小島健輔の最新論文

販売革新2014年1月号掲載
2014年流通業界の読み方
『オムニチャネル時代の流通革命』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 

ショールーミングよりウェブルーミング

 Eコマースの拡大とスマホの普及でオムニチャネル時代が到来しモルタル小売業はショールーミングの嵐に晒されている、というのが一般的な認識だが、果たしてそうだろうか。オムニチャネルショッピングが一般化する中、店頭で選んで価格比較しEコマースで買うというショールーミングばかりが注目されるが、日米の様々な調査結果を見る限り、ネットで調べて店頭で買うというウェブルーミングとショールーミングは大差なく、価格比較に晒されないオリジナル商材の業態/ブランドなら相乗効果でモルタル/クリックどちらも売上が伸びている。
 ショールーミングが定着している米国の調査でも、商品の購入にあたってウェブで情報収集する人は100%近いのに、店頭で見た商品をスマホでチェックする人は半分程度だ。直近のグーグルのレポートでも、スマホによる検索の91%は地域を特定したもので、情報収集の結果、ウェブで買う人が28%いる一方、16%の人はお店で買っている。スマホの普及はGPSやWi-Fiを活用したローカルサービスを加速しており、ショールーミングよりウェブルーミングを後押ししている。
 O2Oを実践しているアパレル企業のアンケート回答を見ても現場の担当者の実感を聞いても、店頭で見てウェブで買う顧客よりウェブで調べて店頭で買う顧客の方が遥かに多い。つまり、ショールーミングで失われる顧客よりウェブルーミングで得られる顧客の方が遥かに多いのが現実なのだ。O2O先行企業として注目されるユナイテッドアローズ社の場合でも、店舗とECを併用する顧客の平均年間店舗購入額は店舗でのみ購入する顧客の2.5倍で、併用客のEC購入額を加えれば2.9倍まで開くそうだ。当社が主催するSPAC研究会メンバー平均でも店頭に9.4%、ECに12.0%の売上増効果が報告されている。
 ECが伸びている会社ほど店頭売上も伸びているという印象は実勢を反映したものだったのだ。逆に言えばモルタル店舗を持たないEコマース専業者はオムニチャネルショッピングの恩恵を受けられない訳で、価格比較によるショールーミングが無いファッション分野ではEコマース専業者の業績伸び悩みが指摘される。
 気が付かないでいるだけでECサイトやSNSは店舗に大量の顧客を導いており、スマホの普及はウェブサービスのローカル化を加速してGPSやWi-Fiでもっと直接的に多くの顧客を導いてくれる。それなのに一部の商業施設デベロッパーや百貨店はショールーミングという片方向ばかり見て時流に逆らい、ウェブルーミングという膨大な無償の顧客誘導を正しく捉えていない。O2Oは商業施設にも多大な恩恵を持たらしているのが現実で、ショールーミング阻止に動くより「tab」などの誘引アプリを活用してウェブルーミングを支援する方が遥かに多くの顧客と売上をもたらす。商業施設デベロッパーや百貨店はウェブルーミングの有り難みを知り、頭を切り替えるべきであろう。

オムニチャネル消費がもたらすショールーム革命

 オムニチャネル戦略の基本は『多様な販売チャネルを顧客の利便で隔てなく使ってもらい、顧客と在庫を一元管理して相乗効果で売上を伸ばしコストを下げる』に尽きるが、スマホによるローカルサービスがオムニ双方向化(ショールーミングとウェブルーミング)を加速し、店頭でのEコマース誘導はもちろん、Eコマース商品の店頭での受け取りや返品、店舗からの発送までが競われる今日、店舗販売もオムニチャネルの一貫として『顧客利便と提供方法(=購買方法)の効率化』という変革を強いられる。生産地から顧客までの物流プロセスはもちろん、店頭での陳列や接客、買う側と売る側の労働負担、さらには決済方法に至るまで、利便とコストをオムニチャネルトータルに競わねばならなくなる。これら提供方法(=購買スタイル)革新の肝は陳列と物流と決済だ。
 前世紀来、チェーンストア運営は店頭への物流と品出し、顧客によるピッキングと持ち帰り、レジでの決済という古典的な様式に終始して来たが、オムニチャネルな顧客利便とコストが競われる今日、このままで済むはずがない。そこには買う側と売る側の膨大な労働と不便、無駄なコストが存在するからだ。
 「ユニクロ」の店頭には膨大な在庫が物流され、店舗要員は終日、品出し/品戻し/陳列整理に忙殺され、顧客は陳列をひっくり返して欲しい商品を探し、レジまで物流して決済し、自宅まで物流しなければならない。果たしてこれが合理的効率的な提供方法と言えるだろうか。オムニチャネルショッピングの利便が当たり前になった今日では異様な光景と言わざるを得ない。実はこんな不合理を改善する試みはEコマース以前から始まっていた。
 陳列にはプレゼン機能の「出前」(サンプル陳列)と店内在庫機能の「元番地」があるが、店頭では「出前」さえ在れば「元番地」は必ずしも必要ではない。「元番地」を置けば店要員に品出し/品戻し/陳列整理などの作業が発生するし、顧客には在庫探しとレジまでの物流、さらには自宅までの物流が要求される。店頭陳列を「出前」だけにすれば店要員にも顧客にも不要な作業が発生せず、購買(=販売)労働が極小化され、運営経費を圧縮して売価を下げる事が出来る。
 「フライングタイガー」の一方通行レイアウトは注目だが、「出前」特化のショールーム陳列にしてタグカード持参方式かNFC認識方式で顧客が商品を選択し(iBeaconも使えるだろう)、レジで現品を渡すか自宅か近所のコンビニへ配送する方式に進化すればもっと面白くなる。古くは「IKEA」の家具類、近年では「アップルストア」がショールーム陳列を実践しており、ほんのちょっとデジタル技術と物流サービスを加えれば画期的な提供方法に化ける。
 よく知られているように「IKEA」の家具はサンプルだけのショールーム陳列で、‘フラットパック’によって顧客がストックヤードからピッキングする。「アップルストア」も試用サンプルだけのショールーム陳列だから店内物流業務は発生せず、店舗要員はテクニカルなサービスに集中出来る。
 米国ギャップ社のオンライン事業の営業利益率は店舗事業より11.5ポイントも高い(13年1月期)事に象徴されるように、売る側と買う側の労働とトータルコストを極小化するという点でもEコマースは画期的だったが、オムニチャネルショッピングが一般化する中、店頭販売もそれに見合う提供方法の革新を迫られている。米国や日本(NFC活用)などで実証実験が始まった「デジタルキオスク」はワゴンビジネスを無人無在庫Eコマース化するものとして注目されるが、ショールーム陳列のデジタル化と見れば店頭の提供方法も一変させる可能性がある。
 生産地から顧客まで、買う側の便宜を極大化して売る側の労働とコストを極小化する提供方法をオムニチャネルに競う21世紀の「流通革命」が押し寄せる中、古典的なチェーンストア流通に囚われていては時代に置き去りにされてしまう。これをリード出来るか否かで業界地図は一変するに違いない。

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