成を体現して販売に繋げる基本中の基本で、誰が見ても一見してそのブランド/ストアだと解る編成を確立し、顧客の購買慣習を定着させるのが理想だ。
 「ZARA」ではドレス/カジュアル→カラーグループ→ルックユニット/単品ユニット、「GAP」ではレディス/メンズ→ボトム軸ウェアリングコーナー→ルック出前/単品元番地という編成が確立しているし、欧米ブリッジブランド/ラグジュアリーブランドでもMDの組み方=売場編成という考え方が定着している。店内ディスプレイ(ルックやアイテムのVP)もこの編成階梯順に顧客を誘導するよう配置されている。
 日本のブランド/ストアは編成構造が流動的で、売れ筋単品の有無で顧客も流れ、売れ行きが安定しない。売れない時はまず商品分類配置が崩れていないか解り難いかを検証し、人気ブランド/ストアの分類配置も参考にして組み直し、VPを配置し直す必要が在る。
 2)陳列階梯誘導とは、分類配置とVP誘導で導いた陳列ラック内の素材/型/色/サイズの並べ方による購買誘導で、ルックやアイテムのMDの組み方に顧客の意思決定順を誘導するものだ。型→色→サイズの順が買い易いとは限らず、MDによっては色→型→サイズ、柄→色→型→サイズ、サイズ→色→型と陳列した方が買い易い場合がある。
 売れない時は陳列階梯順がMDや顧客の購買行動と食い違っていないか検証し、買い易い順に並べ替えると売上が回復するケースがある。売り切れて色やサイズが欠けて来たラックは類似MDを統合して色優先(色切れの場合)やサイズ優先(サイズ切れの場合)に組み替えると目に見えて売上が回復する。
 3)出前陳列訴求とは、通常の陳列ラック(元番地)から意図した切り口で一部商品を持ち出して目立つ場所に打ち出すもので、一般に色か柄を限定してルックを組み、期間が過ぎたら残った商品は元番地に戻す。
 出前は多重露出するのが効果的で、同一店内で同じパンツを白とブルーはマリンボーダートップスと組み、オレンジとイエローはサファリプリントトップスと組み、別々の場所に打ち出すなどが好例だ。日本では多重露出は例外的だが、サイズ展開の多い米国では色別に分けて多重露出する陳列は珍しくない。また、通常調達ロットを大きく上回る戦略商品(売価を割安に設定出来る)は販売消化を確実にするため、お相手や色組みを替えて四カ所も六ヶ所も多重露出するケースが見られる。出前は大型店の売場構築に必須の手法でもあり、「ユニクロ」などでは個々のMDユニットをWフェイス化するに加えて標準店の何倍も出前を仕掛け、効率を落とす事なく広い売場を埋めている。
 売れる商品を何倍も売る技術だが、売れ残りを売れ筋のお相手に組み込んで消化する仕掛けにも使える。売れ残り品は一カ所にまとめず、色別にお相手を替えて多重露出で売り切りたい。
 4)販売誘導とは、商品分類配置に合わせて接客空間を配置して買い上げ率を上げ、フィッティングルーム周囲にお見置きテーブルやコーディネイト雑貨(ベルトやスカーフなど)を置いて客単価を稼ぐもの。接客空間とは姿見とその前の120cm×160cm以上の空間で、その配置次第で買い上げ率は大きく上下する。
 売れない時は販売空間の配置を見直し(特に店頭打ち出し直後の左右)、フィッティングルーム周りにベルトやスカーフのラックを移すなど工夫すれば、買い上げ率と客単価が改善されて売上が上向く。

売れない要因を取り除き売れる要因を増幅する

 不振対策の要は『売れない要因を取り除き売れる要因を増幅する』に尽きる。如何に売れない鮮度の無い商品を目立たなくし売れる鮮度のある商品を目立たせるかが問われるのだ。
 売れない要因の最たるものは「腐った魚」で、見るからに季節遅れの商品や前月の打ち出しカラー/柄の商品があると腐臭が漂ってしまう。こんな「腐った魚」があると店全体の鮮度が疑われるから撤去するに尽きる。撤去すると言っても目立つ前月の打ち出しカラー/柄の商品はせいぜい十数点かそこらだから全在庫の1%にも満たず、焼却処分しても知れている(もちろん、店間移動したり期末処分に回しても良い)。
 不振在庫や賞味期限切れ商品はセカンドライン店やアウトレット店に店間移動してプロパー店の鮮度を回復させ、在庫枠/陳列枠を空けて新規品を計画通り投入するのが基本で、移動を躊躇して新規商品の投入を遅らせれば不振が長引いてしまう。セカンドライン店はプロパー店の期中売れ残りを引き受けて値下げ処分する役割を担うが初期投入はプロパーで構成する通常店舗で、エリア毎に価格に敏感な客層の多いB級SCに配置する。プロパー店の鮮度を保つには不可欠な存在で、アウトレット店とは役割を分けて布陣するチェーンも少なくない。当社のSPAC研究会メンバー企業の平均ではほぼプロパー6店毎にセカンドライン店を、プロパー11店毎にアウトレット店を布陣している。
 工夫すれば消化が見込める鮮度の落ちた在庫品は店頭陳列量をSKU各1あるいはワンサイズのみに圧縮し、陳列面もスリーブアウトしたり畳みを小さくして圧縮し、元番地に凝縮して残りをストックに仕舞う一方、新鮮商品や売れ筋と組んだ多重露出で一点一点売り切って行く。
 売れる要因の最たるものは鮮度ある売れ筋だから、こちらは最大限に目立たせる。ストックに残さず出前の多重露出で全量を陳列し、フェイスアウトや姿畳み/大畳みで陳列面を極大化する。当然ながら目立つ前/上に新鮮色柄を配置し、売場の鮮度を最大限に訴求する。この仕掛けは肝心の売れ筋や高鮮度品が売り切れてしまうと効力を失うから(仕掛けが上手いほど売れる速度が早く効力も短くなる)、補給や店間移動で効力を維持する必要が在る。
 店間移動や補給も重要だが、店舗在庫の売場陳列とストックを量的にも陳列手法的にも操作し、鮮度を極大化する運用技術が問われる。

再編集は投入と連動して定時化する

 再編集を不振時にあたふたと行うだけでは効果は知れているし、作業要員の質と数の確保も難しい。下手に乱発すれば作業負担が増大して販売が疎かになったり残業が肥大する弊害も指摘される。再編集の効果は新規投入陳列/店間移動ピッキングと連動してこそ極大化されるもので、新規投入サイクルで定期化すれば手法も確立するし勤務ローテーションにも組み込める。
 再編集は定期化してこそ効果が発揮されるもので、SPAC研究会メンバー企業では「毎週、定期的に実施」している企業の平均商品回転は7.2回と不定期実施企業の平均5.8回より格段に優れている。再編集と並行して消化促進に効果的なのがキックオフ(期初または期中ピーク前後に行う小幅の値引き訴求)だが、活用メンバー企業の平均当初売価対比ロス率(値引き減耗)は18.8%と非活用(期末バーゲン中心)企業の平均24.5%を大きく下回っている。

本部指示と個店対応の両輪

 実際に新規投入と連動した定期サイクルで行う場合、本部指示と個店の状況対応、マニュアル化する基本技法とそれでカバー出来ない応用技法、研修方法が課題となる。ブランド/ストアとしての商品分類配置を確立してレイアウトを標準化すれば、新規投入商品の面展開と出前展開をビジュアルに本部指示出来るが(面展開の陳列形状や色順、出前の品番/色/サイズ組みまで指示する)、店別に異なる嗜好や消化状況に応じた応用編集を誰が指導するかという課題が残る。
 店舗の立地/客層によって売れ行きは微妙に異なるし、享けるルックやフィットが大きく異なる場合もある。東京と大阪でもルックのこてこて度とリミックスはかなり違うし、欧米ではリミックスが弱くハーモニーが好まれる。フィットにしても、ストリート感の強い立地では緩腰履きや落とし履きが志向されたりトップとボトムでサイズを違えたりする。
 世界中に数百数千店舗を展開するグローバルSPAでは国はもちろん地区やストリートで打ち出すルックやフィット、再編集の切り口もデリケートに変えている。国毎地区毎にスタイリストを契約して毎週のルックやフィットを提案させ、エリア毎のVMDチームが本部指示を基本に店舗別にルックとフィット、編集を組み替えるという人海戦術を繰り返しているのだ。閉店後または開店前の作業となるため、ひとつのVMDチームは5店舗程度しかカバーしていないと推察される。
 それらは地域に集中した大型店運営ならではのVMD体制であり、分散した小型店舗の運用には向かない。本部の指示書(スマホ送信が一般的)をベースにエリアマネージャーが個店対応を指示するのが現実的だから、結局は毎日、顧客を見ている店長や売場リーダーがルックやフィットを個店対応させる事になる。となれば、毎週の本部指示書の前に基本的な「陳列運用マニュアル」の導入と店舗スタッフ研修が不可欠で、毎シーズンの研修会で技術と感覚をアップデイトする必要が在る。
 欧米のブランド/ストアでは専門スタッフにVMDの権限が集中して現場の運用力が育たないが、店舗規模も分業も限られる国内ブランド/ストアでは店舗スタッフを研修して運用力を高める方が現実的だ。マニュアルで研修した上で、本部指示やマネージャー指示をベースに、どう個店対応したら効果が出るのか実感を積み上げさせるべきであろう。

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