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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『見切り千両の処分相場とオフプライス流通』 (2018年03月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アパレルブランドやSPAの正価対比調達コストは過剰供給と消化歩留まりの悪化で前世紀末より12ポイントほども切り下げられ、商社筋から聞く限り、今日では百貨店ブランドで20%前後、SPAでも25〜30%、二重価格商法のアパレルチェーンでは16%まで低下している。

 そんな原価率でまともに売れればボロ儲けだが、今どきの歩留まり率(※)は業界平均70〜75%(定価で半分、半額で残りを売り切れば75%になる)で、在庫の多店舗偏在ロスが大きい三桁展開の大手チェーンでは60〜65%が攻防ラインとなっている。もはや定価販売の方がマイナーで値引き販売が常態化し、それでも大量の残品が残るのがアパレル流通の現実なのだ。

引き取り相場は時間とともに半減していく

 定価で売り切れなければ値引き販売し、それでも残れば処分業者(いわゆるバッタ屋さん)に引き取ってもらうことになるが、それにも時期(賞味期間)によって相場がある。著名ブランドと無名ブランドやPBでは当然に格差があるが、一般に当シーズンのプロパー販売期間が十分に残る段階(投入から4週が目安)であれば調達コストから処分業者の手数料分を差し引いた程度だが、セール時期に近づけばその半額になり、期末を超えて持ち越してしまえばさらにその半額になってしまう。百貨店ブランドなら16%が8%になり4%になっていくのだから、早々な判断が求められる。

 衣料品にも賞味期間があり、商品の性格で極端に異なる。ファストなトレンド商品は短く、シーズンを過ぎれば工業原料としての価値しかなくなり、買い取り業者も「ゼロ円」評価しかしてくれない(買い取ってくれない)。逆に定番的な商品は長く、シーズンを超えて継続されるブランドもの定番商品などプレミアムが付くこともある。量販的なSPA商品も「ゼロ円」評価組だが(試しにZOZOの買い取りサービス欄にブランド名を入れてみると面白い)、百貨店や大手量販店の品質企画商品などNB並みに評価されることもある。

ロットのそろったメーカー放出品が好まれる

 前述した相場は色・サイズがそろったメーカー放出在庫(packaway)の場合で、色・サイズが欠けた小売店の残品だとガクンと評価が低くなる。なぜなら個々の検品が必要で不良品も発生することに加え、多店舗展開のオフプライスチェーンではロットが足らず継ぎ接ぎの品揃えになってしまうからだが、近年はECに載せる「ささげ」コストが合わないことも響いている。

「ささげ」は撮影・採寸・説明原稿作成の略だが、モデル着装撮影は代表色・サイズのみでも物撮りは全色、採寸・計量は全サイズ必要になる。自動化もロボット活用も困難な工程が多く、投入が集中する時期は作業が渋滞して一週間前後も掲載が遅れてしまう。そんな手間を色・サイズが欠けた数枚ごとにやってはコストも時間も割りが合わない。だからダース(時には数十、数百ダース)単位で色・サイズがそろうメーカー放出品が好まれるのは当然なのだ。

バッタ屋さんがビッグビジネスに化ける?

 わが国でリユースというと個人のユーズド品を一品ごとに販売するC2CやB2Cが主流だが、ECでは一品ごとのB2Cはコストに合わない。米国のようにロットのそろったメーカー放出品をチェーン展開のオフプライスストアがオムニチャネルに販売する時代が早晩に到来するとしたら、バッタ屋さんもビッグビジネスになる。

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 わが国のファッション分野ではアウトレットストアを除けばメジャーな二次流通システムが見当たらないが、米国では上位4社だけで610億ドル(6兆6400億円)に達する2次流通ビジネスが成立し、プロパー流通ビジネスを大きく凌駕する成長を続けている。OPS(オフプライスストア)がそれで、全米百貨店/PDS売上げが9年間で25%減少する中、OPS上位4社合計売上げはほぼ2.1倍強に急増している。アウトレットストアが自社の売れ残り品処分を建前とするのに対し、OPSは他社の売れ残り品を仕入れて販売する事業形態とされる。

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 トップ企業のTJXは「T.J.マックス」「マーシャルズ」「ホーム・グッズ」など計4070店舗を展開して359億ドルを売上げ、売上げ対比10.8%の営業利益を稼ぎ、2位のロス・ストアーズも1622店舗を展開して141億ドルを売上げ、営業利益率14.4%を稼いでいる。ECに押されて売上げが低迷するデパート業界もこぞってOPSを拡大しており、先行するノードストロムはプロパー店の123店に対してOPSの「NORDSTROM RUCK」を232店も展開して全社売上げの32.7%を占め、販売効率はプロパー店より37%も高い。サックスフィフスもプロパー店の47店に対して「OFF FIFTH」131店、ニーマンマーカスもプロパー店の44店に対して「LAST CALL」38店を展開しており、メイシーズも「BACK STAGE」を60店、コールズさえ「OFF AISLE」を3店布陣して後を追う状況だ(サックスフィフスはHP上の最新数、ニーマンマーカスは17年7月期、他は18年1月期)。

 
オフプライスストアは天使か? 悪魔か?

 わが国のアパレル流通は需要に倍する過剰供給に陥っており、バーゲンしてもアウトレットで処分してもなお過半が売れ残って東南アジアなどに中古衣料として『トンいくら』で放出されている。その一部でも米国のように大規模なオフプライスチェーンで再流通するようになれば、残品に苦しむアパレル業者は救われるのか、はたまた割安な再流通品にプロパー品が食われて一段と追い詰められるのか、その結末は想像に難くない。

 米国ではアウトレットモールの主役がアウトレット店からオフプライス店に代わって久しく、オフプライス流通が売上げベースで15%、プロパー価格ベースではおそらく3割に達し、20%に迫るEC流通と合わせて店舗販売を追い詰めている。何でも米国追従してきたわが国の流通も、この点だけは状況が異なるが、早晩、せきを切ったようにオフプライス流通がメジャー化するのは避けられそうもない。これだけ大量の売れ残り品が慢性的にあふれているのだから、そのはけ口が開くのは必然ではないか。

※歩留まり率・・・・結果販売総額を当初投入正価総額で除した%比率で換金率ともいう。

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