小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『「ユニクロ:シー」と「ニュートラルワークス.」に共通する心地よさの理由』
(2023年08月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ショッピングセンターのイベントで申込者が殺到するのが骨格診断やパーソナルカラー診断で、ネットでもそれらをハッシュタグにして誘導するECサイトが少なくない。骨格診断やパーソナルカラー診断をメイクや装いの指標にする人も多く(大半は女性だが)、骨格タイプ別に商品企画しているのではと思われるアパレルチェーンもある。販売促進で効果を発揮している骨格診断やパーソナルカラー診断が、商品企画でも新たなマーケティング手法となるのではないか。

 

■着崩し出来る「ユニクロC」ショック

新宿フラッグスのユニクロで「ユニクロC」のキャンペーンで打ち出されていたトレンチコート(税込12900円)を試着してみたが、従来のユニクロとは全く異なる「ナチュラル系」(骨格質のスタイリッシュなタイプ)のオーバーサイズで抜けて着崩せるパターンにショックを受けた。

 身長175cmの骨格質の男性の私が試着したと聞いて違和感を覚える方もあるかもしれないが、「ユニクロC」はウィメンズだけの企画でも、メンズも着られそうなアイテムはメンズ売場にもサイズを揃えて何箇所も陳列しており、男性客向けにも積極的に販売している。ウィメンズのLサイズを試着したら通常のメンズのXLサイズぐらい大きめで、Mでも抜けて着れそうなパターンだったのには驚いた。

アングロサクソン的な「ナチュラル系」(骨格質)のパターンはジル・サンダーと組んだ「+J」とも共通するステルスリュクス的品質表現で、セオリーから流れるユニクロのDNAにも潜んでいるはずだが、保守的なパターンの通常商品は骨格質に肩で抜く着崩しは望むべくもないと思って来た。

 ユニクロは男女兼用アイテムを強化しており、「バブアー(Barbour)」風のユーティリティショートブルゾン(税込6990円、襟コーデュロイ切り替えだがオイルコーティングではない)などXSから4XLまで8サイズ展開しているが(カラーはブラック、ブラウン、オリーブの3色展開)、丈短めの腰回りがやや台形に広がったパターンでレイヤードし易く設計されている。オンラインサイトのスタイリング写真や店頭のディスプレイはそんなパターンを表現できていないのは残念だが(オーバーサイズで衣紋を抜くように着れば裾が広がる)、『ユニクロはかっちりした保守的なパターンで着崩せない』という固定観念を改めるべきかも知れない。

 「ユニクロC」のパターンはオーバーサイズの「ナチュラル系」(アングロサクソンタイプの骨格質)という話からユニクロのジェンダーレスな販売と気崩せるパターン進化に脱線したが、アパレルのマーケティングや商品企画は骨格タイプやパーソナルカラーと言う視点で見直されても良いのではないか。

 

■集客効果からプロフェッショナルサービスへ

 ショッピングモールからファッションビルまで、イベントに並ぶうら若い女性の行列を見かけたら、タレントがらみでなければ骨格診断かパーソナルカラー診断だと思えば良い。どちらも予約制で税込1,000円の参加料金がかかるケースが多いが(所要時間15〜20分)、商業施設のアプリ登録による割引やお買い物券の進呈で実質、半額か無料になるケースが多い。

 近年は商業施設の女性向けイベントの定番になった感があるが、それはECサイトも同様で、「骨格診断」や「パーソナルカラー診断」で検索すれば、ファッション系やコスメ系のECサイトがズラリと出てくる。ベルーナやセシール、ピーチジョンなどの通販系はもちろん、ユニクロやストライプ、ユナイテッドアローズやベイクルーズ、コスメではアイスタイルや資生堂まで、こちらも定番になっている。骨格診断やパーソナルカラー診断の設問に回答すれば、タイプに合った自社商品のスタイリングやアイテムをリコメンドしてショッピングに誘導している。

 ネットのリコメンドはもちろん商業施設のイベントも実質無料が多いが、サロンでの時間をかけたパーソナルカウンセリングとなると1万円を超えるようで、著名なイメージコンサルタントだと数万円という料金になる。それでも女性の関心は高く、チェーン展開しているサロンも少なからず見られる。

よほど志望者が多いのか、カウンセラー(あるいはセラピストとか名称も様々です)を育成する協会やキャリアスクールも乱立気味で、さまざまに資格取得(それぞれの団体の勝手資格であって国家資格は存在しない)の研修やイベントの運営を行なっている。資格取得の受講料はオンライン講習の数万円から十数回の講座に通うコースともなれば数十万円にもなるから、習い事の家元や専門学校のようなビジネスが成立している。女性の資格取得ニーズは強く、医療事務や介護事務からネイリストやカラーリストまで時々の流行もあるようだが、近年の骨格診断やパーソナルカラー診断の人気は突出している。

 体型・骨格・肌の色はもちろん目の色や髪の色も多様な欧米では専門的なニーズが高く(金髪碧眼は少数派で赤毛を染めてカラーコンタクトを入れる人が多い)、特別料金を要するカラーリストが常駐するヘアサロンも少なくないと聞く。欧米に比すれば我が国の骨格診断やパーソナルカラー診断は未だ導入期のブーム状態だが、いずれ専門的スキルを極めたスタースペシャリストがブランド化し、衣料品や化粧品の流通のみならず商品開発も変えていく可能性がある。

 骨格診断やパーソナルカラー診断の視点でアパレルブランドやアパレルチェーンのテイストやパターン、カラーリングを検証すれば、マーケットの様相も違って見えるのではないか。

 

■骨格タイプとパーソナルカラーってこんなもの 

骨格は基本3タイプに顔の骨格や歯並びも加わると多様だし、パーソナルカラーも顔色・眼色・髪色に季節イメージも加わると16タイプもあるそうだから(もっと細分化する手法もある)、門外漢でも分かる骨格の基本3タイプ、パーソナルカラーの基本2タイプに、ごく一般的な色相・明彩の概念やフィットを加味して有力アパレルを当てはめてみよう。最初に骨格の基本3タイプとパーソナルカラーの基本2タイプを簡単に紹介するが、ファッションマーケッターの理解なので専門の方から見ればズレがあることをお断りしておきたい。

 

【骨格タイプ】

A)ウェーブ・・・・華奢で薄い脂肪質の曲線的な柔らかいボディで下部に重心があり、柔落ち感のあるフェミニンな服やソフトコンシャスなフィットが似合う。

B)ストレート・・・厚みのある筋肉質のグラマラスボディで上部に重心があり、ハリコシ感のシャープな服やボディコンシャスなフィットが似合う。

C)ナチュラル・・・腰の位置が高い骨格質のスタイリッシュボディで、マスキュリンな服や抜けたフィットが似合う。

 通常はストレート、ウェーブ、ナチュラルの順に並べられるが、最も多数派の女性的なウェーブタイプを最初に持ってきた。タイプの名称はファッション業界の感覚とは乖離しており、ファッションに特化すればウェーブはフェミニン、ストレートはグラマラス、ナチュラルはマスキュリンと言いたくなる。

 

【パーソナルカラー】

A)イエローベース・・・肌は黄みのアイボリーで日焼けすると小麦色になり、瞳や髪は柔らかなブラウンかブラウン系の黒で、ナチュラルカラー(暖色系)の優しさや華やぎのある色が似合う。

B)ブルーベース・・・・肌は青みか赤みのアイボリーで日焼けすると赤褐色になり、瞳や髪は青みのグレーや黒、ブラウンで、クールな淡色や寒色、シャープなモノトーンが似合う。

 

 パーソナルカラーと骨格タイプを組み合わせるとローカルマーケティング的には、イエローベースのウェーブ骨格はスンダ系モンゴロイド(華南漢民族)、イエローベースのナチュラル骨格はツングース系モンゴロイド(華北騎馬民族)、ブルーベースのナチュラル骨格は北欧アングロサクソン、イエローベースのストレート骨格は南欧ラテンと受け取れる。グローバル展開アパレルチェーンのローカル特性を位置付けるには便利な見方だが、髪を染めたりカラーコンタクトを入れない限りは大半がイエローベースの日本人では骨格タイプの比重が高くなる。

 

■有力アパレルをタイプ診断すると

骨格診断のタイプ別に自社企画PBを設定しているのかと見えるのがハニーズだ。OLターゲットのオフィスカジュアル「グラシア」はスタイリッシュなナチュラル系、アラサーアラフォー向けの着回しカジュアル「シネマクラブ」はフェミニンなウェーブ系、トレンド志向の若向けカジュアル「コルザ」はギャル感覚のストレート系を意識しているように見える。多様な立地で成立するよう多数派のコンサバ大人女性(OL以上、ミセス未満)を対象にしているから、総じてナチュラルカラー(パーソナルカラー的にはイエローベース)のフェミニンアイテムが通底しているから全体がウェーブ系とも言えるが、PBは上記の3タイプに仕分けられている。

 ルミネなど駅ビルに勢力を張るマッシュグループのブランドは「スナイデル」からオケイジョンの「セルフォード」、単品パーツの「ミラオーウェン」、ルームウェアの「ジェラートピケ」まで独特のフェミニンな雰囲気が通底するが、骨格タイプで言えばストレート(グラマラス)寄りのウェーブ系に位置付けられよう。ナチュラルカラーのフェミニンアイテムが通底しているが、男性目線のコンサバ系でなく女性目線のグラマラス系であることが企業カラーになっているようだ。

新宿ルミネ2の2Fにはこのタイプが多く、フロア全体に独特の雰囲気がある。新宿ルミネエストのB1はストレート系のギャルからギャル姐でまとまっており、新宿ルミネ2の2Fのストレート寄りのウェーブ系OLに繋がっている。

 バロックジャパンやマークスタイラーなど元ギャル系のアパレルは当然ながら、アラサー向けのギャル姐ブランドも含めてストレート(グラマラス)系に位置付けられるが、パーソナルカラー的にはマークスタイラーの一部ブランドを除けば健康的なイエローベースだ。バロックのクリエイティブな高価格ブランドはストレート系をベースにナチュラル系のシャープさが加味されているように見える。

アングロサクソン発祥のセオリーは骨格的にはスタイリッシュなナチュラル系で、パーソナルカラー的にもモノトーンや寒色系が多いブルーベースだが、ラテン発祥のZARAは骨格的にはストレート(グラマラス)寄りのナチュラル系でも、パーソナルカラー的には暖色系が多いイエローベースに位置付けられる。インディテックスのブランドでも「ストラディバリウス」はウェーブ寄りのストレート系でラテンフェミニンのテイストが通底しており、もとより日本市場では無理があった。そんな見方をすれば、欧米ブランドでも客層は相応に異なることが理解されよう。

 

■骨格×パーソナルカラーとフィットでマーケットを見直す

 骨格タイプやパーソナルカラーだけでマーケットが動くわけはなく、社会構造やライフスタイルの変化が先にあって、新たなウエアリングやデザインと素材やパターン、生産技術の革新が呼応してマーケットが動いていく。

我が国ではウェーブ系の大勢は動かないとしても(韓国や中国はウェーブ系とナチュラル系に二分される)、コロナ禍を経て近代以降に確立された通勤労働と核家族的な男女分担が崩壊した以上、キャリア志向の女性はナチュラル体型でなくてもナチュラル系のスタイリングを志向するだろうし、ストレスフリーなニュートラルウエアリングが広がるに連れ、ストレート体型でも抜けたフィットのナチュラル系スタイリングに流れる女性が増えていくと思われる。

 その意味では、ジェンダーレスなナチュラル系が拡大してグラマラスなストレート系が減少し、コンサバフェミニンなウェーブ系も漸減していくのではなかろうか。とは言っても拡大するナチュラル系は抜けたフィットのニュートラルな「メトロライフウエア」であって、モードの文法に立脚するスタイリッシュな外資ブランドに追い風が吹くわけではない。それらは日本市場においては限られたファッショニスタの顕示欲を満たす魅惑的な麻薬であり続けるのだろう。

 パーソナルカラーも黄味アイボリーの肌に黒目黒髪という素の日本人はイエローベースを出ないが、ヘアダイやウィッグにカラーコンタクトでブルーベースに変身するのは難しくはないし、明らかにブルーベースのモノトーンなストレート系やナチュラル系のブランドも健在だ。アイドルやVチューバーはイエローベースのウェーブ系ばかりだが、コスプレではボーカロイド的なブルーベースも目立つ。

 従来のマーケティング手法に骨格タイプやパーソナルカラーという視点を加えれば、別のマーケットが見えてくるのではないか。ブルーオーシャンを切り開く意外な突破口が見つかるかも知れない。

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