小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年2月号
『SC出店を再点検せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

■スクラップ&ビルドは一巡すれど大量出店には疑問符
 日本SC協会の調査では03年度のSC開設数は44SC(速報値)と、70年以降では最少となった01年の39SCに次ぐ低水準に終わった。01年以降の3年間を合計しても133SCと、過去最多だった00年の149SCに及ばない。
 SC開発数は回復していないが、03年は再び大型化が急進。新設44SCの平均面積は26642平米と前年の19860平米から34.1%も拡大し、過去最大だった00年の21616平米を23.3%も上回った。3万平米超の大型物件も19SCと02年の8SCを上回り、4万平米超級も62237平米のイオン熱田SC、62046平米のイオン太田SC等、13SCを数える。
 SC大型化に伴って新規テナント数も増加。44SC合計で3297店(飲食含む)と02年の2762店(50SC)を約2割上回り、ファッション関連ではワールド系の「ハッシュアッシュ」「ザ・ショップ・タケオキクチ」「3can4on」を筆頭に、「組曲ファム」「avv」「グローバルワーク」「ABCマート」、イオン系の「ニューステップ」、なごみ系雑貨の「マザーガーデン」等が大量出店を果たしている。
 SC中心に出店している株式公開アパレル専門店チェーン14社の03年8〜9月決算(通期/中間)では、出店合計159店に対して退店合計118店と退店率(退店数÷出店数)は74.2%に留まり、前年同期の出店合計125店/退店合計253店/退店率202.4%という惨状からは大きく改善された。景気も底を打ち、ファッションテナントのスクラップ&ビルドもようやく出口が見えて来たかに見える。
 が、SC開発の大手デベロッパー集中と開発数の厳選化によってデベロッパー側の買手主導の選別が強まり、特定の好調テナントに出店要請が集中する一方、出店条件は高騰に転じている。消費が本格的に回復している訳ではなく販売成績の明暗も拡大しているし、好調テナントのライフサイクルも三年程度と短く、勢いに乗って大量出店すべき情況ではない。

■お勧めSCと避けたいSC
 どんなに魅力のある店でも出店するSCを誤れば、投資に見合う売上を得るのは難しい。前述した大量出店組でも、あきらかに外した出店例が二割前後は見受けられる。では、SC選択を誤らないためには何に留意すればよいのだろうか。まずは以下の四点を参考にして欲しい。

1)ブランドものSCは確実
 SC開発には巨額の費用がかかるだけに、幾つもの実績を積み上げてノウハウを確立しているデベロッパーは限られる。が、巨額の授業料を払って来たブランドものデベロッパーのSCは格段に販売効率も伸び率も高く、外れがないし財務的安全性も保証されている。施設総体の配置もモールのレイアウトも手慣れており、フロアや昇降導線からの距離による販売効率格差が小さいのが特徴だ。
 駅ビルならルミネ、郊外大型SCならイオンモールとダイヤモンドシティ、アウトレットならチェルシーと三井不動産がブランドものデベロッパーと言ってよく、家賃等はやや高めで強気の営業姿勢も目立つが、それ以上の見返りがある。気を付けなければいけないのは、これらの一部には経験の浅い身内の別働隊があって類似した、あるいは同名のSCを開設している事で、これらは外れも多いし技術的にも稚拙さが目立つ。ブランドものは確実なノウハウが蓄積された本隊だけと認識した方が良い。
 逆に外れリスクが高いのが経験の浅い商社や自治体が手掛けたSCで、絶句するような結果になる事もある。自治体がらみの第三セクター等はほとんどが失敗しており、出店したテナントは辛苦を嘗めている。

2)将来が危うい郊外箱型SC
 現在のようなモール型SCが登場する以前は多層型量販店建築の中にテナントを張り付ける箱型SCが主流であったが、今日、このタイプは衰退が著しい。量販店単核である事に加えてモール環境を欠くため広域からのファミリー客の集客が弱く、商圏内にモール型SCが出来ると一気に売上が落ちる。
 同じテナントでもモール型SCと箱型SCでは販売効率も伸び率も大差があり、年月とともに家賃格差を埋めて不動産費率でもモール型SCが優位になる。今日でもリモデルやスーパーセンター志向GMS核では箱型SCが開設されているが、先細りは見えているから、目先の好出店条件に惑わされてはいけない。

3)小さな核/小商圏型核に要注意
 都市部のファッションビルならいざ知らず郊外立地のSCでは、SC全体が大きくても核店舗が過小規模だと商圏が拡がらず、ライバルSCの開設によってどんどん商圏が小さくなっていく。二万平米以下のジュニア百貨店核では大型量販店核ほどの集客力もなく、小商圏制圧を狙うスーパーセンター核では広域商圏が必要なテナントは干上がってしまう。イオン系でも本体が開発するスーパーセンター志向GMS核SCは箱型SCに商圏特性が近似しており、ファッションテナントは注意を要する。

4)フェスティバル要素は売上に直結しない
 かつて『店はレジャーランドだ』と言って会社を破綻に至らしめた二世経営者がいたが、デベロッパーのフェスティバル施設信仰は今日も盛り上がるばかりだ。シネコンは大型SCの標準装備となった感があるが(ダウンタウン商業地区の多くもシネマ街に接して発展した)、観覧車やレジャー施設にまで拡げてはSC総体のコストと売上のバランスを崩してしまう。フェステイバル施設のコストがテナント家賃を嵩上げする一方、集客が販売に直結しないで採算割れしてしまうケースが少なくない。
 ライフスタイル要素は購買慣習を形成して顧客を定着させるが、フェスティバル要素はその役割は果たさない。観光客相手の商売ならともかく顧客を形成して成り立つ店は、過剰なフェスティバル施設が家賃を嵩上げしているSCは避けた方が賢明だ。

■出店契約のチェックポイント
 デベロッパーとテナントの関係は対等のパートナーへと変わったと言われ、保証金問題等も漸次改善されてきたが、「定期借家契約」など契約形態ではテナントにとって不利になった部分も見られる。出店契約おいては以下の5点を必ずチェックすべきであろう。

1)保証金の敷金への一本化
 長期低落傾向にあるとは言え、テナントにとって保証金/敷金の負担は重い。株式公開アパレル専門店チェーン14社の直近決算期の合計差し入れ保証金/敷金残高は733.5億円と前期から10.4%、97年度からは30.4%も減少し、売上対比でも97年度の29.9%から21.3%まで低下したが、鈴丹やタカキューでは依然として40%を超えている。固定資産対比でもタカキューは85.6%、マックハウスやエルメも8割近くに達しており、経営の足を引っ張っている。
 バブル崩壊来、保証金/敷金水準は急ピッチで下がり続けて来たが、SC開設が厳選化されてきた直近では、人気が集中する好物件の保証金/敷金は高騰、不人気物件のそれは低落と、保証金/敷金水準の二極化傾向が見られる。
 保証金は元々、デベロッパーがまかない切れない開発費をテナントに負担させる目的で発生したもので、店舗賃貸借契約とは無関係の金銭消費貸借契約によって差し入れられるもの。ゆえに退店時に即、返還されるとは限らず、「無利子で10年間据置き/その後10年間で均等償却」等の返還条件がテナントの資金繰りを苦しめて来た。加えて、デベロッパーの破綻によって保証金が不良債権化し、返還不能となる事態も相次いだ。
 不動産の証券化等の市場資金導入が定着し始めたとは言え、信用力のある有力デベロッパーを除いては今だ保証金がSC開発の重要な資金となっている。出店時の開発資金負担を完全になくす事は現実的に難しいが、敷金への一本化なら可能だ。
 退店即返還とならずデベロッパー倒産時には不良債権となる保証金にしないで、その金額を賃貸借契約終了と同時に精算されデベロッパー倒産時の保全も可能な敷金に含めれば、リスクは大巾に軽減される。敷金に一本化する事が契約の絶対条件と肝に命じて欲しい。

2)単純売上歩合の落とし穴に注意
 当社が主催するSPAC研究会参加企業が02年9月〜03年8月間に出店した80店の家賃形態では最低保証のない「売上歩合」が56店を占め、「最低保証付歩合」が4分の1強の21店、「完全固定」は3店と少数だった。01年以降は「売上歩合」が主流となっており、共益費/共同販促費込みの単純歩合契約も前年の9店から15店に増加している。
 「完全固定」や「最低保証付歩合」は、SC開発/運営コストの安定回収を狙ったデベロッパー都合の家賃形態という性格が強い。テナントにとっては、「完全固定」では売上による不動産費率の変動が激しいし、「最低保証付歩合」では売上が最低保証ラインを下回れば不動産費率が急激に高くなる。「売上歩合」はデベロッパー/テナント双方がリスクを分担する家賃形態でテナントにとっても有利だが、最低保証条件解除と引き換えに高歩率を飲んだのでは不動産コストはかえって重くなる。
 前出80店の売上対比不動産費率は悪化傾向にあるが、項目別に見れば共益費/共同販促費の負担が軽減しているのに対し、売上対比家賃比率平均値は駅ビルで01年の12.7%から03年は15.1%、同じくファッションビル”は12.2%から15.0%、ダウンタウン/ターミナルの百貨店アンカーSCは12.8%から16.9%、郊外の量販店アンカーSCでも11.2%から12.9%といずれも上昇。最低保証売上の撤廃に加えて共益費や共同販促費を包括した単純売上歩合契約への移行が、結果として総不動産費率を悪化させている。

3)契約期間は5年が下限
 00年3月に認められた「定期借家契約」が急速に普及しており、新規SCはもちろん既存SCでも契約更新時に切り替えが進められている。実際、前出の80店中、半数強の43店が「定期借家契約」だった。
 従来、テナントは正当な理由がなければ退店を迫られる事はなかったが、同契約では契約期間満了をもってデベロッパーは明け渡しを求める事が出来る。SCの鮮度維持という点でデベロッパーにとってメリットの大きい「定期借家契約」だが、テナントにとってはリニューアル・コンセプトに合わない等の理由で退店を迫られるなど、リスクが大きい。出店契約期間は投資回収期間以上とするのが大原則であり、内装費償却を考えれば5年を下回る契約は避けるべきだ。
 逆に、テナント側からの契約期間内退店にペナルティを課すケースがある。退店はテナント側の問題だけでなく、テナントミックスの失敗やライバルSC新設による商勢圏縮小といった要因でも起こりえるから、一方的なペナルティ条項を飲む必要はない。「定期借家契約」を適用するならペナルティ条項を削除する等の交渉が不可欠だ。

4)営業時間延長への対応
 大店立地法の施行で営業時間が原則自由化されて以降、大型店の営業時間延長が拡がっている。日本経済新聞の調査では、2004年2月末時点でイオン、イトーヨーカ堂、ダイエー、西友4社の23時以降の深夜営業店(24時間営業含む)は計1052店と2年前の526店からほぼ倍増し、全2300店中の半分近くに達する事になるという。SCの物販ゾーンでも今や22時、23時までの営業は珍しくないが、テナント側では「コスト増に見合う売上が取れない」「販売員が確保出来ない」「現場のモラルが低下する」等、様々な問題が生じている。飲食や食品ならともかくファッションテナントにとって、深夜営業は都心繁華街等のごく限られた立地以外はメリットよりデメリットの方が遥かに大きい。
 営業時間や営業日数はデベロッパーの決定事項であり、1テナントの都合で変更する性格のものではないが、多数のテナントの収益に響く様な過度の営業時間延長要求については、テナント総会の総意として拒絶、又はコスト負担を求めても良いはずだ。最低限、出店契約書上で営業時間/営業日数変更時の協議ルールを明文化しておくべきではないか。

5)内装監理費・内装規制等の契約文書化/出店条件書化
 内装監理費や指定業者制度は出店案内には記載してあるものの、出店交渉段階では不動産的な条件の影に隠れて交渉のテーブルにはほとんど昇って来ない。社内の出店決済稟議書には内装規制も含めて記載もされないのが実態で、トップが知らないままに契約が進んでしまうケースも多い。
 契約後に店舗設計する段になって厳しい内装規制書が提示され、内装監理費の高さと指定業者制度の壁(一般に二割は割高だし、現場での仕様変更等の融通はまったく効かない)に絶句する話を五万と聞いて来た。
 契約はもう捺印されているし、出店案内に記載してあった事だから、そこからの交渉は困難で泣き寝入りするしかない。が、陳列高規制は実営業体積を目減りさせるものだし、独自のVMD手法を表現出来ないとなれば出店意志決定そのものが過ちだった事になる。排煙ボーダーや防火シャッターは店舗表現を著しく制限するし、避難通路は売場面積を確実にカットしてしまう等、消防法上の規制も知らなかったでは済まされない。これらは契約交渉において強硬に主張し、結果は図面(物件区画の平面図/天井図/四方向立面図)を添付して契約文書に記載すべきである。
 避難通路分は家賃面積から除外するのが当然だし、指定業者は絶対に拒絶しなければならない。内装規制は自社のVMD手法と店舗環境表現を損なわないギリギリまで交渉すべきで、受け入れられないなら交渉を打ち切るべきだ。
 契約直前になってこれらの案件でもめると、店舗設計も詰められず合い見積りを取る時間も無くなり、店舗人員や在庫の手当てまで響いて来る。デベロッパー側も開店が迫ってくると全体進行が狂うから、受け入れられるはずの事も拒絶するしかなくなる。そんなドタバタを避けるには、テナント側がこれらの条件を記載した出店条件パンフレットを作成し、出店交渉に先んじてデベロッパーに提示するのが一番だ。それでダメなら始めから出店すべきでないSCだったと割り切る方がよい。

■出店は天使の誘惑か悪魔の誘いか
 出店は最大の成長チャンスである反面、最大のリスクでもある。好調の波に乗れば出店要請が殺到し、条件交渉でも無理が通せる。が、ファッションビジネスの好調周期は長くても三年で、好調の後には必ずと言ってよいほど反動の低迷期が来る。
 波に乗っての大量出店では物件の吟味も店造りも詰めが甘くなり店舗要員の質も低下するから、低迷期に入ると不採算店の急増に直面してしまう。『当社に限ってそんな事はない』と皆が思うらしいが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのチェーンでも、はっきりとそれが見られる。
 結果として退店が出店を上回るようなスクラップを何年も強いられるケースも多く、出店の恐ろしさをようやく体感する事になる。時すでに遅く、何年も成長チャンスに目を瞑るしかなくなるのだ。
 出店は天使の誘惑とも悪魔の誘いとも成り得るハイリスク・ハイリターンな戦略行為であり、細心の注意と大胆な決断が求められる。前述した注意点も履行されていないようでは地雷を踏むのは確実で、早急な対応が望まれる。風向きが変わる徴候を感じたら、躊躇なく出店を抑制することだ。 

論文バックナンバーリスト