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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ドンキ流オフプライスストアのお手並み拝見』(2020年03月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ドン・キホーテは3月24日、名古屋郊外の「MEGAドン・キホーテUNY大口店」2階にドンキ流オフプライスストア「オフプラ」の1号店を開設し、ゲオの「ラックラック・クリアランスマーケット」、ワールドの「アンドブリッジ」に続きオフプライスストアに参入した。

先行二者とどこが違うの?

 まず「オフプラ」は先行する二者とどこが違うのだろうか。売場面積は960平米と先行二者と大差ないが、同じ郊外生活圏でもGMS(総合スーパー)内という立地が微妙に違う。これはドン・キホーテ内に多店化して衣料品・服飾品を強化するというパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)社の戦略と思われる。

 ブランドのクラス構成とカテゴリー構成をクロスして見ると、先行二者とは性格が大きく違うことが分かる。高価格帯10%/中価格帯60%/低価格帯30%というバランスは「アンドブリッジ」に近く見えるが、メンズウエアが40%とレディスウエアの20%の倍も占め、シューズの大半がブランド物スニーカーで、アクティブカジュアルが大半を占めるやや男っぽい構成だ。高価格帯10%の目玉がレア物ラグジュアリーストリートブランド(Supreme)の店頭購入商品だったり、NIKEの極レア厚底品番だったりするマニア志向はドンキそのもので、ドンキと同じ多重キー&警報装置付けガラスケースにこれみよがしに陳列されている。

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 最も大きな違いは、先行二者が国内調達であるのに対し、「オフプラ」はドンキの在庫品を除けば全て海外調達という点だ。調達ルートは1)メーカー/ディストリビューターの放出品60%、2)オフプライス業者の二次流通品6%、3)小売店放出のバラ残品14%、4)ドンキの在庫品20%で、4)を除けば国内調達はゼロ、米国調達が60%、欧州調達が40%。ディストリビューターとは在庫を抱えて小売店に供給する問屋のことで、在庫を抱えず棚割りサービスなどを提供するブローカーと区別して使われる。小売店の放出在庫は主にMacy’sで、間に二次流通業者が入っていると思われる。

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 海外100%という調達は戦略的な選択なのかもしれないが、国内調達に比べて有利とも安全ともサスティナブルとも言い難い。欧米商品はフィットが違うし国内調達より不安定で、インボイスも疑わしく偽造品が紛れ込むリスクも否定できない。実際、せっかく調達したのに真贋が疑わしいとしてPPIHの知財部に没収された商品もあるという。それでも国内では絶対に調達できないブランドが手に入るというトレジャーハンティングの旨味も捨て難く、TJX(TJMaxx/Marshalls)では世界12カ国にオフィスを配して100カ国以上の2万1000ベンダーから調達している。

 とはいえ、ファッションはローカルなもので、それぞれの国にブランドと顧客の関係があり、ワールドの「アンドブリッジ」など身近で知っているブランドがオフプライスでそろうメリットは大きい。そこに「オフプラ」のもう一つの課題がある。

価格表示が分かりやすく統一されていない

 オフプライスストアの魅力は値引き販売であり、ブランド正価からのオフ率か絶対的低価格が問われる。知名度のある中高価格ブランドでは正価からのオフ率訴求、知名度の弱い低価格ブランドでは絶対低価格のプライスライン訴求が必要だが、海外調達のブランドでは元のMSRP(Maker Suggested Retail Price メーカー希望小売価格)が曖昧で、ブランドメーカーやプロパー販売店のプライスタグが付いていればともかく、欠落していれば元価格が明示できず値引き訴求が難しい。

 米国最大手のTJXではプロパー販売店やメーカーのプライスタグが欠落している場合、自社タグに独自に調査した市場価格(COMPARE PRICE/MSRPよりやや低め)を表記して値引き価格を併記しているし、他社でもMSRPと自店販売価格を併記するのが一般的だ。ワールドの「アンドブリッジ」は国内で名の知られているブランドをブランドのプライスタグをつけたまま販売してメーカーのバーコードで単品管理しているから、そこにオフ率シールを貼り付ければ顧客にも分かりやすい。ところが「オフプラ」ではメーカーや小売店のプライスタグが欠落している商品が多く、付いていてもドルやユーロ表示で日本国内での小売価格を顧客がつかみにくい。ならばTJXのように自社タグにドンキが独自に調査したCOMPARE PRICEと自店販売価格を併記するべきだが、そこまで詰めることなくあたふたと開店させたと思われる。

 販売消化に関しても、オフ率40〜50%からスタートして4週ごとに売価を見直してマークダウンで消化し、店間移動は考えていないとしているが、郊外の生活商圏店舗ではそれでは消化が進まない。都心の高効率店舗への集約など、店間移動の手順も詰めておかないと在庫消化に窮することになる。

 オフプライスストアにとって価格表示は生命線であり、表示方式と売価変更、店間移動の手順を詰めないままでの布陣は安易に過ぎる。他にも売場の姿見とお試し空間の配置、集合フィッティングルーム周りの姿見やお試しトルソーの配置など購買プロセスの詰めが甘く、混乱が危ぶまれる。夏に予定されている2号店(MEGAドン・キホーテ渋谷本店7階)までにぜひとも改善してほしい。

ドンキ流圧縮陳列ではなくDS的量販陳列

 1号店は間口2.5ブロック×奥行き5ブロックの960平米に150ブランドの3万3000点をそろえているが、店頭から一見してドンキ流圧縮陳列に見えるのは店頭左端のシーズンカットソーと服飾雑貨のワンブロックだけで、他の10ブロック(エントランスとレジ、集合フィッティングルーム(FR)で1.5ブロック取られている)はむしろ同一商品の縦積みが目立った。

 圧縮陳列に見えるワンブロックも、ドンキ流の派手なPOPの満艦飾がそう見せるだけで、実際は同一商品の大量陳列がほとんどだ。290坪に150ブランドの3万3000点ということは、14%ほど混じる小売店(Macy’sが大半)の放出バラ残品を800品番の4600点と見れば、縦積み商品はざっくり1000品番の2万8400点ほど。86%を占める縦積み商品だけ取れば、1品番当たり0.25坪という量販陳列で、肌着や靴下の一部は棚割り陳列して後方から補給しているように見える。

 これは低コスト海外調達ゆえの機会の限定とロットの大きさが要因であり、ブランドのバラエティも品番のバラエティもオフプライスストアとしては限られ、むしろディスカウントストアに近い。調達を海外に限定して国内の多様な調達機会に目をつむったため、バラエティも鮮度も限定されたきらいは否めない。今後の販売消化に機動的に対応するためにも、広範な顧客に分かりやすいブランドぞろえを実現するためにも、国内メーカー/問屋/二次流通業者も活用すべきと思われる。

 売上予算は開示されなかったが、商品単価2000円から当初値付け総在庫は6600万円、坪当たり22万7000円ほど。ユニー衣料品の販売効率と同じなら年商は2億円、在庫回転は3回、セオリー通り1.5倍の販売効率となるなら年商は3億円、在庫回転は4.5回まで伸びる。車アクセスに限られた郊外生活商圏の低効率GMS内だけに、広域から集客して爆発的売上げとなる可能性は低く、このレンジのどこかに収まることになるのだろう。

ドンキ流オフプライスストアは未完成

 ドンキの「オフプラ」を総括すれば詰めのバランスを欠いた未完成業態と言わざるを得ず、以下4点の解決が急がれる。

1)グローバルブランドばかりでローカルブランドがない

 海外調達に限定してはブランドのバラエティも品番のバラエティも顧客の幅も狭くなり、フィットや価格表示にも課題があるから、好ましい選択とは思われない。国内調達なら今シーズン品も部分的ながら調達可能で、鮮度訴求という点でも早々に国内ルートに門戸を広げるべきだ。都心のドン・キホーテ内店舗なら差別化になるのだろうが、郊外生活圏MEGAドン・キホーテ内も含めた多店化を意図するなら、ローカルブランドの調達は必須と思われる。

2)ブランド数と品番数が限られ同一SKUを縦積みするディスカウント型

 国内ブランドのバラエティを欠くため全体にブランドの幅がなく、品番数も限られて同じ商品を縦積みする広域ディスカウントストア型で、生活商圏立地とはギャップがある。国内とりわけ女性向けの知名度あるブランドを拡充し、生活商圏の日常消費に対応すべきだ。

3)価格表示が統一されておらず市場価格(正価)と比較できない

 海外調達ゆえブランドの小売価格が不明確で、それをカバーするCOMPARE PRICEなど元正価との比較表示が定まっていない。売価変更と店間移動による消化プロセスも含め、根本的な問題だから早急に解決すべきだ。

4)少人数運営のセルフ販売だが姿見やFRが極めて少ない

 レジカンターでの精算とマテハン/陳列に人員を集中して売場に人員を配さず、セルフでの購買を前提としているが、売場内の姿見やお試し空間など、それに必要な購買プロセスの設計が甘く顧客の購買がスムースに進まないリスクが指摘される。売上げに直結する課題だけに、早急な解決が望まれる。 

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