小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔が提言
『販売員問題を解決する4つの方策』(2020年02月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 売上げが伸び悩む中、労働力逼迫による販売員不足と時給の上昇が店舗小売業の経営を圧迫しているが、小型店が多く接客を要して効率化が進まないアパレル小売業はとりわけ深刻だ。そんな中、商業施設デベやアパレルチェーンによるロールプレイングコンテストが花盛りだが、お祭り騒ぎの啓蒙活動では問題は解決しない。根本的な解決には生産性の向上と報酬・待遇の改善が不可欠で、店舗運営の抜本的効率化とプロフィットセンター化が急がれる。

深刻化する販売員不足と伸び悩む年収

 若年世代人口の減少は止まらず就業統計でも25〜34歳就業人口の減少が顕著で、19年12月は09年対比で男性は15.8%、就業率が上昇している女性でも5.2%減少している。その中で販売職は人気がなく、有効求人倍率は16年後半に2倍を超えて以降も上昇が止まらず3倍に迫る勢いで、販売員を確保できず出店や営業継続を断念するケースさえ見られる。パート・アルバイト時給もうなぎ上りで、リクルートジョブズ調査の三大都市圏パート・アルバイト募集平均時給は17年11月に1012円と大台に乗り、19年12月には1072円まで上昇している。

 アパレルの販売職に人気がないのは、業界の景気が低迷していることもあって、労働需給の実勢に反して報酬が伸びていないことも要因と思われる。ファッション業界の転職サービス「クリーデンス」が毎年発表している業界の職種別平均年収調査によれば、販売員の年収はほとんど伸びていない。

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 最新の19年調査では25〜29歳こそ301万円と前年の293万円、14年の284万円から多少伸びたが、30〜34歳は328万円と前年の324万円、14年の324万円からほとんど停滞したままで、35〜39歳は358万円と前年の354万円からわずかに上昇したものの14年の379万円からは減少したままだ。20代こそパート・アルバイト時給の上昇を受けて底上げされたが、経験を積んでも30代で頭打ちになるという現実は厳しいものがある。

 店長こそ25〜29歳で350万円と前年の336万円、14年の319万円、30〜34歳で391万円と前年の381万円、14年の365万円、35〜39歳で430万円と前年の409万円、14年の393万円から着実に伸びているが、管理・指導能力あっての評価で販売員とは分けて考えるべきだろう。

販売員の給料を払える売上げと保守効率

 前述した「クリーデンス」の調査から販売員の平均的年収を330万円と見れば、社会保険料や福利厚生費、通勤交通費などを加えて会社が負担する人件費は年間413万円ほどになる。その人件費を支払うには、売上対比の人件費率が16%なら2581万円、17%なら2429万円、18%でも2294万円売り上げる必要がある。

 19年6月調査のSPACメンバー平均ではリテイラー系で2256万円、アパレルメーカー系で2025万円、平均して2185万円だったから、平均人件費が413万円ならリテイラー系は18.3%、アパレルメーカー系は20.4%の負担になる。利幅が限られるリテイラーは16%、利幅が厚いSPA型で18%、さらに厚いアパレルメーカー系は20%というのが大まかな採算の目安だから、何とか採算が取れる水準といえよう。

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 巨大チェーンでは、ユニクロの国内事業が3119.2万円(19年8月期)、しまむらが3417.4万円(19年2月期)と高く、良品計画(19年2月期単体)は2503.2万円と低い。その他ではユナイテッドアローズが3430.9万円(19年3月期)と高く、ライトオンは2039.1万円(19年8月期)と低い。パート・バイトの正社員換算方式が各社で多少異なるものの、ほぼ実態に近いはずで、それだけ販売員の給料を支払う能力に差があると受け止められる。販売員も年齢とともに人生設計が可能な昇給が必要で、社会負担増が手取りを削る昨今の実情を考慮すれば毎年、1人当たり売上げを相応に伸ばしていくことが小売企業の責務とならざるを得ない。

 1人当たり売上げは販売効率と保守効率に比例する。国内ユニクロの平米当たり販売効率は102.1万円と高く、平均955平米の店舗を30.98人(正社員換算、以下同)で運営して9億6627万円を売り上げている。無印良品国内直営店舗の平米当たり販売効率は70.6万円と国内ユニクロの7掛けに留まり、平均777平米の店舗を21.90人で運営して4億4825万円を売り上げている。しまむらの平米当たり販売効率は24.6万円と格段に低く、平均1008平米の店舗を7.25人で運営して2億4762万円を売り上げている。ライトオンの平米当たり販売効率は29.2万円と低く、平均515平米の店舗を7.37人で運営して1億5038万円を売り上げている。逆算すれば、国内ユニクロは1人当たり30.8平米、無印良品は35.5平米、しまむらは130.0平米、ライトオンは69.8平米を保守運営している。都心型で次元は異なるが、ユナイテッドアローズの平米当たり販売効率は158.8万円と突出して高く、平均256平米の店舗を11.83人(保守面積21.6平米)で運営して4億596万円を売り上げている。

販売員の生産性を伸ばす4つの方策

 この「販売効率×保守効率」のロジックをどうかさ上げるかが販売員問題解決の突破口になる。販売効率を上げるには商品政策や在庫運用からOMO戦略までさまざまな手があるから別の機会に譲るとして、保守効率は「店舗規模の拡大×業務効率の向上」に因数分解できる。店舗規模の拡大が即効的だが、品揃えが伴わないと販売効率が悪化するし過大投資が負担になる。店舗規模を拡大しなくても業務効率を向上させる手はいくらでもあるが、その要は以下の4点ではないか。

1)レイバーコントロール精度を上げる

 店舗運営の作業量が同じなら、曜日時間帯別の必要作業量に無理無駄がないよう適正な人時量を張り付ければ人時量を圧縮できる。人時量は販売額・点数や入店・買上客数、入荷や品出しの数量、フェイシング管理や陳列演出など必要作業量に基づいて時間帯別に割り当てるが、正社員はもちろんパートやバイトの労務基準に従い個人の都合を調整して毎月・毎週のレイバースケジュールを組み立てるのは結構手間取るし(それが心身ともに店長の負担になる)、きめ細かい配慮を欠けばスタッフ間のチームワークを乱しかねない。

 これを的確かつスムースに行うには労使で慎重に話し合った上で「正社員の変則勤務制」を36協定で導入し、パート・バイトも学生や主婦などライフスタイル別に構成し勤務時間帯別に時給を変えて組みやすくするとともに、SNSのグループアプリでカバー状況を見て申請入力してもらう(社員・準社員先行で組み立て、必要時間帯別に時給レートを提示する)。変則勤務制は週間あるいは月間の勤務時間数は同一でも長時間勤務日と短時間勤務日を組み合わせて運用するもので、会社の都合と個人のライフスタイルを両立できれば効果が大きい。

2)必要作業を整理統合して再構築する

 同じ作業でもランダムに分散や重複が発生すると総量がかさむだけでなく、優先すべき他の作業に支障を来すことになる。とりわけ販売ピーク時間帯のマテハン作業発生(在庫探しや補充の品出しなど)は販売機会ロスに直結するので、時間を定めて朝夕のフェイシング管理(陳列整理と在庫補充)を徹底するべきだ。それは入荷や店間移動に伴うピッキングと再編集陳列も同様で、入荷品出しやピッキングがバラバラに生じると何度もやり直すことになって他の作業にしわ寄せがいくから、曜日時間帯(早出の開店前業務)を定めて集中したい。遠隔店も近隣店も到着タイミングを統一すべく物流倉庫からの出荷タイミングをシフト組みするなど、全社レベルで手順を緻密に設計・管理する必要がある。

3)デジタル化で店舗作業を効率化する

 小売店舗の作業はマテハン系、精算系、管理・メンテ系、接客販売系に大別されるが、接客販売系以外は作業が売上げに直結せず、作業がかさめば接客販売を圧迫するという“必要悪”だから、デジタル化して効率化/セルフ化することが好ましい。

 ICタグを導入すれば入荷検品も棚卸しも精算も半自動化・効率化できるし、画像解析AIやキャッシュレス決済(ID決済とは限らない)と連携すれば無人精算・盗難防止も容易に実現する。その分、人時量も削減できるし、接客販売やマテハンに集中できるから、店舗の生産性は確実に伸ばせる。ICタグ(正確にはインレイ機能)は急速に低価格化しているし、スキャニング&サーチングなど周辺機器・機能の向上も目覚ましいから、導入を加速すべきだ。

 マテハンだけはデジタル化でもロボティクスでも自動化は難しいが、フェイシング管理は画像解析AIやICタグによる常時棚卸しシステム(鮮度管理もできる)で可能だし、倉庫ロボティクスと組み合わせば補充商品の後方ピッキングも自動化できる。それでも陳列フェイスへの棚入れとピッキング、陳列演出の作業だけは人が担い続けるのではないか。

4)店舗レイアウトで作業動線を効率化する

 AIやICタグを使うデジタル化もともかく、アナログな手法でも飛躍的に店舗運営を効率化する秘策がある。さまざまな店舗の運用を見てきた玄人なら分かると思うが、店舗は機能レイアウトで運営効率が一変する。今どきは画像AIやiBeaconを使った動線解析で大掛かりに検証するのかもしれないが、現場経験を蓄積した生体スーパーAI(私です)なら一瞬にして問題をつかみ、解決策も即時に回答できる。

 店舗レイアウトの要は商品配置ではなく、レジカウンターとフィッティングルーム、ストックルーム(壁を取り去って売場に組み込むのが理想)の配置関係で運営効率は根本的に変わる。それは運営スタッフの作業動線と顧客の購買動線を決めるからだ。スタッフの作業動線を最短化するとともに、顧客の購買動線と一致あるいは購買動線を阻害しないよう並行させる(クロスを避ける)。

 販売スタッフの動線はレジとフィッティングルームを結んだ線を起点にカテゴリー別の接客空間との間を行き来するくし型になるから、フィッティングを分散させず集中してレジカウンターに向かい合うかT字になるよう配置すると目に見えて効率が上がる。他にも購買心理学的効果もあって買上率や客単価も上がるが、鏡の配置や照明などデリケートな設計が必要だ。

 店舗には陳列空間と接客空間があるが、商品を陳列しない接客空間は売上げを稼いでいないように見えても買上率や客単価を大きく左右するから、カテゴリーごとの最適位置に配置する必要がある。その配置ポイントと商品陳列との関連には法則性があるが、3D的なので言葉で説明するのは難しい。陳列手法や照明も含めた総合的な環境で購買動線と購買リズムを誘導し、スタッフの作業動線(販売動線)と一致させるのがレイアウト設計の要だと思う。

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