小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年8月号
『フラクサスに賭けたワールドの成長戦略』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

上場来最高益を記録した04年3月期決算は満点

 ワールドの04年3月期(以下、今期)単体決算は営業利益が25.9%増、経常利益も29.0%増の大幅増益となり、93年の株式上場来最高益を記録。営業利益率は8.1%と前期比1.5ポイント、経常利益率も7.5%と1.4ポイント上昇した。売上こそ1.2%増の2268.1億円と伸び悩んだが、国内アパレルメーカー単体首位の座は守った。
 収益改善の主要因は粗利益率の向上にある。粗利益率の高い小売事業のシェア拡大に加え、海外生産拡大による原価率の低減、週単位で生産から販売まで効率的にリンクするSCMの精度向上で、59.1%と前期から2.0ポイント、99年3月期からの5期では6.5ポイントも向上している。
 経費面でも改善が見られる。99年3月期には34.3%に達していた直営売上対比不動産費率が、今期は前期から1.5ポイントも改善されて29.7%まで低下。全社売上対比不動産費率も22.3%と01年3月期以降、安定している。00年3月期には67.3%に達していた直営売上に占める百貨店シェアが、新規小売業態の拡大とともに55.7%まで低下。高歩率な百貨店からSCや駅ビル/ファッションビルへのシェア移動が不動産費率の改善に直結したと見られる。
 人件費率の改善も急ピッチで進行している。効率的組織体制への人事改革が一巡し、正社員数は99年3月期末の2356人から今期末には1949人と17.3%も減少。この間、売上対比人件費率は11.1%から8.0%と3.1ポイントも低下した。
 直営店のほとんどは連結子会社の㈱ワールドストアパートナーズが販売代行しており、その費用は販売促進費(今期決算で9.4%、直営売上対比では12.5%)に計上されている。連結ベースの人件費率は00年3月期には17.5%まで上昇したが、今期は16.2%まで改善されている。
 このように粗利益率と各経費率の関係を検証してみると、卸事業から小売事業へのシフトに伴なう不動産費率/人件費率の悪化サイクルをワールドは既に通り抜けた事が解る。新規小売業態のシェア拡大とともに収益力が一段と高まる構造が確立しており、単独/連結とも利益率が二桁に乗るのも時間の問題と思われる。
 商品回転は過去2期で0.5回転悪化したものの、小売事業シフトと卸事業の取引正常化によって売掛債権回転日数が大巾に短縮。海外調達拡大に伴う支払勘定回転の低速化も加わって回転差資金は5期で約87億円も増加しており、小売事業の急速な拡張にも商品財務の不安はまったくない。卸事業では回転差資金はマイナスになるが、ワールドのそれは01年3月期からプラスに転じており、既にその段階で小売事業体質への転換が山を越えていた事を示している。
 5期間に固定資産関連に約237億円、借入金返済や社債償還等に約397億円、自己株式取得等に約157億円と、投資及び財務関連に計837億円のキャッシュを投じているが、それもこの間の営業キャッシュフロー約861億円の範囲に収まっており、キャッシュフロー面も健全だ。
 専門店卸から百貨店SPAブランド、そして新規小売業態と、果敢に生存領域をシフトして来た戦略がワールドの成功をもたらしたのは明白だが、個々の事業は必ずしも順風満帆と言える状態ではない。ワールドの今後に不安はないのか、同社を支える専門店卸/百貨店SPAブランド/新規小売業態の3事業の現状と将来性について検証してみた。  

卸事業は再拡大出来るか

 今期の卸事業売上は425億円と過去6年で半分以下に減少し、全社売上に占めるシェアは2割を切った。前期は2.3%減と落ち止まりを予感させたが、今期は9.9%減と再び落ち込み巾が拡大。かつては400億円を超えていた基幹ブランド「コルディア」も前期比14.4%減の125億円まで縮小している。
 売上こそ急減したものの、部門の純利益に近い管理可能利益は98年3月期の104億円から02年3月期が105億円、前期が103億円、今期も98億円と安定。売上対比管理可能利益率も98年3月期の10.6%から今期は23.1%まで上昇し、小売事業のそれ(12.2%)を大きく凌駕している。
 地域専門店をオンリーショップ化して一時代を築いたワールドだが、80年代中盤以降、取引先専門店の疲弊を商品供給の半委託化と支払い猶予で支えるというもたれ合いが深刻化して収益力が低迷。悪循環を断ち切って事業再生を図るべく97年以降、卸事業の抜本的改革に乗り出した。不採算ブランドの整理/再編に続いて着手したのが取引の正常化で、取引先専門店のヒアリングや様々なシミュレーションを重ねた後、99年秋には完全買取に移行すると同時に、仕入実績と支払実績で納入掛率がスライドするシステムを導入。取引実績を上げれば掛率が大巾に下がる仕組みで、危惧された専門店の離反も約1割に留まった。
 その後も各ブランドのポジション明確化と商品企画の差別化、営業員担当区分のブランド別からエリア別への転換、個別ブランド展から合同展への移行と期中展の開催、ファックス受注/ウエブ受注の導入による期中対応の強化等、様々な角度から専門店取引の効率化を押し進め、サプライチェーントータルの収益性向上に努めていった。
 00年秋にはSPAのノウハウを卸事業で活用すべく、バーチャルSPAの取り組みを開始。ワールドがサプライ・マネジメントの総てを受け持って在庫リスクも負担、小売店側は内装・什器等の店舗投資や家賃/販売人件費等を負担し、粗利益を両者で折半するという協業型ビジネスで、「アンタイトル」や「インディヴィ」等、百貨店SPAブランドでスタートした後、01年秋には「コルディア」も加わった。地域専門店の掘り起こしを目的としたが実際には地方百貨店主体に拡がっており、その点では必ずしも狙い通りには進んでいない。
 協業型ビジネスでは01年秋冬に菱沼良樹氏と提携し、“ワールド・レップ・システム(WRS)”の原型となる取り組みをスタート。“WRS”とはワールドの卸営業力と外部のアパレルメーカーやデザイナーの商品企画・開発力を組み合わせたコラボレ−ト・ビジネスで、ワールドは展示会開催/受注代行と売上金回収を行い、外部アパレルメーカーは商品企画・開発、および品質/納期管理の責を負う。03年夏以降、提携先が急増。今春からスタートした東コレブランドの「チユキ」を含め、14ブランドに拡がっている。
 ワールドは自社で開発が難しい分野のカバー、外部アパレルメーカーは販路拡大、そして取引先専門店は商品バリエーションの拡充と、三者それぞれにメリットがある。同システムに非アパレル商品を加える事も可能で、服飾雑貨やジュエリー、ランジェリー、生活雑貨やHBA等を取り込めば取引先専門店の業態開発の巾も拡がるはずだ。
 収益性こそ回復しているものの縮小が続く卸事業の再拡大は取引先専門店の再活性化以外に道はなく、“WRS”はその可能性を秘めたプロジェクトと期待される。取引先専門店の発展チャンスを拡げるにはSC出店へのリーシング業務を組み合わせるべきで、バーチャルSPAにも活路が開けるのではないか。  

百貨店SPAブランドは復活するか

 小売事業売上は99年3月期に1000億円を突破して卸事業を逆転。その後も拡大を続けて今期は前期比5.1%増の1751億円に達した。が、今だ小売事業売上の3分の2近くを占める百貨店主体SPAブランドが壁に当たっているのだ。
 SPAブランドの総売上は02年3月期に1212億円とピークに達した後、03年3月期は1202億円と0.8%減。今期は当初計画の3%減に対して6.9%減の1120億円と、2期連続の減収に終わっている。ブランド別に見ても、「アンタイトル」が4.5%減、「インディヴィ」が7.5%減、「オゾック」は23.5%も減少し、これら基幹3ブランド合計は613億円と78億円(11.3%)も落ち込んでいる。
 ワールドのSPAブランド開発は93年秋の「オゾック」に始まり、95年春に「アンタイトル」、96年春に「インディヴィ」、97年春に「クードシャンス」とメンズの「ボイコット」、98年春には「コルディア」から派生したニューミセス対応の「リフレクト」、99年秋にはトランタン〜キャリアを狙った「ヴォイスメール」と毎年の様に拡大していった。「オゾック」が減収に陥った00年3月期以降も後発ブランドが成長を支えて来たが、「アンタイトル」「インディヴィ」に陰りが見え始めた03年3月期以降は全体を底支えするブランドは見当たらない。
 “オゾック・プロセス”の短サイクルな開発体制で供給出来る質感には限界があり、この壁を突破すべく01年にスタートしたのが“ワールド・プロダクション・パートナーズ(WP2)”。“オゾック・プロセス”の週単位の販売と製品供給の連係は残しつつ、原糸やテキスタイル開発の段階からコラボレートして質感とオリジナリティを高めるという試みで、その効果は卸ブランドにまで波及したが、基幹SPAブランドの売上回復には繋がっていない。
 落ち込みが続いているとは言え、SPAブランドは今も全社売上の約半分を占める最大事業であり、再拡大に向けて2つの戦略に取り組んでいる。そのひとつが03年春夏物に始まる「オゾック」のリモデルで、ディレクターにチダコウイチ氏を起用したのを始め、ショップ・デザイナーやアート・ディレクター等のスタッフを一新してリ・ブランディングに挑戦。18〜24才だったターゲットを20代後半まで拡げるとともに、彼女達を取り込むべく素材や加工に凝った高付加価値商品を強化。“オゾック・プロセス”による期中フォロー体制は残しながらも初期企画の比重を大巾に高め、トレンド後追いから提案力重視に方向転換している。
 が、今春夏の既存店売上は依然として2ケタ減が続いており、初期の構想はマーケットに拒絶された格好だ。類似ビジネスモデルのまま、ポジションとイメージを変えるという戦略は元々からインパクトがなく、新生「オゾック」を基軸ブランドとしたバイイングSPAを立ち上げてファッションビル/駅ビルに主戦場を移すべきであった。
 もうひとつが“ポスト・プレタポルテ”をテーマに、アパークラスの女性をターゲットとする新ブランドの開発。テイストやMD展開、価格帯などのブランド概要は現時点(6月3日)ではまだ発表されていないが、国内外で活躍する日本人デザイナーを起用して今秋を目処に一気に5ブランドを立ち上げ、百貨店プレタ市場を開拓していく構想だと聞く。
 卸部隊の欧日産地を活用した開発力とワールド発祥の神戸エレガンス文明の洗練されたクラス感を考えれば可能性の高い挑戦と思われるが、百貨店の特選フロアを制圧している外資ラグジュアリーブランドに伍するブランディング戦略を徹底出来るか否かが成否を分ける事になろう。予想外に資金を食うプロジェクトになるだろうが、大手アパレルの誰もが後込みした特選フロアの奪回に挑戦する勇気には賞賛を惜しまない。
 これらの戦略が軌道に乗ればSPAブランドの再拡大も不可能ではないが、百貨店の限度を越えた高歩率を考えれば収益改善の目処は立たない。新生「オゾック」が結局は百貨店外に活路を見い出す事になり、“ポスト・プレタポルテ”戦略も例外的に歩率が低いラグジュアリーポジションに成否を賭ける事になる。
 既にSCやファッションビルに高収益なビジネスモデルを確立したワールドにとって、百貨店ブランドという収益可能性を断たれた領域に非効率な投資を行うメリットはもはや考え難い。ラグジュアリービジネスは別として、新規小売業態にシェアを移行させていく間のリップ・サービスと割り切るべきだろう。

新規小売業態は成長を継続出来るか

 SPAブランドに替わって急拡大を続けているのが新規小売業態で、今期も前期比36%増の631億円と大巾増収を継続。過去3年で3倍強に拡大し、既に卸事業の売上を超えて全社売上の3割近くを占めるに至っている。が、その中身を見ると成長にイエローシグナルが点っている事が解る。
 駅ビル/ファッションビルを主戦場とするバイイングSPA業態では最大業態の「インデックス」が00年3月期以降、一進一退を続けており、「ジ・エンポリアム」や「アクアガール」こそ成長を続けているものの、セレクト商品を含む性格から言って多店化には限度がある。新たな業態開発も可能だが、ファッション・コモディティ業態に比べれば離陸率は低い。
 郊外SCを主戦場とするファッション・コモディティ業態は急拡大を継続しており、「ハッシュアッシュ」が前期比55.7%増の123億円、「ザ・ショップTK」が3倍増の48億円、「オリンカリ・ザ・ショップ・オゾック」も51.9%増の41億円に達し、30億円に届かないが「3can4on」も成長途上に在る。
 これらの成長によって直営部門のSCチャネル売上は369億円と過去4年でほぼ5倍に拡大し、全社売上の16.3%に達した一方(駅ビル/路面まで合わせて753億円、33.2%)、百貨店チャネル売上は約950億円と全社売上の41.8%を占めるものの97.2%と初の減少に転じている。
 百貨店チャネルの低迷とSCチャネルの売上シェア拡大で直営店の坪効率は4年で3分の2以下に低下したが、小売事業総体の売上対比管理可能利益率は12.2%と前期比3.6ポイントも上昇。歩率負担の重い百貨店SPAブランドから郊外SCのファッション・コモディティ業態へのシフトは、小売事業の収益改善に直結している。  来期もファッション・コモディティ業態は24%増の340億円を計画しているが、当社で集計している全国主要SCのテナント別販売成績では、主要なバイイングSPA業態もファッション・コモディティ業態も既存店前年比はここ1年、水面を挟んだ攻防となっている。拠点数拡大によって増収は続けているものの、主要業態は成長期を通り越しつつあるのが実情だ。ワールドが月度に公表している事業別の売上前年比推移を見ても、成長力の減退は明らかと言うしかない。
 バイイングSPA業態に加えてファッション・コモディティ業態も期待ほどの成長を継続出来ず、全社売上の4割強を占める百貨店SPAブランドの凋落が止まらないとなれば、ワールドの成長戦略も壁に当たる事になる。そのリスクに直面してワールドが仕掛けた王手が「フラクサス」なのだ。
 

「フラクサス」はワールドの救世主だ

 ダイヤモンドシティ・ソレイユ(3月24日 広島)、同アルル(4月1日 奈良橿原)、同ルクル(6月4日 福岡)と3店を相次いでオープンした「フラクサス」。売場面積はソレイユ店が1170坪、アルル店が900坪、ルクル店に至っては1730坪に達する。ワールドは都心対応大型編集業態「オペーク」を3店展開しているが、最大の銀座店でも420坪だから「フラクサス」はケタはずれに大きい。
 ワールドは「フラクサス」のコンセプトを『美的感動ある生活をカテゴリーミックスで提案するファッション・ライフスタイルストア』と発表しているが、その実態は既開発のファッション・コモディティ業態/バイイングSPA業態/百貨店SPAブランド/飲食業態を総動員して新規開発の専用ユニットも加え、『クォリテイ感ある美術的店舗環境のもとにユニット編集してレイアウトしたデパートメントストア』に他ならない。
 委託・消化MDに堕して収益体質を損ない、郊外RSCへの出店能力を失った既存百貨店。それを尻目に核店舗にチャレンジした「フラクサス」の姿は、業界の想像を越えた美術的店舗環境とあいまって英雄的でさえある。が、ワールドの置かれた情況をシリアスに直視すれば、成長継続への救世主たる役割を担っている事が解る。
 奥行きの深い広大な売場と核店舗としての位置付けは、各業態が個別に出店するより格段の好条件が得られるし、運営コストも確実に下げられる(現状のレイアウト手法ではそのメリットを食い潰しているが)。出店スペースも大規模に確保出来るし、各ユニットのレイアウトも自在だ。加えて、デパートメントストアとして地域の顧客層を形成すれば、新たなユニットの開発や他社ユニットの取り込み、営業展開手法の開発も容易に進められる。
 何より、1店で20〜40億円という大規模な売上がワールドの成長力を確固たるものにするのは間違いない。現実的な線として、千坪級「フラクサス」を毎年4〜5店も出店すれば、それだけで売上を100億円程度積み増せる。それはワールドの成長率を4ポイント以上、かさ上げする事になるのだ。
 「フラクサス」の商業的成否はまだ読み切れないし、レイアウト手法がどのタイプになるのか、多店舗化モデルが千坪になるのか二千坪になるのかも恐らくは定まっていないだろう。が、ワールドにとっては何が何でも成功させるしかない最終兵器である事は間違いない。その成否がワールドの将来を決するのみならず、日本の郊外RSC文明をも左右する事になるのだ。

論文バックナンバーリスト