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WWD 小島健輔リポート
『業界騒然!ヨーカ堂の衣料品平場を継承するアダストリア「ファウンドグッド」の実像に迫る』
(2024年02月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 2月15日19時06分配信の日経速報に量販店業界とアパレル業界は度肝を抜かれたに違いない。イトーヨーカ堂の直営衣料品撤退は何とアダストリアへのバトンタッチだったのだ。何事も一歩引いて鳥瞰する私も夕食も早々に即、車を飛ばしてイトーヨーカ堂木場店に向かった。これはそのインプレッションリポートだ。

 

■「FOUND GOOD」は衣料品平場を代替できるか

 イトーヨーカ堂は2月15日に木場店(東京都江東区)と立場店(横浜市泉区)にアダストリアが商品供給するSPA平場「FOUND GOOD」を開設した。なぜ敢えて「SPA平場」として「SPA業態」と区別したのか、そこにこそ直営衣料品売場に代替する意味があるからで、順を追って検証したい。

 GMS(総合量販店)の衣料品売場はモールのアパレルチェーンに対抗するかのようにティーンズからシニアまで客層別テイスト別のショップ群で構成し(米国ではメインストリートコンセプトと言う)、「ユニクロ」に対抗するSPA型ファミリーカジュアル業態を中核に据えるのが近年の定石になっていた。イオンリテールは幾度も挫折しながら自ら開発した「縦売り型」SPAの「トップバリュコレクション」で「ユニクロ」に対抗しているが、イトーヨーカ堂は90年代から何度も挑戦しながら開発に挫折し、ついには自社開発を断念してアダストリアにバトンタッチした。

リージョナルのGMSチェーンもアダストリア(イズミの「SHUCA」、23秋立ち上げは40品番)やワールド(ベイシアの「YORIMO」、23秋立ち上げは63品番)と組んだオリジナル企画のショップを導入しているが、婦人服だけで売場の規模感も数十坪と限られ、客層別テイスト別ショップ群の一角を出るものではないから、衣料品平場の中核を丸ごと任せるというイトーヨーカ堂とアダストリアの取り組みは突出している。だからこそ「業界騒然!」となったのだ。

「FOUND GOOD」はイトーヨーカ堂衣料品売場の30〜40代子育て世代向けカジュアル衣料平場を担うもので、店舗によって330〜990平米の展開になるとしているが(木場店は700平米弱)、50代以上を対象としたミセス婦人服/アダルト紳士服やビジネス、フォーマル、子供服の平場は別途存在する。それらは先々はメーカーブランドのコンセ群だけで構成されることになるのだろうが、イオンリテールは子育て世代向けの「トップバリュコレクション」に加えて「スポージアム」でアクティブスポーツウエアもカバーしているし、子供服は巨大なライフスタイル業態「キッズリパブリック」で一歩も引かないでいるから、「FOUND GOOD」だけで衣料品平場を代替できるとは思えない。

「子育て世代向けSPA平場」と言っても「FOUND GOOD」は多様なテイストのバラエティをカバーする性格ではなく、「ゆる抜けて着回せる軽快で機能的なナチュラルモードカジュアル」に統一されているから、エレガンスカジュアルに着こなすミッシー系やスタイリッシュモードに着こなすバリキャリ系(「PLST」をイメージして下さい)の客層はカバーできないし、トラディショナルなノンエイジ「ライフウエア」の「ユニクロ」とも客層はそれほど重ならないだろう。「ユニクロ」は不可欠なテナントとして並列するとして、「FOUND GOOD」がカバー出来ないミッシー系やバリキャリ系はブランドコンセで対応するのだろうか。

「FOUND GOOD」は「子育て世代向け」としたが、商品構成はウィメンズ50%、メンズ25%、キッズ5%強、(他に服飾雑貨と生活雑貨が20%弱、私が売場を見た印象です)と子供服の展開が限られるのは課題が残る。子供服は一応110〜150cmをカバーしているが、トドラーのボーイズ/ガールズ、トゥイーンズのボーイズ/ガールズ、それぞれに求められるテイストやアイテムをカバーしているわけではないから、おまけの域を出ない。直営衣料撤退と言いながらも子供服は直営を残すのだろうか。あるいは子供関連は別のアパレルと組むのだろうか。

ウィメンズとメンズは基本、ボトムとアウターはS/M/L/XLの4サイズ、トップスはS/M/Lの3サイズ展開だが、かっちり締まった作りの「ユニクロ」に比べれば素材が薄くて柔らかいものが多く、セットアップやオケイジョンドレスを除いてはゆる抜けた着こなし(オーバーサイズではない)が想定されているから(ボトムの多くはウエスト・ゴム仕様)、「子育て世代向け」としてはサイズのカバーは十分と思わる。

ウィメンズを例にとれば、オフ/ベージュ/キャメルのウォームカラーをベースに、サックス/ネイビーのクールカラーをコントラスト、ピンクやイエロー、グリーンなどフルーツカラーをアクセントするナチャラルなカラーパレットで、黒やグレーなどニュートラルカラーはオケイジョンアイテムに限られる。カラー面でもバリキャリ系やメンズのスタイリッシュモード系はターゲットとしていないのが判るが、「グローバルワーク」が部分的ながらカバーしていることを思えば幅を持たせても良かったのではないか。

 

■価格と品質は受け入れられるか

 注目される価格帯は「イトーヨーカ堂衣料PBと同等かやや安い」とアナウンスされているが、アイテム毎のプライスラインを比較しても「お値打ち」は判らない。

ミセス好みのエレガントな素材やジャストなフィット、規格通りにコンサバな縫製仕上げの旧イトーヨーカ堂PBと、子育て世代向けの機能的でカジュアルな素材やゆる抜けたフィット、必要なポイントを押さえた縫製仕上げの「FOUND GOOD」を同列に比較するのは難しい。「子育て世代向けカジュアル」のお値打ちを評価するなら「ユニクロ」と比較するべきかも知れないが、コンサバなナショナルブランドの文法に立脚した「ユニクロ」の堅めなものづくりと端から今風のゆる抜けたカジュアルウエアリングを前提とした「FOUND GOOD」の緩いモノづくりは次元が異なる。むしろウエアリングが近い「GU」と比較すべきだろうが、「GU」の価格帯は旧イトーヨーカ堂PBや「ユニクロ」よりひとクラス安いロワーポピュラープライスだから、「FOUND GOOD」は割高に見えてしまうかも知れない。

 「FOUND GOOD」の価格帯は税込(以下同)でウィメンズのボトムが2900〜4900円、ブラウスが1900〜3900円、カットソー900〜4900円、アウター3900〜9800円と報じられているが、これは「ユニクロ」のボトムライン〜ミドルライン(松竹梅の竹梅)に相当する。最近の「ユニクロ」は一格高いグローバルポジションを志向してか価格が上振れしており、ボトムライン〜ミドルラインは従来のアパーポピュラーレンジ(大衆価格)に収めても、品質訴求のアパーラインはひとクラス上のロワーモデレート(専門店価格)になっている。

「FOUND GOOD」の綿アイテムはミドルライン相当だが、「ユニクロ」の度詰めな素材と比較すればやや割高に感じられる一方、合繊アイテムはボトムラインかさらに安いアイテム(6600円のセットアップなど)もある。合繊ビジカジアイテムは「スマイルシードストア」(アダストリアの生活圏業態で「GU」価格)かと思うぐらい安いが、ウィメンズの合繊パンツなど素材のチープさが目立つ商品もあり、ミセスが支持していたイトーヨーカ堂のPBに較べれば明らかに落ちる。

 ウィメンズの布帛素材がかつてのイトーヨーカ堂PBに比べて薄く柔らかく頼りない一方、メンズやキッズの布帛素材は「ユニクロ」に近い腰があって安心感があるが、その分、メンズのナイロン系アウターなどはワンランク高いプライスが付いている。残念だったのはメンズのドレスシャツ?で、ビジカジ感覚のややカジュアルな素材を使いながら後台襟の高さが5cmもあるのは時代錯誤に感じられた。ビジカジのワークシャツなのにガチガチのドレスシャツみたいにたたみ仕上げしてビニール袋で陳列しているのもコンセプトを逸脱しており、試着を困難にして販売機会を妨げている。

綺麗め仕上げのキッズはニットなど価格に勝る品質感があるが、綺麗めなお出かけアイテムやスクールアイテムと汚し放題の遊び着は素材も縫製仕上げも分けて考えるべきだろう。それはウィメンズやメンズも同様であり、品質の課題というよりTPOによる素材や縫製仕上げの違いが割り切れていない点が指摘される。

 品質評価は見る人の視点や使い方で異なるもので、ファミリーマート「コンビニエンスウエア」のスウェットや撥水パーカーはこき下ろす人がいれば褒め上げる人もいて、YouTubeやXは論争の花盛りだが、炎上すればするほどファミリーマートに訪れる人も増え、論争になったアイテムは売れ切れる店が続出しているようだ。「FOUND GOOD」も数日内にわたぬき社長やMBなどうるさ方が実品を購入してまな板に載せ、素材やパターン、縫製始末を検証してこき下ろしたり褒め上げたりの炎上状態になるに違いないが、多くの消費者に知ってもらうには良いことだと思う。開発者も、さまざまな評価を参考にして商品企画のピントを修正していけば良いのではないか。

 課題は、そんな「FOUND GOOD」の商品が「ユニクロ」や「GU」、「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」、「スマイルシードストア」や「coca」など多数の強力なライバルに伍して「子育て世代」を取り込めるか、テイストやウエアリング、品質感のギャップから離れていくであろうミセスやアダルトの減少を上回る客数増を果たせるかだが、そこには個々の商品企画だけでなく購買立地に適したストア・マーチャンダイジングとサプライが問われる。

 

■購買立地と「縦売り」「横売り」

 衣料品の店舗販売では購買立地とマーチャンダイジングの適合が必須で、立地と噛み合わなければ客数が足りずに在庫が回転せず、事業は行き詰まってしまう。大きくは大商圏の「買い回り」立地と生活圏の「最寄り」立地に対比されるが、イトーヨーカ堂など大半のGMS(総合量販店)は後者に立地している。多数の店揃えから選択される「買い回り」立地ではキャラクターを明確にして客層を絞った方が売上を確保し易いが、較べる店が限られる「最寄り」立地では幅広い客層をカバーするバラエティがないと売上を稼げない。

 GMSの購買立地を理解するには、もう少し細分化する必要がある。コンビニが立地するような近隣圏(商圏人口概ね5000人前後)、「しまむら」やドラッグストア、食品スーパーが立地するような生活圏(商圏人口概ね2万5000人前後)、パワーセンターやCSC(コミュニティセンター)が立地するような地域圏(商圏人口概ね10万人前後)、RSCやターミナル商業施設が立地する広域圏(商圏人口概ね40万人以上)の4段階だ。GMSの単独店舗は地域圏に立地して箱型CSCを形成するケースが大半だが、RSCの核店舗は広域圏に位置づけられる。

 イトーヨーカ堂の場合はイオンのようなSC戦略に出遅れて「アリオ」も挫折したから、郊外店や地方店の大半は地域圏立地で、首都圏などの駅前(と言うより駅裏)立地や商店街立地も最寄り性が強い地域圏立地というのが実態だ。ゆえにイオンスタイルストアのようにRSCの核店舗として「客層別/ニーズ別のショップ群で構成する買い回り型の大型衣料品売場」という選択は難しく(イオンとて上手く行っているとは言い難いが)、限られた地域圏顧客を広くカバーする「最寄り性の平場編成」を選択するしか無かったとも思われる。

それはローカルのGMSも同様で、中国〜九州に展開するイズミは自前の平場とブランドコンセを組み合わせて上手く地域圏に対応している。その姿は黄金期のイトーヨーカ堂衣料品売場を彷彿させると言って仕舞えば皮肉に聞こえるだろうか。

 最寄り性のマーチャンダイジングは限られた商圏客数を広くカバーすべくバラエティを揃える「横売り」、買い回り性のマーチャンダイジングは多数の商圏客数を選択的に捉えて深掘りする「縦売り」が定石で、その違いは「SKUあたりフェイシング量」に顕著に現れる。

 「縦売り」の典型とされる「ユニクロ」では店頭のフェイシング量を半ダース以上積み上げるアイテムも少なからず、後方のストックにも積み、さらにはDC(棚入れ保管する倉庫)に店舗在庫を上回る補給在庫を積み上げて同一商品を継続販売している。その一方、生活圏の「しまむら」ではアパレルの店頭在庫は各一を基本に、後方にもTC(組み替えて通過するのみの倉庫)にも補給在庫を持たず、自動振替の店間移動で欠品に対応して、売れ筋には類似商品の期中調達(リレーMD)で対応している。それが2.85回(国内ユニクロの23年8月期)と7.48回(「しまむら」事業の23年2月期)と言う在庫回転の差をもたらしている。

 「ユニクロ」は大半の商品が販売期間の長い継続商品であるのに加えて品番あたりの色数やサイズ数も多く(素材の調達ロットを大きくして圧倒的コスト優位を確保している)、主力アイテムは一品番で数坪の展開もあって平均して坪あたり1品番という感覚だが、「しまむら」はテイストやアイテムのバラエテイを売り切りで切り替えていくのに加え、色数もサイズ数も絞られているから、シーズン初期の坪あたり4〜5品番がシーズン末期には10品番を超えてしまう。

※SKU(Stock Keeping Unit)・・・品番を色・サイズまで細分化した管理単位でバーコードで管理されるが、絶対単品(製造番号)管理が必要な生産・流通のトレースや自動精算にはRFIDが使われる。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC。

 

■「横売り型の平場SPA」という絶妙のストライク

 「FOUND GOOD」はざっと売場を点検した印象で正確さは欠くが、アパレルは1品番が3〜4色/3〜4サイズでSKUあたりフェイシング量は各2でほぼ統一されていたから、坪あたり2.5品番ぐらいになる。「ユニクロ」というより「しまむら」寄りだが、「しまむら」の期初に比べれば半分ほどの密度だ。

商品供給契約で各店舗への配分はイトーヨーカ堂が数入れしているはずだからイトーヨーカ堂側の政策かも知れないが、「ユニクロ」のように大きくフェイシング量を積み上げた品番は見られなかったから、基本的には「横売り型」の平場をSPA化した性格だと思われる。だから敢えて「SPA業態」と言わず「平場SPA」と言ったのだ。

 アダストリア側がDCに補給在庫を積んでVMIサプライするのか、補給在庫は抱えず好調アイテムを素材替えや柄替えしてリレーサプライするのかは知る由もないが、「ユニクロ」のような台帳フェイスは見られなかったから、基本は新規投入とリレーサプライで回していく「横売り」スタイルと見て良いだろう。さすればシーズン末期には坪あたり5〜6品番のバラエティになっていくと思われる。

 同じ「横売り」でも坪あたり品番数は「しまむら」の半分で、フェイシング量は各2と倍だから、生活圏立地の「しまむら」の4倍程度の商圏人口(地域圏立地)を想定していると推察される。これはイトーヨーカ堂にとって無理のない合理的な想定で、例外的な好立地店舗はフェイシング量を積めば済むことだ。

今はほとんど失われてしまったかも知れないが、90年代初期までのイトーヨーカ堂衣料部門は下手なアパレルチェーンには想像もつかないほど卓越した在庫編集消化スキルを誇っていた。当時の私がスタッフを総動員して4週間かけた強襲調査でその編集手法をマニュアル化したほどだが、その価値を理解出来る衣料品小売業者は限られた。私の知る限りアダストリアの在庫編集消化スキルはその水準には遠いから、もしも当時のスキルが伝承されていればアダストリアが学ぶべきだろう。

 裾値アイテム素材のチープさ、手薄なキッズ、捉えられる客層の限界など指摘すべき課題は少なくないが、イトーヨーカ堂が置かれた購買立地に適した「横売り型の平場SPA」という絶妙なストライクゾーンを捉えただけで絶賛する価値がある。「業界騒然!」となって当然だと思う。

 

 

 

 

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